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第玖話 隣のお客様からです

 

 

 ………………血湧き肉躍るって、臭い台詞吐いちゃったけど、膠着状態(こうちゃくじょうたい)だから、あんまり湧き・踊るわけじゃないっていうのが正直な場面である。

 表現の自由っていうことを盾に、この発言をしたと裁判官に申し出るが、俺の中での裁判官は死刑(ギルティ)。自分のギャグに厳し過ぎんだろ、俺の中の裁判官……。

 まぁ、使えない裁判官は置いておいて、この灼熱の中ずっと動き回るのは不味いってさっき言ったばっかり何だけど、動き回らないと攻撃避けれないっていうジレンマがあるんだよね。

 だから何ってわけでもないんだけど、流石に体力は残しておきたいなって思うわけよ。

 ふざけた攻撃力は、こいつらが二人いるから起きるわけであって、各個撃破していかなきゃいけないってのが難点なんだよなぁ。

 ずっと二人で動いてるし、距離の取り方も上手いから中々近づけずにいるってのも面倒くさい。はぁ〜、アホくさ。


「ははははぁ!鈍臭いなぁ!」


「すぐ殺せる。やり易い事」


 舐められっぱなしっていうのもうざいよなぁ。

 だからさぁ、俺は体力を無駄に使いたくないって言ってんのよ?まぁ、負け犬の遠吠え感は半端ないけど。

 しょうがない、ちょっとギア上げるか。

 まともに戦って勝てる相手ではないし、体力を温存するのももうやめだ。こいつら相手に体力を温存するなんて勿体無いからな。

 地獄を見せてやろう。

 まず最初に弟(っぽい奴)の顔面に回し蹴りを入れ込み、壁に吹っ飛ばす。

 踵に装着したナイフは当たらなかったが、ダメージレースには勝っているな。

 そして、いきなりのことで、驚いている二人だが……これだけじゃ終わらん。地獄を見せてやると言ったろう?これだけで終わったら地獄じゃない。生ぬる過ぎるからな。

 壁に吹っ飛ばされて、少し硬直してしまった弟(仮)に対して、腹目掛けて踵落としを喰らわせる。

 急に腹を蹴られて(&深々とナイフが刺さって)身体がびっくりしているせいもあり、大量の吐血をする。まぁ、ナイフがついてるから当然だよね!そのままナイフはこいつの腹のとこに残しとこ。

 足についた血を見て、兄の方を見やる。…………そう、お前もこういう風になるんだよ。

 顔がピリついているな。ここは一つ、バーテンダーごっこでもしときますか!

 いらっしゃいませ、お客様。

 こちら、隣のお客様からです。……え?頼んでないって?

 …………こちら、ブラッディ・メアリーに御座います。

 なんて茶番と共に、空中で一回転半回った後に、兄と(おぼ)しき奴の頭に、踵落としをお見舞いする。

 血が湧き出て、ぶっ倒れる直前になっている。

 これは鮮血(せんけつ)と名付けよう。強力な踵落としに名前をつけるっていうのも、なんかダサいような気がするけど、格好は付くだろ。


「何でだよぉ…………!こいつ、急に強くなってよぉ!まだだぁ、まだ終わってねぇ!!」


「よ……そうが、い。急に……うごき、よくなり……すぎ」


 息絶え絶えの様子だが、それでも立ち上がるなんて、主人公みたいだな。感動的だ。実に英雄譚として語られる……良い戦いだ。…………だが無意味だ。

 お前たちは確かに強い。しかしながら、二人合わせて強いんだ。一人一人の能力も素晴らしいが、二人セットでいないとお前たちの攻撃には穴がある。

 お前らが蹴り技をするならば、俺も蹴り技を使おう。

 お前らが拳を出すのならば、俺も拳を出そう。

 ハンムラビ法典……とはちょっと違うか?まぁ、ニュアンス的には一緒なので、無問題としよう!


