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第8話

「なぁに、払う金がねぇっつうなら……お兄さん達がいいとこ教えてやるよ」


 男はそう言って、ニヤニヤと下衆な表情を浮かべたままレイラ様の腕を掴んだ。


「ぃたっ……」


 レイラ様の痛がる声を聞いた瞬間、俺の頭の血管がプチッとキレるような音が鳴った気がした。


 この糞ったれ共が。


 俺はレイラ様の腕を掴む小汚ない腕をグッと掴み、小さく「tonnerre(トネール)」と呟いた。俺がそう呟いた瞬間、掴んでいた小汚い腕から、バチィッという音が鳴り響いた。


「いっ!? いてぇええ!!!」


 男は情けない叫び声を上げ、腕を抑えて痛がりながら後ろへと後退りした。 すると、もう1人の男が俺の方を向いて睨み付けてきた。


「うぇ!? どどうしたんす!? ……おいてめえ。ガキィ、何しやがった?」


「……さぁ、何も?」


 してないわけないだろう?


 俺は男の腕に『tonnerre(トネール)』という魔法を使って、小さな雷を起こした。まあ、ちょこーとだけ強めの静電気を流したのだ。

 (よこしま)な気持ちでわざと立場が弱そうな子供にぶつかり、汚い手でレイラ様のか弱い腕を掴むからだ。本当はもっと酷く痛い目に合わしてやりたいところだが、ここは人が多すぎる。それに今日は、折角レイラ様があんなに楽しみにしていたお祭りだ。そんなレイラ様の気持ちに水を差すわけにはいかない。


「っ……糞ガキが!」


 俺がわざとらしくとぼけてみせると、そんな態度に苛ついた男が俺に殴りかかろうと足を前に出した。その瞬間、俺はすかさず「float(フロート)」と小さく呟いた。すると、殴りかかろうとしていた男の片足がフワッと浮かんだ。


「わっ! ぅわわわああ ……いってぇええ!」


 片足が急に浮かんだことでバランスを崩した男は、またしても情けない声を上げながら、地べたに思いっきりしりもちをついた。


「だ、大丈夫っすかー!!」


 もう1人の男は、しりもちをついた男に慌てて駆け寄った。あーもう、名前が面倒だな。しりもち男と腰巾着でいいかな。


「ちょ、ちょっとノア」


 俺がそんな事を考えていると、レイラ様が隣から耳打ちをした。


「大丈夫ですよ」


 俺は不安そうな表情を浮かべるレイラ様に、にっこりと微笑んだ。


「くっそガァ……このガキィ……」


「はぁ、いい加減にして下さい。これ以上絡んでくるのであれば、警備隊を呼びますよ?ほら、周りをよく見て下さい」


 俺はため息交じりにそう言って、睨み付けてくるしりもち男を諭した。これだけ騒いでいたのだ。俺達はいつの間にか注目を浴びてしまったようだ。「何?喧嘩?」「子供を脅しているみたいだぞ」「おい、誰か警備隊を」と、周りの大人達が騒いでいる。


「マ、マズイっすよ」


「チッ……行くぞ」


「ゥ、ウッす」


 チンピラ2人はそう言って、最後までこちらを睨み付けながら人混みへと消えていった。

 あの2人組の姿が完全に見えなくなると、俺は直ぐにレイラ様の方へ視線を移した。


「おじょっ……レ、()()()……腕は大丈夫ですか!?」


 そう言ってレイラ様の腕を慌てて見ると、少しだけ掴まれた箇所が赤くなっていた。


「私は大丈夫よ、これくらい。それよりもごめんね、私のせいで」


「いいえ、あれは向こうが悪いんですよ。わざとぶつかってきたようでしたしね。念の為、回復魔法を掛けておきます」


 俺はそう言って、レイラ様の腕をそっと支えて「guérison(ゲリゾン)」と唱えた。すると、レイラ様の腕が白い光にパァと包まれた。そして、その光が消えていくと腕の赤い跡は綺麗に消えていた。

 それを眺めていたレイラ様は、ふと懐かしそうに笑みを溢した。


「なんだか、久しぶりにこうやってノアに治して貰った気がするわ」


「昔は領地の森に行っては、生傷作って帰ってきてましたもんね……いや、つい最近まででしたか?」


「ちょ、ちょっと!」


 レイラ様は恥ずかしげに俺を睨んだが、直ぐにふふふっと笑いだした。俺もそんなレイラ様につられて思わず笑いだした。


「さってと……気を取り直して行きますか!」


「そうね! 行きましょう、噴水広場!」


 そう言って、俺達は気を取り直して噴水広場へと足を進めた。



 **********



 数分後、俺達は噴水広場へと到着した。


 先ほども多くの人で賑わっていたが、広場ではそれ以上に多くの人々が集まっていた。


「人が……ごみのようね……」


「何言ってるんですか。で、これだけ多くの人混みからどうやって殿下と『ひろいん』を探すんです?」


「だ、大丈夫よ! 殿下はね、噴水近くの音楽隊のところにいるわ!」


「あ~何でしたっけ。そこでその音楽隊に合わせて踊っている平民の『ひろいん』に一目惚れをするんでしたっけ?」


「そうそう!」


 あのプライドの塊のような殿下が一目惚れ? ましてや、平民の少女だ。想像もつかないな。俺は首を傾げながらレイラ様に尋ねた。


()()殿()()がただの平民の女の子に一目惚れなんてするんですかね」


「それはご都合主義ってやつだから大丈夫よ!なんたって『乙女ゲーム』ですもの!」


「はぁ……まあ、一目惚れするくらいなんですから、その子はそんなに絶世の美女なんですか?」


「まあ、設定上は何処にでもいる平民の女の子設定だけど、明るく活発で誰に対しても優しくて癒し系で……一言で言えば物凄く可愛いわ」


「うーん、なるほど? まあ、そんな風に言われたらどんな子なのか気になりますね」


「え」


 俺がそう言うと、レイラ様は真顔になりピシッっと固まってしまった。


「ん、どうしたんですか? おーい」


 呼び掛けてみたが、レイラ様からの返答はない。どうしたものかと思い、両手でレイラ様の両肩に触れゆさゆさと揺らしながら「レ、レイラ?」と、呼んでみた。すると、レイラ様はハッと我に帰った。


「……っあ……ごめん。うん、なんでもないの! 気にしないで! ごめんね!」


 レイラ様はそう言って慌てて両手を横に振り、「さ、音楽隊のところに向かいましょ!」と言って走り出した。


「あ、そんな急に走り出したら危ないですってば!」


 俺はそう言って、急に走り出したレイラ様の後を慌てて追いかけた。レイラ様はそんな俺を気にせず人混みを上手に掻き分けながら、自分の右手を口元に当てた。


(そうよ、ノアもヒロインの『攻略対象』なんだった。ノアがヒロインを見たら……もしかしたらノアが一目惚れしちゃう可能性もあるのよね。ゲームではそんな事起こらなかったけど、なんたって『攻略対象』なんだし……)


 レイラ様は心の中でそう思うと、自分の胸にチクッと痛みが走るのを感じた。



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