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第9話

「ちょっ、待ってくださいってば!」


 俺は、走るレイラ様の跡を追いかけて、レイラ様の手首を掴んだ。


「あ……ごめん」


「はぁ……もう1人で突っ走らないで下さいよ。またさっきみたいな輩に絡まれたらどうするんですか」


 俺は息を切らしながらそう諭した。すると、レイラ様は俺の顔を覗き込みじっと見つめてきた。


「……っ? どうかしましたか?」


 突然見つめてくるレイラ様に、俺は内心ドキドキしつつ尋ねた。すると、レイラ様はぎこちなく笑って「なんでもないわ、ごめんね。行きましょ」と言って足を進めた。


「……?」


 なんだか腑に落ちないが、とりあえずレイラ様の跡を追うように俺も足を進めた。


(これから先もノアは私の隣にいてくれるって、どうして勝手に思っていたのかしら。まるで自分の()()みたいに……ノアは私の……悪役令嬢(レイラ)の従者というだけなのに)


 レイラ様は、隣で歩く俺を横目でちらりと見た。


「これじゃあ……まるで本当に悪役令嬢みたいね、私」


「は……? なんの話ですか?」


「んーん。なんでもなーい」


 俺がそう尋ねると、レイラ様はまたぎこちない笑顔を浮かべてはぐらかした。


「……なんなんですか。頭でも打ちましたか?」


「ノア、ララに言いつけるわよ」


「すんません。それだけはご勘弁を」


「ふふふっ」


 俺がそう言うと、レイラ様はいつもと変わらない笑顔に戻った。



 ***********



 ~~~♪~♪♪♪~~♪~♪~~~


 噴水近くへ行くと、音楽隊が演奏をしている音色が聴こえてきた。


「あ、もうすぐじゃないですか」


「ええ……あ、ノア! あそこ!」


 レイラ様が指差す方へ視線を向けると、人混みの最前列で音楽隊を、ぽーと眺めているジェイコブ皇太子殿下の姿があった。平民の服を着て伊達メガネを掛け、帽子を深く被っている。それにしても、殿下のあの何とも言えない表情は何なんだ?


「よく見つけましたね……ひろいんはっと……もう少し前へ行きましょうか」


 そう言って、人混みを掻き分けるように進むと、演奏している音楽隊と何人かの町娘が楽しげに踊っている姿が見えてきた。


「あ、あのピンクブロンドの子よ!」


 ……あの子か。


 レイラ様の指差す方へ再び視線を向けると、ピンクブロンドの髪色に染まった女の子が、音楽に合わせて軽快に足を弾ませ踊っている。小柄な体型で、顔も小さく、まん丸としたピンク色の瞳が特徴的だ。辺りを見渡すと、その愛らしい見た目に、周りの少年や大人までもが魅了されているようだ。


「確かに……あれは可愛らしいですね」


「ゲームでは『平凡な女の子』設定だったけどね。まあ『乙女ゲーム』のお約束だわ」


「へぇ~」


 まあ、レイラ様の方が断然可愛いけどな。

 俺がシラーとした表情を浮かべていると、何故か再び、レイラ様は俺の顔をじっと見つめてきた。さっきからどうしたんだろうか。


「どうかなさいましたか」


「えっと、ノアは……その、どう?」


「は、どうとは?」


 何がどうって言うんですか。色んな言葉が足りないですよ、レイラ様。


「だから! その……ノアも殿下みたいに可愛いヒロインに一目惚れしちゃったのかなって……」


 レイラ様はそう言いながら、自分の両手の指をモジモジとし始めた。


「……お嬢様、それって……」


 俺はそう言い掛けて、直ぐに自分の口元を右手で覆った。いや、きっとそんなはずはない、自惚れるな。俺は何度も自分にそう言い聞かせるが「もしかして」という感情が、俺の中でどんどん溢れ出てくる。


「ノ、ノア?」


 レイラ様は不安そうに俺の顔を覗き込んだ。いや……()()言う時じゃない。俺とレイラ様は主従関係なのだ。だけど__


 俺はレイラ様に顔を近づけて、小さく耳打ちをした。


()が可愛いと思う人は、貴方様だけですよ」


 まあ、これくらいは言ってもいいですよね?


 俺はそう言って、レイラ様から離れた。すると、レイラ様は耳打ちをされた耳を抑えながら固まっている。


「ノ……ノア……? え、それってどういう」


 レイラ様がそう言い掛けたところで、俺は少しだけ意地悪そうに微笑んだ。


「さぁ? どういう意味でしょうね」


 そう答えると、レイラ様の顔がだんだん紅く染まり始めた。そして、少しだけ目を潤ませて、紅く染まった自分の頬を両手で抑えながら口を開いた。


「も、もう!! なんなの! 貴方、本当に今年で12歳!? おかしいわよ、転生者なんじゃないの!?」


「何を言ってるんですか? あ、音楽が止まったみたいですよ? この後、ひろいんが殿下と偶然出会うんですよね。はい、行きますよー。見守り隊、行きまーす」


 俺は「もー!」と言いながら、真っ赤になった頬をぷくーっと膨らますレイラ様をなだめつつ、レイラ様の手をぎゅっと握って、その場を後にした。



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