「鮮月…………それがお前たちを殺す技」


 踵落としをもう一度繰り出すが、同じ技を喰らうほどこいつらも間抜けではない。間抜けではないからこそ、この技は喰らう。

 踵落としをするモーションを見せてから、落とす直前に足を折りたたみ、蹴り技の鮮月を繰り出す。

 蹴りを極限まで強くし、刃を三日月状に飛ばす蹴り技である。これは鮮血からのコンボ技で、加速を使って足に力を溜め一気に解放する技である。

 これを喰らった兄(だと思う)は、体が真っ二つに割れたため、ここでダウンしてしまった。流石に真っ二つにしたら動けんだろう。

 弟の方は、もうこの場にいなかった。

 兄を置いていくなんて……非道い弟だなぁ。非道いのは俺か。こんな仲の良さそうに見えた兄弟愛を文字通り真っ二つにしてしまったのだから。

 さて……追いかけるか。



________________________



「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


 その男は、自分の保身に走っていた。正しく、今現在走っていた。

 勇敢な人間ではあったが、自分よりも強い兄を殺されて、自信が喪失しているのか……。

 それも無理もないだろう。弟は元は病弱で、外には元気に出ることすらできなかった。途中、異能が発現するまでは。

 その才能を見込まれて、この研究施設に入ってきたのだから。

 兄には悪いが、自分の生命が可愛くなってしまったのは、無理もない話だろう。

 ここまで逃げれば安心というところまで行くしかない……………しかし、後ろからはあの悪魔(華恋)が迫ってきているのは自明の理だろう。

 いつ自分は追い付かれるのか、自分はいつ死ぬのかを考えると涙が出てくる。死ぬほど怖いことなぞ、そんなにないとも思っていたが、自分よりも……兄よりも強い人間なんて数えるほどいなかったものだからだったということに気が付かされる。

 少し遠くまで来てしまったが、ここまでくれば安全だろうと、少し息を落ち着かせる。

 ここをずっと拠点にするのは無理だろうと考えているが、自分はダメージを喰らっている状態で、そこまで長い距離を走ることはできないと、落ち着いた時に気がついた。

 それぐらい夢中で前に走っていたのだ。

 コツコツと音がするだけで、びくついてしまう。

 これも、あれも、それも……あの女が原因なのだろうと、弟は考える。

 途端に怒りが湧いてきて、途轍もない衝動に駆られる。あぁ、彼奴は倒さなければいけない敵だと、自分は判断する。

 腹に刺さったナイフは、まだ抜かないほうがいい……止血するのは大変だと知っていたからだ。

 決意を滾らせ、いざこの場所から動こうと勇むと、そこで異変に気がつく。自分に刺さっていたナイフが腹から無くなっていたことに。

 滝汗が出て、恐怖に顔を歪める。後ろを振り返りたくない。後ろを見たくない。やめろ見るな!と、ら体から最大限の警鐘が鳴らされる。しかし、振り返られずにはいられないだろう。

 一時の安寧を求めるためには、後ろに敵がいないか確認をしなければならないからだ。

 ゆっくりとゆっくりと首を動かすと、そこに死神(華恋)が立っていた。

 ゆっくりと口を動かして、弟にこう()げる


「…………じゃあね、バイバイ」


 短い言葉であったが、その言葉の意味を理解するのに、そこまでの時間は要さないだろう。

 首と胴体がなき別れて、自分の身体を見る弟。

 沈みゆく意識の中で、よく戦ったと自分を褒めてやりながら、息を引き取る。

 華恋は、黙祷を捧げてから次の階層へ向かう。

 逃げた人間に情けをかけるほど、情は深くはないが……最後の最後に決意を昂らせた人間に対して惨たらしいことをするのも違うと判断したのだろう。

 その亡骸には手をつけず、進んでいく。

 自分の後ろに積み上がった髑髏(しゃれこうべ)たちに顔向けができないと言ったような……そんな雰囲気を出しながら自分の道を突き進む。

 もう、誰も命を奪わなくて良くなるように。

 華恋も、決意を滾らせながら次なる階層へ降りていった。



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