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1-3.何ができるか。何をすべきか。

 大きな揺れに襲われる格納庫。

 照明が消え、固定が甘かった機材が散乱する。


 どうやら戦闘が始まった様だ。


 先程は機体の数が足りないという話が聞こえてきたが、

 今乗っている2号機は動かさなくていいのだろうかと考える。

 とはいえ、素人の自分がどうにか出来そうな問題ではなさそうだが。


 揺れが収まると、主任が2号機のコクピットまで歩いてくる。


「騒がせましたね。大丈夫ですか?」


「ええ、今のところは」


 顔に残る涙の跡に気が付かない振りをしながら返答する。


「何か敵が来たんですか」


「ええ、アースドラゴンっていう原生生物です。

 でも、防護壁に囲まれたこのオアシスの中にいる限りは大丈夫です。

 心配は要りません」


 沈黙が流れる。この中に居れば安全は確保される様だ。

 しかし、外は?輸送船団と言っていたが

 かなりの人数が危険な状態にあるのではないか。

 そう考えていると主任がこちらの考えを察したかのように口を開く。


「アルベインさん。一応聞いておきますが、

 この機体で外に助けに行こうとか考えてないですよね?」


「思わないでもないですが、さっきのやり取りを聞く限り

 初めてコックピットに座った俺が役に立つ状況ではなさそうですね。」


「わかっているならいいんです。私も操縦自体はできますが、

 動かせるのと戦闘ができるのとは違いますから」


「理解できます。戦闘の後片付けとか、

 俺でも役に立ちそうなことがあれば言ってください。」


「ありがとう。その時はお願いします。

 今は大丈夫なので、一旦帰ってもらっても大丈夫ですよ」


「すみません。俺、今宿無しなんです。」


「そうでしたか。では窮屈ですがここで暫く待機していてください。

 私は詳しい状況を確認してきます。

 間違ってもこの機体を勝手に動かそうとしないでくださいね」


「ええ、約束します」


 主任が立ち去った後、コクピット内で一人黙考する。


「(ああは言ったものの、危機的な状況でも必要とされないというのは

 何とも居心地が悪いな)」


 約束を破る気は無いが、何故か果たさなければならない役目を

 放置しているような、恐怖にも似た焦燥感を感じる。


「(なんだろうこの気持ちは?

 今日始まった人生でなんの義理も責任も無いはずだろう。

 強いて言えばこの街が滅んだら食い扶持が無くなることくらいか?

