第90話 質問
どうすればいい、か。
正直、雨宮が辞める理由には筋が通っている。この一件に関しちゃ会社側が間違いなく悪い。
だけど、
「俺は……雨宮の奴はまだ、心のどこかで迷っていると思うんだ」
明確に理由があるのに、アイツが『卒業』へ向かう足取りは重く見える。
「俺にわざわざ卒業することを言ったり、辞めるまでに時間を作ったり……やっぱり、アイツはまだ、エグゼドライブに未練があるんだよ」
「私も同感です! ですが、未練よりも辞める動機の方が強いのなら! ……友達として、私は……」
「お前は、月鐘かるなはどうしたいんだよ?」
綺鳴は涙に濡れた瞳を起こす。
「正しいとか間違っているとか、そういうの抜きにして、お前はどうしたいんだ? 蛇遠れつが、辞めてもいいのか?」
「私の気持ちなんて……」
「雨宮は嘘の感情で背中を押されて、喜ぶ奴なのか? 俺は雨宮とは全然接点ないけどさ、少なくともれっちゃんは……礼儀の良い嘘つきより、わがままな正直者の方が好きなタイプだと思うぜ」
「兎神さん……」
綺鳴は袖で涙を拭い、俺の目を真っすぐ見据える。
「私は……引き留めたいです。だって……れっちゃんが居るエグゼドライブが好きなんだもん! 同期は……一度失ったらもう増えないんだもん! 5人から4人に減ったら、それからずっと4人だもん! そんなの嫌だよ……! 私達は5人で六期生なんだからっ!!!」
そう。それでいい。
わがままでこそかるなちゃま、俺の推しだ。
「わかった。じゃあ俺も、全力でアイツを引き留める。トラブルシューターとして、この問題を解決する」
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暗くなっていたので、俺は綺鳴を家まで送った。
「送ってくれてありがとうございます」
「もう大丈夫か?」
「はい! 私の覚悟は決まりました! どれだけれっちゃんが嫌がっても、全力で引き留めます!」
ふんす! と鼻息を鳴らす綺鳴。萌えだ。可愛すぎる。
「……本当に、兎神さんに相談して良かったです」
綺鳴は月を見上げる。その横顔はとても儚げで、美しく見えた。
「兎神さんは私にとって……月のような人ですね。暗闇を、明るく照らしてくれる」
「おまっ……! そりゃ言い過ぎだろうが。それに……」
それは俺のセリフだ。お前こそ、俺のお月様だよ。
お前と話して、俺も覚悟が決まった。
「おかえりお姉ちゃん」
玄関扉が開き、中から麗歌が出て来た。
「ただいま麗歌ちゃん!」
「悪いな。こんな時間になっちまってよ」
「事情は聞いてます。お姉ちゃん、お風呂作っておいたから入ってきなよ」
「ありがと! 入ってくる! それじゃ兎神さん、今日はありがとうございました!」
「ああ。じゃあな」
綺鳴は家に入る。が、麗歌は家に入らず、扉を閉め、近寄ってきた。
「? どうした? お前もれっちゃん関連の話でもあるのか?」
「……したんですか?」
「は? 何を?」
麗歌は仄かに頬を赤く染めて、
「キス、したんですか?」
予想外の角度の質問だった。
「…………」
頭に浮かんだのは六道先輩の顔……。
まさか、あの一件がバレてるのか? いやいやまさか。とりあえず、とぼけてみるか。
「何のことだ? 俺はまだファーストキスだって――」
「晴楽さんとキス、したんですか?」
心臓が飛び跳ねる。
え? 嘘だろ? なんでコイツがあのことを……いや、情報源は間違いなく、
「晴楽さんから聞きました。あなたとキスをしたって」
あんのアホ先輩!!!
「どうなんですか?」
いつもの麗歌じゃない。
冷静じゃないというか……。
「麗歌……?」
麗歌は俺の裾を掴んできた。
「自分でもわからないんです……なんでこんなこと、気になるのか」
眉を八の字にして、俺の瞳を見上げてくる。
「――ッ! ……答えてください……!」
口をギュッと結んで、見上げてくる。
こんな不安そうな麗歌の顔は初めて見た。
「俺は……」
なんて答えるのが、正解なんだろう。
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