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第14話 メイドの日常 ララSide Story ②

 正直、お嬢様は出会った頃から、5歳とは思えないくらい大人びた女の子だった。


 旦那様にそうお伝えすると「恐らく妻が亡くなってから、娘は変わってしまった」と仰っていた。以前は普通の幼い子供だったそうだが、流行り病で奥様が亡くなられてから部屋で塞ぎ込むようになり、ある時から急に大人びた言動をし始め、文字の読み書きもスラスラできるようになったそうだ。


 旦那様からそう伝えられた私は、少しだけ不思議に感じたが、特には気にしていなかった。何故ならお嬢様は、まだ環境にも慣れず満足に仕事もこなせない私に対し、いつも気を遣って接して下さる優しい御方だったからだ。それに、天然なのかたまに抜けているところもあったり、子供らしく可愛らしい一面を見せる女の子でもあった。


 私はそんなお嬢様に、次第と惹かれていった。



 ******



 ある日、お嬢様は旦那様と一緒に何人かの護衛と従者を連れて、街へ買い物に出掛けた。勿論、私も一緒に。


 色々なお店を見て回っていると、突然お嬢様は旦那様の目を盗み、何処かへ向かって走り出してしまった。


「っ!? お、お嬢様!? どうされたのですか」


 私と数人の護衛がすぐに気づいて、慌てて追い掛けると、路地裏に入る道の前で子供が倒れていた。よく見ると服はボロボロの雑巾のような服で頭もボサボサ。スラムの子供のような身なりだった。うっ……なんだか少し臭う。きっと何日も水浴びや身体を拭くことさえできていないのだろう。


「恐らくスラムの子でしょう。この路地裏の向こうには確かスラム街があるので……腹を空かせて倒れているのかもしれません」


 護衛の1人がそう言うと、お嬢様は男の子の前にしゃがみこみ、体をゆさゆさと揺らした。


「ねぇ、貴方大丈夫?」


「お、お嬢様! お召し物が汚れてしまいます!」


「大丈夫よ、これくらい」


 お嬢様がそう答えると、男の子は「うぅ……」と微かにうめき声を上げて目を覚ました。


「……っ」


 私は男の子が顔を上げた瞬間驚いた。何故なら、彼の瞳がとても深い漆黒の瞳をしていたからだ。


「……っ……だ、れ?」


 男の子は少しだけ顔を上げ、か細い声でそう尋ねた。お嬢様はそんな男の子の顔をじっと見つめながら「貴方、もしかしてやっぱり……」と呟いた。


「私はレイラよ。お腹が空いているの?これ、さっき買った焼きたてのパンよ。食べる?」


 お嬢様はそう言いながら、人気と噂のパン屋で買ったパンの紙袋を出してみせた。


「お嬢様!」


 私は慌ててお嬢様の腕を掴んだ。私がこんなにも取り乱しているのは、この男の子の瞳にまつわる言い伝えのせいだった。

 この国の言い伝えには『漆黒の瞳を持って生まれた子は非常に強い魔力を持っているが、神に嫌われて呪われた子の証。その強い魔力で、周りを不幸に陥れるだろう』そんな言い伝えがあった。まだ子供だった私は、そんな信憑性のない言い伝えを信じていた。それによく見たら髪も真っ黒だ。黒髪というのも、この国ではあまり見ない髪色のため、私はより不気味に感じていた。


 お嬢様は、そんな私に対し「大丈夫よ」と言って微笑んだ。そして、鞄に入っていたご自身のお水も出しながら「あ、あとね私の持ってきたお水もつけるわ」と男の子に差し出した。


 男の子は少し警戒しながらも、よほど空腹だったのか、お嬢様からパンの紙袋とお水を奪い取るように取ってガツガツと食べ始めた。お嬢様は、そんな姿をニコニコしながら見つめていた。


「……ねぇ。貴方、公爵邸(うち)に来ない?」


「お、お嬢様!? な、何を!!?」


「だって、この子の漆黒の瞳は、とっても強い魔力を持っている証なのよ? えっと……この間、本で見たの! そんなに強い魔力を持っている子なら、私の従者にしちゃおうかなって思って」


