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第6話

 レイラ様は優雅に紅茶をすすり、口を開いた。


「相変わらず、王宮の温室は素晴らしいですわね。殿下」


「はっ、当たり前だろう」


 ジェイコブ皇太子殿下は、鼻で笑いながら答えた。俺達は王宮の温室へと来ていた。


「月日が経つのも早いですわね。ここでお茶会をしたあの日からもうすぐ1年が経つだなんて……」


「あぁ、あの時はなんて生意気な奴だと思った……いや、今も思っている。まあ、陛下の御異存だからな。晴れてこの俺様の婚約者になれたのだから、光栄に思うがいい」


「アラ、ソレハコウエイデスワネ」


「……お前、ほんとそういうところだからな」


「そのお言葉、そのままお返し致しますわ」


 レイラ様と皇太子殿下はテーブルを挟んで、バチバチと軽く火花を散らしている。そんな光景をレイラ様の後ろから眺めていた俺は、小さくため息を漏らした。

 俺とレイラ様は今年で12歳、皇太子殿下は今年で13歳になる。あのお茶会以来、レイラ様はこうやって王宮の温室に呼ばれては皇太子殿下のお相手を余儀なくされている。


「俺は今でもこの婚約に納得していない」


「あら、奇遇ですわね。わたくしもですわ。それでは殿下、婚約破棄なさいません?」


 レイラ様は満面の笑みを浮かべながら尋ねた。すると、殿下は深くため息を漏らして口を開いた。


「だから……何度も言っているだろう。そんな簡単な話ではない。陛下からのお言葉を無視することはできない」


「殿下……」


「あ? なんだ、その顔は」


()()()にはご成長されたのですわね。わたくし感銘を受けましたわ」


「おまえは……毎回毎回本当に一言多いやつだな」


 このやり取りも、ここ1年近くで何度も見てきた。最初こそ単細胞な殿下はレイラ様の提案に賛同し、自ら国王陛下に婚約破棄を申し出たそうだが、


「馬鹿馬鹿しい! この馬鹿息子が!!!」


 と一喝されてしまい、こうやって仕方なく大人しくなられたようだ。


 レイラ様は紅茶を飲み終え、カップを置き、ふぅと小さく息を吐いた。


「それでは……紅茶も頂きましたし、そろそろお暇致しますわ」


「あぁ。飲んだらさっさと帰るんだな」


 そう仰りながらシッシッシッと右手を扇ぐ殿下に、思わず俺は冷たい視線を送った。すると、そんな俺の視線に気がついた殿下も負けじと俺を睨み付けた。俺と殿下がお互いにバチバチと火花を散らしていると、レイラ様は慌てて俺の裾を引っ張った。


「ちょっと、ノア」


「……これはこれは失礼致しました。お嬢様。参りましょうか」


「もう……それでは、殿下ごきげんよう」


 そんな俺達の様子に、殿下はわざとらしく俺達に聞こえるよう大きな舌打ちをした。


「チッ……相変わらず生意気な奴だな」


 そう言って殿下は俺を再び睨み付けた。が、俺とレイラ様はそんな殿下を無視してさっさと温室を後にした。



 **********



 馬車に揺られていると、なんだか街の様子が賑やかだった。


「なんだか賑やかね」


「ええ、そうですね。そういえば、明日『星の夜祭』があるからかもしれませんね」


「あぁ! もう、そんな時期なのね!」


『星の夜祭』


 この『アレクサンダー国』では、この冬の時期に太陽が昇らず1日中真っ暗な日がある。この日は特に星が綺麗に見えて流星群も見ることができるので、毎年街をキラキラと飾ってお祭りを開いているのだ。


「今年も行くでしょう? ノア!」


 窓の外を見ていたレイラ様は、キラキラと瞳を輝かせ、くるっと俺の方へと振り向いた。確かに毎年俺とレイラ様はこのお祭りに2人で来ていたが……


「お嬢様、こういった行事は()()ご婚約者様の殿下と行かれるかと……」


「え、嫌だわ。殿下となんて行くわけないじゃない」


 レイラ様は真顔で即答した。レイラ様、仮にもご婚約者様ですよ?


「今年もノアと行くに決まってるでしょ?」


 レイラ様はふふっと笑いながら俺に尋ねた。その瞬間、俺は自分の胸が少し高鳴るのを感じた。


「……ええ、そうですね」


「それにね! 今年はイベントがあるのよ!」


 レイラ様は、やや前のめりになりながら話を続けた。


「い、いべんと?」


「ええ、そうよ! 明日は殿下と乙女ゲームのヒロインが出会う大事なイベントがあるの。ゲーム本編ではなかったんだけど、特別イベントで『2人の出会い過去編ストーリー』をやったことがあったの!本編では学園で初めて出会う2人って感じだったんだけど、実はこの『星の夜祭』で2人は出会っていたのよ!? そして再び学園で出会った2人は、昔の記憶でなんとなくでしか覚えていなかったんだけど、次第に惹かれ合って、愛を育む内にあの時の子は……って感じで気づくの! そして思い出した2人はまた2人で『星の夜祭』に行くのよ! あ~~~~! あの時のジェイコブ特別イベントスチルと特別イベントボイス最高だったわ~~!! な〜んで現実の殿下はあ〜んな感じ仕上がっちゃたのかしらねぇ」


「……へぇ」


 俺はレイラ様の凄まじい勢いに少し引きつつも、笑顔で答えた。よく分からない単語がいっぱい出てきたな。


「明日はなんとしても2人をびこu……いえ、見守らないといけないわ! ノア、明日は2人で『ヒロイン、殿下見守り隊』よ! あ~~毎年、『星の夜祭』は聖地巡礼してるみたいでとっても楽しかったけど、今年はまさかあの過去編の場面に実際に立ち会えるかもしれないだなんて!! 楽しみだわ~~!」


 レイラ様はニマニマと顔を緩ませ両手で頬を抑えながら、足をジタバタとさせていた。

 俺はそんなレイラ様の様子を見て、思わずため息交じりの笑いを漏らした。またなんだかよく分からない単語が出てきたけど、レイラ様が楽しそうなら……ま、よしとするか。


「明日が楽しみね! ノア!」


「ええ、楽しみですね」


 俺達はどこかソワソワとしながら、そのまま馬車に揺られ帰途についた。




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