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第86話 はじめてのオフ会 前編

 2021年春――

 今日はオフ会の日。6期生の初顔合わせの日だ。


 あたしはエグゼドライブ6期生、蛇遠れつ。本名は雨宮雫。


 チャットや配信で6期生の面子とは何度か話したことはあるが、こうして顔を合わせるのは今日が初めて。微かな緊張と好奇心を持って、あたしは待ち合わせ場所、駅前の噴水広場に足を運んだ。


 全員自分の服装を予め伝えている。だから、すぐに噴水の前にいる女2人があたしの同期だとわかった。


 白のミニスカートに赤のへそ出しシャツ。ピンクのツインテ。アレが七絆ヒセキ、本名六道晴楽。驚いた……本当に()()六道晴楽だ。あたしの高校の1つ上の先輩で、その暴れっぷりは下級生でしかも交友関係の狭いあたしにまで届いている。


 水色の短パンに紺のポロシャツ。青髪ショート。アレが天空ハクア、本名黒崎青空か。同じ高校で同学年らしいけど、特に接点はない。見た覚えもない。まぁまだ入学して1か月も経ってないし、違うクラスなら面識が無くても仕方がないと言える。


 驚いたのは3人目。

 グレーのオフショルダーの服に黒のミニスカート、黒髪ロングの女。女性目線でもめちゃくちゃ美人で、ザ・大和撫子って感じの面立ち。身長160はあるか。アレが……アイツが、未来ぽよよ!?


 確か本名は村雲蘭だったっけ。未来ぽよよは活発なロリキャラだ。全然キャラも雰囲気も合ってないじゃん!


 いいや、とりあえず合流しよう。

 まずは挨拶だ。挨拶……。


「こここ、こんにちは……」


 きょどった。最悪……。陰キャが出た。やっば、顔が熱い。


「あ! れっ――じゃない。シズちゃんでしょ!」


 六道が前に出て、あたしの手を握ってくる。


「し、シズちゃん?」

「雨宮雫でしょ? だからシズちゃん!」


 初対面からあだ名で呼ぶ奴初めて見た。


「ボクのことは山ちゃんって呼んでね!」

「アンタの名前に山要素ないだろ」


 しまった。つい突っ込んでしまった……。


「ねぇねぇ好きな音楽なに~? お肌ピッチピチだね~、何かしてる? あ、グミあるけど食べる~?」

「あ、えっと……」

「いい加減になさい」


 村雲が六道の首根っこを掴んで引っ張る。


「まだ私たちが挨拶できていないでしょ。独占しないでちょうだい」

「ホントですよ。ちょっと落ち着いてください」

「ごめんなちゃい……ナマれっちゃんに興奮しちゃって」


 黒崎と村雲が前に出てくる。


「私は村雲蘭。よろしく」

「よろしく……」


 あたしがまじまじと顔を見ると、村雲は頬をちょっぴり赤く染めて、


「……キャラが違うって言いたいんでしょ?」

「え? あ、まぁ……」

「私とぽよよは別人って考えて」

「わ、わかった」


 マジで別人だもん。素とVでキャラを使い分ける人はそれなりに居るけど、ここまで極端なのは流石に初めて見た……。


「私は黒崎青空。同い年同士、よろしくね」

「うん、よろしく」


 優等生、って感じ。一番まともそう。声は変えてるけど、ハクアのイメージにピッタリ。

 つーかどいつもこいつもエグい美人……うっわ、自信無くす。あたしだけ浮いてない? 迷彩柄パーカー着てきたのマジで失敗。季節感合ってないし、1人だけ陰キャ丸出しはっずかしい。てかリアルがVキャラと張るぐらい可愛いっておかしいでしょ。


「後は朝影綺鳴ちゃんと、それとチーフですよね?」


 黒崎がそう尋ね、村雲が答える。


「ええ。そろそろ時間だけど」

「え? え?? もしかして、アレじゃないよね?」


 六道が駅からやってくる人影を指さす。

 カーディガンを着た銀髪美少女――のカーディガンの中に、もう1人いる。誰かがカーディガンに入って、銀髪少女に背中から抱き着いている。


二人羽織(ににんばおり)かしら?」

「あの服の特徴……まさか、あの子がチーフ!?」

「うへぇ!? チーフちゃん、あんな若い子なの!? 確かに声はめちゃ若だったけども!」

「……何から驚けばいいのかわからないっての」


 こっちに向かってきているからやっぱりコイツがチーフなのだろう。若い……もしかして中坊?


「はじめまして。6期生チーフマネージャー兼、朝影綺鳴の妹の朝影麗歌です。よろしくお願いします」

「いや、その格好で普通に挨拶されても」


 あたしが言うと、朝影麗歌はカーディガンを脱ぎ、シャツの姿になる。

 カーディガンが脱がれたことでカーディガンに隠れていた奴が露わになる。出てきたのは――銀髪ロングのちっちゃい奴。


「むぎゃ!? れれれ、麗歌ちゃん! なんで脱いじゃうの!」

「いい加減にしてお姉ちゃん。もう皆の前だよ。ちゃんと挨拶して」


 お姉ちゃん……ってことはコイツが朝影綺鳴か。


「か、かわいい……」 


 と思わず漏らしたのは村雲だ。

 確かにかわいい。つい頭に手を伸ばして撫でたくなる。


「あ、あぅ、えと……ですね、あはは……」


 かわいいけど……ウジウジしててイラつく!


「ゆっくりでいいよ~」

「そうそう。ボク達、友達。怖くな~い、怖くな~い」


 黒崎と六道がフォローするも、そのフォローで逆に恥ずかしくなったのか顔を赤くしてフリーズしてしまった。

 静寂が10秒続いた時だった。

 いきなり、栓が抜けたように、朝影綺鳴は大声を出した。


「えっと! 私は朝影綺鳴です!! 大福が大好きですっ!!」


――まずい。


 コイツは陰キャだ。そんで同じ陰キャだからわかる。コイツ、自分のボリュームがわかっていない。

 陰キャは0か100で、その間のボリュームの調整がドヘタ。そして過度な緊張を抱くと暴走する。


「みみみ、皆さんご存知の通りその正体は――エグゼドライブ6期生の!! 月鐘か――!!!」

「「「「「わあああああああああああああああああっっっ!!!!」」」」」


 あたし達は一斉に、朝影綺鳴の声をかき消すように大声を出した。

 付近に人はいない。普通の話し声は他の人間には聞こえない。けれど今の朝影綺鳴の声は確実に駅にまで届くレベルだった。高い上によく通る声だ。


(なに考えてるんだコイツ! Vチューバー名をこんな場所で叫ぶとかありえないでしょ!!)


 村雲が綺鳴の口を手で塞ぐ。


「むぐっ!」

「これは早く場所を変えた方がいいですね」


 黒崎が提案する。


「すみません……焼き肉屋の個室を予約しているので、そちらに向かいましょう」


 村雲は口を塞ぎながら、どさぐさに紛れて綺鳴の頬っぺたをムニムニ触っている。かわいいのが好きなんだろうな、多分。

 キャラの強い面々に先行きの不安を抱きつつ、あたしは5人と一緒に焼肉屋に向かった。

【読者の皆様へ】

第一章のラストにイラスト置き場を設置しました!

友人にお願いして、綺鳴とかるなを描いてもらったのでその記念です。ぜひ見てみてください!

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