第85話 夏休みの終わり
「おっと、そろそろお客様が来る時間だね」
「え?」
呆けている俺に、六道先輩はまるで何も無かったかのように話を進める。
「“え?”――じゃないでしょ。しっかりしてよすばるん! そろそろ21時、メールの差出人が来る時間だよ?」
「あ、はい。そうですね」
俺と六道先輩は賽銭箱の前に立つ。
「あの、六道先輩、さっきのって……」
「ん? どうしたの?」
「い、いや! なんでもないです……」
記憶喪失にでもなっているのかと疑いたくなる。
もしかして六道先輩にとってキスって特別なことではないのでは?
いやいや、男子より女子の方がこういうのは気にするはず……でも六道先輩だしな……普通の女子と同列で考えるのは良くないか。
――いや、そうじゃない。
六道先輩、表情こそいつも通りだが耳が真っ赤だ。
さっきのキスは、悪ふざけや気まぐれじゃない。きっと、ちゃんと考えなきゃいけないことだ。
「来たね」
石階段からコツ、コツ、と足音が聞こえる。
階段を上がってきたのは――パーカーを着た女子。
「アレは……」
「やっぱりキミだったか。しずちゃん」
神社にやってきたのは日比人が所属するeスポーツ部の部長、雨宮だった。
なぜコイツが……。
「なんで晴楽もいんの? めんどくさっ」
「なになに? ボクが居ると困る話?」
「……別にいいけど。アンタにもいずれ話すことだし」
どうやら六道先輩と雨宮は知り合いのようだ。あまり接点が見えないけど。
「まず自己紹介するね。あたしは雨宮雫。エグゼドライブ6期生、蛇遠れつの中身だよ」
「は? はあああああああっっ!!?」
神社中に俺の声が響く。
「お、お前がれっちゃん!? あのツンデレの!?」
「誰がツンデレだ。デレた覚えはないっつーの」
この言葉遣い、この声――
「……言われてみれば雰囲気ソックリだな」
「しずちゃんは結構まんまだよね~」
「演技とか苦手なんだよ、あたしは」
ホントに、れっちゃんまんまだな……なんで日比人のやつは気づいてないんだ。
「早速で悪いがサイン貰ってもいいか?」
「やだね」
残念。
「眠いし、もう本題入らせてもらうよ。トラブルシュータ―の兎神昴さん」
「麗歌から俺のことは聞いてるみたいだな」
「うん。数々のトラブルを解決してきたみたいじゃん。凄い凄い」
「まぁそれほどでもあるが。あ、もしかして、お前も何かトラブル抱えてるのか? 俺に何かしてほしいことが――」
「逆だよ、逆。何もしないでほしい」
雨宮はキッパリと言い切る。
「あたしの邪魔をしないでほしい」
「? 話が見えないんだが……」
雨宮は調子を変えることなく――
とんでもないことを言い出す。
「あたしは、8月末にVチューバーを辞める」
血の気が引いていく感覚。体が一気に冷えていく。
驚いているのは俺だけじゃない。
隣では六道先輩が、見たことも無いほど動揺していた。
「は……? なに言ってるのれっちゃん……?」
「もう、決めたことだから。8月末にライブをやる。そこで引退を発表して辞める。もう会社には話した」
「れっちゃん!!!」
六道先輩は雨宮の肩を掴む。
「なに言ってるの!? なんで急にそんなこと……!!」
「アンタには、なんとなくわかってるでしょ?」
「!?」
雨宮に睨まれ、六道先輩は雨宮の肩を手放した。
「とにかくそういうことだから。きっと麗歌はアンタにあたしの引退を撤回させるよう依頼を出す。でもその依頼は無視してね。ライブの準備もあるし、最後のステージ……集中したいから。用件はそれだけ」
雨宮は背中を向け、石階段の方へ歩き出す。
「待てよ」
俺は雨宮を呼び止める。
「どうして俺を呼び出したんだ?」
「さっきも言ったでしょ。アンタに邪魔をしないよう忠告するために……」
「そのためにわざわざ? そもそも俺が、お前の言うことを素直に聞くと思っているのか? 麗歌から話を聞いているのなら、俺が諦めの悪い人間だと知っているはずだ」
「……」
「ホントはお前、俺に止めて欲しいんじゃないのか? だから」
雨宮は俺も睨みつけてくる。
「勝手な憶測で喋るな。さっきの言葉に嘘はない。あたしは最後のライブに集中する、その邪魔は絶対にしないで。余計な雑音をライブに持ち込みたくないの。兎神……アンタは知らないんだ」
雨宮は去り際に、
「――Vチューバーがどれだけくだらない存在なのかを、アンタは知らない」
雨宮は階段を下っていく。
学校が始まるまで後18日。
だが俺の夏休みは今日、この時に終わった。
長い戦いが――始まる。
【読者の皆様へ】
第五章 完
カクヨムではいっぱい感想を貰ったものの、なろうでは一切感想がなく、ポイントも増えず終始手応えが無かったです笑 ただPVだけは多かったので良かったです。
残念ながら人気は出なかったので、休載に入ります。また来年の夏辺りに再開するでしょう。あ、でもどこかで1話だけ更新するかもです。
それではまたっ!




