第陸話 髑髏は太陽を見る
自分の成長をは【強化】するといきなり言われても、よくわからない方もいらっしゃるだろう。
自分の成長を一時的にだけだが【強化】し、自身の体を大きくしてやろうと言うのが早い話だ。
俺のロリ体型がお気に入りのようなので、その夢をぶち壊すかのように体が大きくなれば、流石の性欲お化けのこのトブカス野郎の注意はそらせるはずだし、何よりリーチが長くなる分、自分に有利な状況の方が多い。
そのため、自身の腕力や握力、足力を単純に【強化】するのではなく、成長を【強化】させることが今回の戦闘を打破できるのではないか?と考えた。
よし、それじゃ早速成長をしていく!
体の骨の部分が軋む。筋肉が千切れるような感覚が走る。それを上から【強化】していく。
継ぎ接ぎだらけの【強化】で、体全体に圧がかかる。
それでも諦めずに、俺は体の成長を早める。
「あらぁぁぁああ、一体何をするのかしらぁあぁぁぁぁあぁああああああ!もしかして、何か新しいものでも見せてくれるのねっ!!!!????この私だけに!特別に!?あはぁぁぁぁぁぁぁん!!!!嬉しいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!早くぐちょぐちょにしてあげたいけど、我慢しなければならないわねぇぇええ!!!」
このドブカスは俺の変化をどうやら見守るらしい。舌舐めずりをしながら、こちらのことを試すような目線で、何もしてこないと言うのが不気味だ。
まじで最悪な気分にさせられるが、それも今だけ。
成長した体を見れば、このドブカスもそれなりの対応になるはずだ。
本当はこの手は使いたくなかったんだが、お前に特別に見せてやるよ。この形態のことは、ただの実験で生まれた偶然の産物に過ぎないが、それでも有効打を与えられるのであれば、惜しみなく使うさ。
自分の精神が変質しているのを感じる。
そもそも、心中でもふざけなくなってきたし、普通に喋れるようにもなってきた。
【強化】の異能の理解を深め、深淵に片足を突っ込んだためか、新たな核心に迫りつつあるみたいだ。
自分が自分ではないような感覚に陥る。
さぁ、見せてやろう。とっておき(でもないが)の俺の変身形態。U-20を。
「な、何よそれ…………何よそれぇぇぇぇぇえええ!!!!!私の知っている華恋たんじゃない!お前は誰だ!!!一体誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!私の!華恋たんを!返せ!!!!!!」
「てめぇのじゃねぇよ、カス。もとより薄汚ねえてめぇのもんになるつもりなんかさらさらねぇぞ。その長っ怠い台詞も聞き飽きたぜ?」
「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!黙れ黙れ黙れ黙れぁぁぁああぁぁあぁああぁあぁぁあぁああああぁぁあ!!!!!!!!!」
あらら、半狂乱になっちゃったよ。…………まっ、いっか。テメェはここで死ね。お前は世の為人の為死ななければならない存在だ。
ここで抹消してやらないと、他の人間に迷惑かけちまうだろう?
だからさ、もういいからさ……いい加減くたばんないと、いけないだろう?そう言う運命に生まれてきたと思って、自分の性を呪うといい。
決していい死に方はさせない。お前は、沢山の人を殺めた…………血の香りが手にベッタリとついてる。最低最悪の香りだ。成長をしたことによって、嗅覚の方も鋭くなったらしく、そう言った細かい部分でも情報を得られることができている。有難い話だ。
そして、俺も地獄に落ちるべき人間だ。俺も同じ穴の狢…………結局多くの命を奪ったことには変わりない。俺だけ許されるなど、そんな幸福はいらない。
だから、改めて言ってやらないといけない。
「五月蝿いのはテメェの発する言葉だよ。もう、おやすみよ。今まで痛めつけた無辜な魂の分だけ、長く苦しんで逝けよ……………………太陽!!」
前、公女殿下の息吹に対して放ったものとは訳が違う。
今の俺が放つものは、その伸びた身長から、腰を捻り力を溜めて回転を使い、一気に解放したものを、このドブカスの顔面に当てる。
眼球は意味をなくし、その入れ物から解き放たれて、歯は使い物にならないほどの変形をし、大量の吐血をして500Mは後方に吹っ飛ぶ。
「な、何故…………無敵、むて、むてき、だったはず…………の、わたわたたわたしがぁぁっ!!」
「お前の異能、当ててやろっか。……………………その手からする臭ぇ、夥しいほどの血の匂いから察するに、魂をストックする異能…………【魂保持】ってところか。保持した魂を自分の魂に変換し、ダメージを受け流していた。だが、俺の今の攻撃で変換する魂が無くなり、ダメージを受けた。そんなところか」
「きさ、きさまっ!きさまきさまきさまっ!!!!ゆる、さんぞぉぉぉぉぉおお!絶対、ぜっ、たいに、地獄を…………見せて、やぁ、る、ぁぁああああ!」
「地獄を先に見るのはお前だ。そして、赦さないのは、後ろにいる髑髏たちだろ?お前のことを今か今かと待ち望んでいる…………相当に恨みを買っているらしい。これぞ日本の髑髏と言わんばかりに、ケタケタと笑ってやがる」
「い、や……だ。まだ……わた、わたたしたわしわたしわ…………死ね、死ねない!この、天才…………がっ!こんなとこで死んで良いはず…………な、なないないないないなななないなっいぁぁあああ!」
骸骨たちは、その言葉を聞くと同時に、こいつの手足を掴み、引き摺り込んでいく。なるほど、この異能は自分が死なないと使えないと言う制約がある代わりに、死後強大な能力となって現れるタイプの異能なのか。
そんな異能の人間を見逃してしまったのは、こいつの落ち度だろう。まぁ、死後に起きる異能など知らなくても無理もないため、その点は気の毒だったか?
「…………………………あっ」
最後の台詞を言い、この世から永遠にさようならする。
髑髏たちは、これで満足した……と言わんばかりに一緒に地の底へ潜っていく。
長い時間、手を合わせると、瞑目をやめて下の階層が現れた音がしたので、そそくさと降りる。
深いところまでまだ行っていないが、委員長は大丈夫だろうか。
一人で困っていたりしないだろうか?なんて急に善人ぶったが、そんなことで俺の罪は帳消しにされないから、強いということを信じて、俺は前に進もう。
ここの全施設を破壊しなければ、もとより帰れないのだから。
…………虚しすぎるぐらいの、コツコツとした足音が耳を通り過ぎていく中で、はっきりと聞こえてきたのは、誰かの助けを求めているような声だったことを……俺は聞き逃さなかった。
素早く階段を降りると、重厚な扉があり「開ければお前の命はないぞ?」と警告しているようだ。
しかしながら、俺はここを開けて声の主を確かめなければならない。
巨悪を滅ぼすために……あんな女が二度と生まれないようにするために。