 お嬢様がそう言うと、男の子はお嬢様を睨み付けた。


「……きもちわるく、ないの?」


「え?」


「……きもちわるいって……かぁちゃも……みんなも……」


「かぁちゃ? お母様の事かしら。安心して、気持ち悪くなんかないわよ」


 お嬢様は男の子の顔にグッと自分の顔を近づけて、じっと瞳を見つめながら口を開いた。


「貴方の瞳は綺麗よ。その黒髪もね。私、黒髪イケメンがど真ん中にタイプなの」


「くろかみ……いけ?」


「あ~えっと、貴方の瞳と髪が好きって事よ」


 お嬢様は、にっこりと微笑みながらそう言った。すると、男の子は目をまんまるくさせながら驚いた。そして、その黒い瞳からポロポロと涙が溢れてきた。


「っ……う……うぅ……っく…………うぅ」


「ええぇ!? ど、どうしたの? 何処か痛いの? もしかしてお腹……? え、パンのせい?」


 お嬢様はそう言いながら、あたふたと慌て始めた。そんなお嬢様の様子に、私は思わずため息混じりの笑いを漏らし、口を開いた。


「お嬢様、多分違うと思います。恐らくですけど、彼は嬉しかったんだと思いますよ」


「へ」


 お嬢様は一瞬きょとんとしていたが、すぐに理解し「なんだ〜」と胸を撫で下ろした。そして、ポロポロと涙を流す男の子が落ち着くまで、お嬢様は優しく背中を擦り続けた。しばらくすると、男の子は落ち着きを取り戻していた。


「大丈夫?」


 お嬢様がそう尋ねると男の子は、こくんと頷いた。そして、顔をゆっくり上げてから突然「おひめさま、なの?」と、お嬢様に尋ねた。


「え? えっと……公爵令嬢よ。貴族のお嬢様」


「おじょうさま……ぼくもつれててってくれませんか」


 男の子がそう言うと、お嬢様は笑って「勿論よ」と答えた。


 それからお嬢様は男の子を連れて、旦那様の元へ戻った。旦那様は非常に驚かれていたけれど、お嬢様がなんとか説得して、男の子は保護をされることとなった。


 彼は漆黒の瞳を持つ、強力な魔力保持者の可能性が高い子供。そのため、この国の魔法界を統治する機関『スルス館』で一時的に保護してもらい、魔力があるかどうか調べてもらう事になった。その結果は、やはり彼は膨大な魔力を持っている事が判明した。

 すると、館の長を勤めている『オリバー・シモン侯爵』から、是非彼をうちの養子に迎えたいという提案をされたそうだ。しかし、彼はそれを断った。


()()は……おじょうさまの()()()()()になりたい、です」


 とのことだった。


 シモン侯爵と旦那様は、なるべく彼の意思を尊重することにした。スルス館で魔力を上手く操れるように学びながら、グロブナー公爵家で執事見習い兼お嬢様の従者として雇う事となったのだ。


「ノ、ノアです。これからよろしくおねがいします」



 *******



「……さん……ララさん?」


 私は名前を呼ばれて、思わずビクッと身体を弾ませ顔を上げた。すると、成長したノアが不思議そうな顔をして、こちらの顔を覗き込んでいた。


「……ノアが大きくなった」


「え。ララさん、大丈夫ですか? なんか疲れてます?」


「……なんでもないわ、大丈夫よ」


 ……どうやら、私は休憩中にうたた寝をしていたようだ。


「私より、貴方こそ大丈夫なの? 今朝も忙しそうにしてたでしょ?」


「あぁ、そうだ! 今朝はすみません。色々と仕事やってもらっちゃって。俺は大丈夫です」


「そう、今朝の事は平気よ。気にしないで」


 そういえば……いつの間にかノアは、お嬢様や旦那様の前では自分の事を「(わたし)」、それ以外では「俺」と言うようになっていた。


「あ、そういえば新しい茶葉が入ったんで、早速淹れてみたんですけど……ララさんいりません?」


「あら、そうなの。せっかくだし頂くわ」


 私はそう言いながら、紅茶の入ったカップを受け取った。淹れたてで、まだ温かい。


「……美味しい」


「お、そうでしょう? 新しい茶葉のお陰でもありますけど、紅茶淹れるの、俺上手くなりましたよね?」


 ノアはそう言いながら、にっこりと笑った。


 そう、ノアは本当に成長した。字の読み書きさえも出来なかった男の子が、公爵家で働いていくために必至で読み書きや仕事を覚えたことも。公爵家のお嬢様の隣に立っても恥ずかしくないように、必至に努力して高位魔道師の地位にまで登り詰めたことも。私は知っている。


「ほんとに……頑張ったわね」


 私がポツリとそう呟くと、ノアは少し驚いた表情を浮かべてから照れくさそうに笑った。


「ははっ、なんかララさんが誉めてくれるなんて珍しいですね。ありがとうございます。それじゃあ、俺はお嬢様のところに向かいますね」


 ノアはそう言いながら、私に背を向け歩き出した。


 ノアの想いが報われますように。私にとって、大切な2()()がどうか幸せになりますように。


 そう切に願いながら、私は彼の後ろ姿を見送った。


最後まで、読んでいただいてありがとうございます。


次回からは、本編に戻ります。


次回も、是非お楽しみください。

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