 本当にそれだけか?)」


 何か大事なことを忘れている様な、

 心の中の何かがこのままではいけないと警鐘を鳴らしている様な。

 そういえば生まれた施設で、過去の遺伝子提供者の

 記憶の影響を受けることがあるとか言っていたのを思い出す。


「(だとしたら、結構難儀だな。この体は。)」


 悶々と自分でもよくわからない葛藤に苛まれながら

 事態の収束を待ち続ける。



 一方、壁の向こうでは激戦が繰り広げられていた。


「吹き飛べっ!!」


 正面から突進してきたアースドラゴンに槍を打ち込み、炸薬を起動させる。

 アースドラゴンの胸殻にひびが入り、爆発の衝撃で大きく後ろへ転がっていく。


「フレッド!予備の爆槍をもらうぞ!」


「おう、持ってけ!」


 赤いヴァンガードが槍の先端に残っていた弾頭の残骸を振り落とすと、

 穂先の無くなった槍を僚機の背中に懸架されていた予備の穂先へ差し込んだ。

 そのまま突き抜けると、新しい槍先が装着される。


「交換完了!」


 訓練された流れるような動きで、

 アースドラゴンが起き上がる前に再装填を完了する。


 再び3本の槍先がアースドラゴンを指向する。

 既にドラゴンの体のあちこちに出血や割れた甲殻が確認できる。

 大して、ヴァンガード隊は目立った被害は見られない。


 リーチと再攻撃の速度で劣勢に立つ事を理解したアースドラゴンは、

 泳ぐように砂中へ姿を消した。


「奇襲警戒!三方方陣を取れ!」


 お互いの背中をフォローし全方向に対応できるように

 風車の様な陣形を構築する。

 砂の中から来る振動は暫く3機の周りを旋回していたが、

 不意に勢いよく飛び出してきた。

 しかし、その方向を警戒していた灰色の機体が即応する。


「通行止めだコラァ!!」


 再びの爆発でドラゴンの甲殻の一部が剥がれて宙を舞う。


 グギュウウウウウウ


 またしてもカウンターを決められ、

 アースドラゴンは苦悶の声を上げて距離を取った。


「中々急所に刺さらんな。各機残弾はどうだ?私は3」

「俺は4だ」

「同じく4。いつものよりデカいからな。流石にタフだぜ」


 とはいえ、確実にダメージは蓄積している。

 予備の弾槍はオアシスから幾らでも取り寄せられる。

 このまま一方的な殴り合いを続ければ負けは無い。


 アースドラゴンは不気味にこちらを観察している。

 どうにも手詰まりなようだ。

 そろそろ諦めて逃走するかもしれない。


 確かな知性を感じる目は、迷う様にキョロキョロと周辺を見回していたが、

 そのうち何かを見つけたように一点を見つめる。


 次の瞬間、アースドラゴンは砂上を泳いで

 ヴァンガード3機を放置してその場を離れた。

 ただし、オアシスに向かって。


「何でそっちに行く!」

「ジニアっ!6番ゲートが閉じ切ってないぞ!」

「何だと!?故障か!?」


 アースドラゴンが見つけたのは強固な囲いの僅かな綻び。

 あの向こうには大量の餌がある。

 あそこから侵入して、忌々しい小兵が来る前に食い散らかしてしまえばいい。


「全機反転!食い止めろ!」


 慌ててオアシスへと引き返す3機。

 しかしスピードはアースドラゴンの方が上だ。

 ヴァンガードは砂漠の移動に特化していない。

 特に重装甲である2機のオランガタンは速力が出ない。


「ジニアっ!先行し過ぎるな!各個撃破されるぞ!」

「そんなことを言っている場合ではない!

 街に侵入されたら被害はその程度では済まないぞ!」


 街中でアースドラゴンが暴れれば、壊滅は免れないだろう。

 人的被害はもちろん、人類は生活拠点を一つ失うことになる。


「間に合えっ!!間に合えぇぇぇ!!!」


 赤いヴァンガード"ヴィーゼル"は更にスピードを上げて

 アースドラゴンを猛追するのだった。



「アルベインさん!2号機を今すぐ起動させます!手伝ってください!」


 コクピットに駆け込むなり、主任はそう叫んだ。

 前側の座席に乗り込むと、スイッチを色々操作し始める。


「何かあったんですか?」

「先ほどの地震でこの区域の動力がダウンしました。

 そこの門の装甲シャッターが閉まらないんです!」


 見れば、確かに7,8メートル程の隙間を残して門が閉じ切っていない。


「あそこからドラゴンが侵入したら大惨事になります!

 お願いします!何も言わずに力を貸してください!」


「わかりました。俺は何をすれば?」


「先ほどと同じようにマナを送ってください!

