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第80話 夏祭り その3

鼠屋(ねずみや)


 囁くような声。

 その声は日比人に向けられたものだが、日比人の隣に立っていた俺にも聞こえた。ボリュームこそ小さいが良く通る声だった。


 日比人の背後を見ると、夜だから肌寒いとはいえこの夏の日にパーカーを着た女子が立っていた。どこかで見覚えがあるなと思ったら、エグゼドライブ大運動会の話を日比人としていた時、突っかかってきた奴だ。確かeスポーツ部の部長だったか。薄紫の髪で、目つきが鋭い。


「雨宮部長も来てたんですね。こういうの好きじゃないと思ってました」


 雨宮……それがこの女子の名前みたいだ。日比人が敬語を使ってるのは部長だからかな。正直、年上には見えない。綺鳴ほどではないが低身長で、スレンダーだ。


「うっさいのは嫌いだけどね。でも射的はやりたかったし」


 雨宮の両手には大量の荷物がある。


「まさかそれ全部……」


「そ。射的の景品」


「やり過ぎですよ……」


「悪いけど、ちょっと荷物持ちしてくれる? まだ取り足りないんだよね」


「えぇ!? まだやるんですか!? そんなに景品持ってるのに!?」


「次は輪投げやるの。アンタにも景品分けてあげるからさ。ほら、アンタが好きな……蛇遠れつだっけ? の景品もあるけど?」


「行きます! お供させてください!! あ、でも……」


 日比人が俺に視線を向けてくる。


「行ってこいよ。推し活は全てに優先される。他の面子には俺から言っとく」


 ちなみに女子達は俺達より数列前、最前列の方で太鼓隊を見ている。


「ありがと兎神くん! それじゃ!」


 日比人と雨宮は輪投げの屋台へ向かっていく。去り際、雨宮が俺を一瞥してきた。


「……」


「……?」


 なんだか睨まれたような……? まだ俺に対して悪感情を抱いているのかな。


「鼠屋先輩はどこへ行ったのですか?」


 いつの間にか背後にいた麗歌が聞いてきた。


「部活の部長について行ったよ」


「そうですか」


「アオと綺鳴は? まだ太鼓見てるって?」


「はい。見入っているようでしたので、私だけ戻ってきました」


「じゃあお前、ちょっとここで待ってろ」


「? わかりました」


 俺はホットドックの屋台へ行き、ホットドックを一本買って麗歌の元へ戻る。


「ほれ」


「むがっ」


 俺はホットドックを麗歌の口に突っ込む。

 麗歌はホットドックを受け取り、一口噛みちぎる。


「にゃにをふるんですか……」


「お前、綺鳴に食べさせるのに夢中で何も食べてなかったろ」


「……よく見てますね」


「お前は綺鳴とは別ベクトルで心配なとこあるからな~。目は離せないんだよ」


 麗歌はモグモグと咀嚼しながら、不満げな瞳を向けてくる。


「そんなこと言って、ホントは女子の口にホットドック(棒状の物)を突っ込みたかっただけじゃないですか?」


「俺はそんな変態じゃねぇ!」


「冗談ですよ」


 言葉尻に笑って、麗歌はホットドックを食べ進める。


「兎神昴」


「はい?」


 次から次へとなんだ。と思い、声の方を向くと、今度は眼鏡の男――鷹峰がいつも通りの真顔で立っていた。


「鷹峰? お前……祭りとか似合わないな」


「そっくりそのまま返してやる。君、いま暇か?」


「暇でもお前と祭りをまわる気はないぞ。お前とまわるぐらいなら1人でまわった方がマシだ」


「それもそっくりそのまま返してやる」


「あの……昴先輩、この方は?」


「鷹峰翼、ウチの高校の生徒会副会長だ。見たことぐらいあるだろ」


「ああ、そういえば……じゃあこの人が六道先輩の……」


 コイツが六道先輩の元許嫁であることは麗歌も知っているみたいだな。


「いいから早くついてこい。景品が無くなる前にな」


 景品?


「月鐘かるなのお面、欲しくないか?」


「天地がひっくり返っても欲しい」


「ならば来い」


 鷹峰は最低限の説明もせず、1人歩き出す。


「仕方ねぇなぁ……悪いけど、ちょっと行ってくる」


「私も面白そうなのでついていきます。お姉ちゃんとアオさんはまだ動きそうにありませんし、メッセージを送っておけばいいでしょう」


 グループにメッセージを残した後、俺と麗歌は鷹峰の後をついて行った。

 鷹峰が行きついたのは――腕相撲の屋台。屋台の中に一台のテーブルがあって、そこで筋骨隆々の男がバッタバタと挑戦者たちを倒していく。


「腕相撲の屋台なんかあるのか……」


 屋台の看板にはルールが色々書いてある。


・腕相撲で勝ったら景品3つプレゼント!

・挑戦1回300円!


 景品の中には――エグゼドライブ生のお面が並んでいる。そこにはかるなちゃまもあるし、他の六期生の物もある。


「僕の目的はぽよよんのお面だ」


「お前、もしかしてどっぷりVチューバーにハマっちゃってる?」


「ハマり過ぎて溺死しそうだ」


 ぽよよんのお面を見る目がガチだから本当にハマってるみたいだ。

 ふと麗歌を見ると、麗歌は睨むようにエグゼドライブの景品を見ていた。


「……まったく……ウチのライバーを勝手に利用して勝手にオリジナルの商品を作って景品にするなんて……直接売買しているわけじゃないから見逃しますが……グレーゾーンであることを自覚してほしいものですね……」


 それぐらい許してやれと言いたいが、実際法律的にアレがセーフなのかどうかわからん。


「あんな巨漢、まともにパワー勝負しても勝てないな」


「ああ。なんでもアームレスリングの元日本チャンプだとか。1対1じゃまず勝てない、だから」


「片方が削ってもう片方で仕留める、ってわけか」


 腕相撲は格下相手ならばさほど力を使わずに勝てる。だが、ある程度拮抗したパワーならそうはいかない。俺と鷹峰、2人と連戦すればさすがのあのオッサンも疲れて崩れる可能性が高い。


「君には削り役を頼みたい」


「却下だ。お前が削れ。俺が仕留める」


「ならばジャンケンで決めよう」


 ジャンケンの結果――

 俺が先手となった。

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