第81話 夏祭り その4
「うっわ! オッサンつっよ!!」
「がっはっは! 惜しかったな坊主! また来な!」
屋台で待ち受けるは鉢巻を頭に巻いたオッサン。凄いガタイだ。身長180cm越え、体重も100はあるかもな。スポーツをしているであろう男子大学生を易々蹴散らしやがった。
「きっちり削れよ。瞬殺されたら意味ないからな」
「言われなくてもわかってるよ」
「あの」
「ん? どうした麗歌」
麗歌は俺と鷹峰の腕を引っ張り、屋台から俺と鷹峰を遠ざける。
「観察していて気づいたことがあります」
と、麗歌はオッサンの腕相撲での癖を語り始める。
「あの方、どんな相手でも最初はわざと手を抜き、押されているフリをします」
言われて見ると確かに。
一瞬で倒しちゃうと盛り上がらないし、再挑戦も無いからか。
「その押されているフリの長さは相手の強さで変動します。パワーのある相手は一瞬だけ押されているフリをして、すぐに倒しています。ですが、力量差のある相手はギリギリまで押されてから押し返しています」
「言いたいことはわかった」
鷹峰は納得した表情をする。
「えっと? つまりどうすりゃいいんだ?」
「最初は弱い力で押して相手を押し込み、最後の一押しで一気に力を入れればいいのです」
こっちが弱い力で押せば相手は力を抜き、劣勢を装う。その瞬間、全力を出せば勝てる――ってわけか。
「力加減と演技力が肝です」
「やるだけやってみるよ。サンキュな、麗歌」
俺と鷹峰は麗歌のアドバイスを胸に、屋台の列に並ぶ。
「優秀な友人がいるのだな」
「まぁな」
「わかっていると思うが……」
「この作戦が通じるのは一度きりだ、二度目からは警戒されちまうからな。先手の俺は普通にやれってんだろ?」
「その通りだ」
やれやれ、嫌な役を引き受けちまったな。だがこれもかるなちゃまのお面のため。仕方あるまい。
順番がやってくる。
300円を払い、俺は机の前に立つ。机を挟んで正面にはオッサンがいる。
「お! あんちゃん強そうだな」
「そんなそんな。大したことないですよ」
俺はオッサンと右手を繋ぎ、机に肘を乗せる。
「れでぃ……ゴー!!」
レフェリーの合図で俺とオッサンは力を込める。
「ぬおっ!?」
「おらぁ!!!」
俺はフルパワーをつぎ込み、オッサンと拮抗させる。
「こん、の、ガキ……!!」
「へへ……!」
俺とオッサンがもし万全の状態でやったらこうも拮抗はすまい。すぐに俺が負けている。
だが、俺とオッサンの条件はイーブンではない。オッサンはここまでかなりの連戦をしている。中には強者もいただろう。疲労していないはずがない。勝ち目はある。
俺は削り役だが、別に勝ってしまっても構わないだろう?
「舐めるなぁあああっっ!!」
「……ちっ!!」
ダメだ。押し切られる……!!
「昴先輩! 頑張って!」
「!?」
麗歌の、珍しい張り上げた声が俺の背中を押す。
俺は底力を振り絞る。
「うおおおおおらっ!!!!」
何とか押し返すが、
「そこまで! 勝者チャンピオン!」
結局また押し込まれ、負けてしまった。
「ぜぇ! はぁ! やるな坊主! また挑戦しな!」
「……もう握力が無いですよ」
敗者は大人しく退陣する。
「……無様ですね」
厳しい言葉を掛けてくる麗歌。俺が負けたことが気に食わないのか、むすっとした顔をしている。
「悪いな。応援してくれたのに負けちゃって」
「別に良いですよ。作戦通りじゃないですか」
一方で、鷹峰は麗歌の作戦を実行。
俺に削られたオッサンはあえなく鷹峰に敗北した。
鷹峰はかるなちゃまとぽよよんのお面、あと氷水で浸けられていたオレンジジュースを景品に貰った。
鷹峰は景品のかるなちゃまのお面を俺に、麗歌にジュースを渡す。鷹峰はぽよよんのお面を満足げに抱え、祭りから消えていった。
アイツ、マジでハマってるな。かるなちゃまにハマりたてだった頃の俺と同じ顔してやがる。
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