 今度はメインコンデンサーをチャージします!」


「さっきと同じようにすればいいんですね」


 操縦桿を握りしめ、感覚を思い出しながらマナを流し込む。


「メインコンデンサー圧力上昇確認。スターター起動させます。

 リアクター回転開始。」


 機体の中心から低い回転音が響いてくる。

 必要な速度に達するのを待ちながら、主任が説明を続ける。


「動力が落ちた今、装甲シャッターを閉める方法は

 ヴァンガード用のギアハンドルを直接回して動かすしかありません。

 あ、油圧機が無事ならこの機体の動力を直接供給してもいいですね。

 そっちにしましょう。」


「そんなことが出来るんですか?」


「簡単ですよ。ハンドルの近くに取っ手みたいな端子があるはずですので、

 それをヴァンガードの手で握ればマナを供給できます。 

 すみませんが一分一秒を争う事態です。

 閉鎖が完了するまで付き合って頂けますか?」


「是非もないでしょう。よろしくお願いします。」


「ありがとうございます。とと、必要回転数の到達確認。

 コンデンサーからのマナ供給開始。リアクター点火!」


 ズズンと音が響くと、巨人の心臓たるリアクターの回転が更に加速していく。


「よし、一発始動!これで全身にマナが循環されれば動けるようになります。

 これから大気中のマナを取り込むアブソーバも起動させますので、

 それが終わったらあなたのマナ供給量を絞っても大丈夫です。」


「わかりました。その後は?」


「操縦は私がしますので、お楽にしてもらってかまいま・・・え?」


 ガタガタと突然の振動。この機体からではない。

 嫌な予感がして門を見ると、壁全体が振動し土埃が舞っている。

 そして何か大きなものがぶつかる様な音が響いたその時。


 閉まり切っていなかった装甲シャッターの隙間から、巨大な生物が顔を出した。


「アースドラゴン!そんな!」


 頭部を門の隙間にねじ込んだアースドラゴンは、

 くねくねと体を捩りながら内部へと侵入してくる。

 たちまち全身を滑り込ませると

 街へ降り立った怪物は歓喜の雄叫びを上げた。


「ひぃぃっ!!!」


 主任が思わず悲鳴を上げる。それが聞こえたのかはわからないが、

 アースドラゴンがこちらを向く。

 倉庫内にある赤いヴァンガードを目にした瞬間

 ドラゴンは恐ろしい速度で地面を這って襲い掛かってきた。


「こっ、来ないでぇぇぇぇ!!」


 主任が慌ててハッチ閉じる。

 次の瞬間、暗闇のコクピットが大きな衝撃に揺れる。


「あああああっ!!」

「うおおおおっ!?」


 視界がない中、宙を舞う感覚を覚える。

 おそらく格納庫の壁を突き破ったのだろう。

 建物が崩壊する音が聞こえてくる。


 続いて、外から殴りつける衝撃の連続。

 機体が軋み、何かが砕け、警告音が鳴り響く。

 暗闇の中、サンドバックの中身の様な抵抗できない暴力。


「やだぁっ!ジニアっ!助けてぇっ!!」

「ごっ・・・ぐっ・・・あぁ!!!」


 主任は泣き叫び、俺も打ち付ける痛みにどうすることもできない。

 ひと際大きい衝撃が加えられ、何度もバウンドして

 転がる感覚に3半規管が悲鳴を上げる。


 ふらつく意識を何とかつなぎとめていると、

 今度は機体が持ち上がり大きく軋み始める。

 直感的にかみ砕かれようとしているのだと理解する。

 既に主任の声はしない。気絶したのかそれとも・・・。


「(このままだと俺も死ぬ・・・?)」


 恐怖。そしてそれ以上に理不尽に対する大きな怒り。

 何か抗う方法は無いかと、暗闇をがむしゃらに探し回り、

 操縦桿を見つける。


 操縦桿を握りしめた途端、頭に入ってくるのはもう一つの体の感覚。

 この機体の感覚だ。さっきマナを供給していた時とは違う。

 指の一本一本まではっきりと認識できる。

 攻撃を受け続けながらも、機体は諦めずに起動プロセスを続けていたのだ。

 何のために?そんなものは決まっている。


「戦うためだ・・・!」


 そう言葉を紡いだ瞬間、ついに機体が完全に目覚めた。

 スクリーン一杯に周辺の映像が表示される。

 破壊された街、ぐったりと動かない主任の後頭部、

 そして機体の右半身を咥え込むアースドラゴンの巨大なあぎと。


「やってくれたな・・・!」


 操縦桿を通して送った反撃の意志に応じるように

 赤い巨人が目の前にあった大きな牙を掴む。


 遠慮無く、容赦なく、迷いなく。

 渾身の力を込めた左手が、ボギン!と音を立てて

 アースドラゴンの牙を折り取った。


 たまらずアースドラゴンが口を開けて悲鳴を上げる。

 放り投げられた獲物は、今度は転がらず四肢を使って着地した。


 不意の反撃に戸惑うアースドラゴンの前で、

 ボロボロの機体が戦闘態勢を取る。

 体勢を低く、まるで獣の様に。


「生まれたその日に死んでられるか。なあ、お前だってそうだろう?」


 牙や爪の痕だらけの装甲を纏い、怒りに震える決死の眼光を放ちながら。

 追い込まれた赤いヴァンガード"ヴィーゼル"の反撃が今始まる。

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