第87話 はじめてのオフ会 後編
焼肉屋に着き、まず驚いたのはその焼肉屋の高級感だ。
明らかにチェーン店ではなく、予約無しでは入れなさそうな感じ。店の扉に金色の龍の絵が描いてあった。飾ってある花やインテリアも高級そうなものばかり。
店員さんの案内に従い、店内を歩く。白虎の絵が扉に描かれた“白虎の間”という個室に通される。
個室も広々としていて落ち着かない。席に座り、とりあえずメニュー表を見るとバカ高い値段の肉たちが並んでいた。どれも普通の焼き肉屋の5倍はする。
「えっと、本当にここの代金は会社が出してくれるの?」
黒崎が気になっていたことを尋ねてくれた。
割り勘とかになったら水しか飲めない。
「もちろんです」
麗歌が答える。
うろたえているのは私と黒崎だけで、他の面子は堂々としている。反応の差で家の貧富がわかるな……。
店員さんを呼び、一通り注文をした所で六道が立ち上がった。
「ボクちょっとトイレ!」
村雲も六道に呼応するように立ち上がり、
「私もお手洗いに」
六道と村雲はトイレへ行く。うざったい性格だが、ムードメーカーの六道が抜けたのはキツイな。
すると今度は麗歌のスマホが鳴り出し……、
「すみません。会社からです。少し外します」
麗歌が電話に出るために退席。そして、
「ごめんね。私もお母さんが電話」
そう言って黒崎も席を外してしまった。
そうして取り残されたのは陰キャ2人。
「……」
「……」
重苦しい静寂。
こ、ここはあたしも離脱しよう。
「あ、あたしも……」
正面に座る綺鳴と目が合う。
綺鳴はうるうると瞳を濡らしていた。あ、これは陰キャ特有の被害妄想だ。みんなが自分と気まずいから席を外したと思っている……いやあたしは確かに気まずいから出ようと思ってたけどさ。
ここであたしまで抜けたら相当な傷を負うだろうな。
仕方ないな……。
あたしは立ち上がるのをやめる。
「ねぇ、アンタさ、ゲームとかやる?」
とりあえず話題を見つけよう。確かコイツ、ゲームはそれなりにやるタイプだったはず。
「う、うん!」
勢いよく頷き、スマホの画面を見せてくる綺鳴。
「これ、今月買ったゲーム?」
「うん!」
「……良いセンスしてるじゃん」
初心者向きのタイトルから玄人向きのタイトルまで揃ってる。RPG、音ゲー、ガンアクションと、あたしと好みが似ている。
「ファイブナイト、今度オンラインでプレイしようよ。はいコレ、あたしのフレコ」
あたしがメモにフレンドコードを書いて渡すと、なぜか綺鳴は目を輝かせた。
「フレコ!? つまり……私の友達になってくれるってこと!?」
「え? 友達というかフレンド……いや、意味は同じか」
「……人生初の、友達……!」
ジーン。と嬉しそうに涙を流す綺鳴。
「ぷ。はは……! 大げさだっての」
つい、あたしは笑ってしまった。
「お、大げさじゃないです! 私、これまで友達出来たことないので、これは私の人生にとって大きな一歩というか……!」
「なんだ。ちゃんと喋れるじゃん」
「え……」
「もっと積極的に話しなって。可愛い声してんだから、黙ってちゃもったいないよ」
「か、可愛い……?」
「うん。良い声してるよね。柔らかくて、良く通って、耳心地がいい。あたしちょっと低めだからさ、デュエットとかしたらイイ感じに……」
あたしの言葉が変なとこに刺さったのか、綺鳴はまたジーンと瞳を濡らした。
「……シズちゃん……!」
「ちょ、アンタまでシズちゃん呼び?」
「私……私……シズちゃんに会えて良かったぁ……!」
「だから大げさだって!」
ダーッと涙を流し始める綺鳴。コイツ情緒やばいな。
「あーもう! なんで泣くのさ!」
仕方なく綺鳴の隣に座って慰める。
「なんか悩みでもあるの? あたしで良けりゃ聞いてやるからさ、泣きやみなよ」
よしよし。と頭を撫でながらあたしは言葉をかけ続ける。
「……私……実は同世代の女の子が怖くて……でも! シズちゃんは……良い子で……勝手に怖がっていた自分が恥ずかしくて……!」
別に良い子じゃないんだけど……。
「はいはい。別にいいよ怖がるのぐらい。そんぐらい気にしないって」
抱き寄せて背中をさする。
なにやってんだろあたし。子守り? 姪っ子を思い出すわ。
「シズちゃ~ん!! 末永くよろしくね~~~!!」
綺鳴が抱き着いてくる。
「プロポーズか!」
つーか、こ、コイツ……! 背はちっこい癖に胸はあたしより断然――!?
「おまた~~~~せっ!!」
六道の声が響くと同時に、個室の扉がガラッと開かれた。
六道と村雲が個室に入ってくる。
「えっと、どういう状況かしら?」
「コラ! シズちゃん! きなりんをいじめるなぁ~!! ぷんぷんっ!」
泣いてる綺鳴を見て、六道は悪ふざけ気味にキレる。
「ち、違うんです! シズちゃんは~! めっちゃ良い子なんです~~!!」
「ちょ、それはそれで恥ずかしいからやめてよ!!」
次に麗歌が、程なくして黒崎が部屋に入ってくる。
「お姉ちゃん……なにやってるの」
「よくわからないけど、悪い感じでは無さそうだよ」
通話とかで何度か話したとはいえ、初対面の奴らと焼き肉屋とか正直不安だった。けれど杞憂だったな。
ムードメーカ―で話が尽きない六道。
凛としていて、一番大人っぽくて頼りになる村雲。ちょっと天然で面白い。
周囲の空気を見て場をまとめる黒崎。コイツは司会者役だな。
一番年下だけど物怖じせず意見をズバズバ言う麗歌。
そして――
不器用だけど、コミュ障だけど、頑張り屋でほっとけない奴。
これから先、コイツらと一緒に何年、もしかしたら十年以上一緒に生きていくことになるんだろう。アイドルグループみたいにさ。
大人になっても全員でステージに立つ光景を思い浮かべて――悪くないな。と、この時のあたしは思ったんだ。
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