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第79話 夏祭り その2

 朝影姉妹と共に公園に着くとすでに日比人がいた。日比人は特別な格好ではなく、半そで半ズボンという俺と同じようなラフな格好をしていた。ちょっと安心。もしも日比人も浴衣を着ていたら俺だけ浮いていたな。


「うわぁ! 綺鳴さんも麗歌さんもとっても綺麗だね。浴衣のデザインも2人それぞれにピッタリだよ。特に……」


 日比人は自然と、綺鳴と麗歌の浴衣姿を褒めていく。俺なんかと違って的確で、語彙に富んだ褒め方だった。麗歌が『見習ってください』という視線を向けてきた。『努力はするよ』、と俺も視線で語った。


「さてと、後はアオだけだな」


「お待たせ!!」


 早足でアオがやってきた。

 水色で涼し気な印象の浴衣を着ている。


「ごめん! 浴衣着るのに時間かかちゃって……」


「アオちゃん可愛い!」


「アオ先輩、似合ってます」


「あはは、この3人と歩いていると嫉妬の目線が凄そうだね……」


 順々にアオの浴衣の感想を言う面々。

 順番的に次は俺だ。アオもこっちを見ている。


「ああ、うん。良いと思う」


「はい?」


 やべっ。

 さっきの綺鳴の浴衣のインパクトが強すぎて、つい気の抜けた感想を……!


「う~が~み~くん」


 アオが顔を近づけてくる。


「待てアオ。もう一度チャンスをくれ」


 アオはムッとわかりやすい怒った顔をする。小学生ぐらいのアオを思い出す、子供っぽい表情だ。


「……兎神君が言うから着てきたのに、それはないんじゃない?」


「可愛い! 似合ってる!」


「全部他の人が言ってたことじゃん。もう知らない」


 アオはプイっと女性陣の方を向き、歩いていく。


「今のは兎神君が悪いと思うよ」


 日比人が手で持ったうちわで仰いでくる。


「わかってるよ。ま、りんご飴でも奢れば機嫌直すだろ」


「……黒崎さんのこと舐め過ぎじゃない?」


 やれやれ、と日比人にも呆れられてしまった。

 皆が言うように、アオの浴衣も凄く良かった。だけどやっぱり、まっすぐ褒めるのは照れくさいんだよなぁ……。


 

 --- 



 尾多沼花火大会、そしてそれに付随する尾多沼祭り。

 この市最大の祭りであり、規模はさすがの一言。商店街一帯から尾多沼前の河川敷に掛けて屋台が連なっている。近辺の道路は封鎖され、時間が来れば東と西から神輿が来る。祭りの中心では太鼓隊が太鼓を鳴らし、その周囲を笛隊が固め、太鼓の音と笛の音が祭り全体に行き届く。来賓として演歌歌手も来ており、太鼓に合わせて演歌が流れてくる時もある。


 俺達は屋台の並ぶ道で立ち止まる。


 射的、金魚すくい、クジ引き等の娯楽系屋台とりんご飴、綿あめ、焼きそばなどの食品系の屋台。

 どっちから周ろうかと相談していると、綺鳴の腹が大きく鳴ったので食品系から周ることにした。


 綺鳴はその小柄さとは裏腹に、良く食べ良く飲む。焼きそばをリスみたいに口いっぱい頬張って完食し、間もなく綿あめとチョコバナナを平らげていた。あの栄養はどこにいっているのだろうか。身長でも無ければ腹でもない……まぁ考えられるのはあそこだけだな。


 屋台の飯は割高だということはわかっているのに、ついつい手が伸びてしまう。この高さは思い出料金として割り切ろう。なぜか祭りで食う飯って格別に美味いしな。


 食べ歩きながら太鼓の音が響く方へ進む。俺達は太鼓隊の元へたどり着き、そして全員一斉に食べる手を止めた。


「……あの人マジか」


 中央に高台を据え、その周囲を太鼓隊が10人ぐらい囲んでいる。そして高台の上、そこには花形――女性の太鼓隊が1人で巨大な太鼓を叩いていた。


 ――六道先輩だ。


「せ、生徒会長……!? え、生徒会長だよねあの人!?」


 日比人が慌てふためく。


「そうだよ。間違いなくな」


 太鼓叩きたいとは言ってたけど、冗談じゃなくてマジでやるか普通。ホント規格外だな。さすがにふんどしは履いてないけどさ……法被着てさらし巻いて短パン履いて、メインで太鼓を叩いてやがる。


「晴楽ちゃんすごーい!!」


 綺鳴がきゃっきゃっと跳ねる。綺鳴と六道先輩は同じVチューバー事務所の同僚、顔見知りで当然である。アオは顔を引きつらせ、麗歌は「ふむふむ」と『あの太鼓捌き、何かの企画に使えそう』という顔をしている。


 つい最近関わり出したであろう太鼓隊に認められるあのカリスマ性、さすがは大企業の社長の娘か。

 汗をまき散らし、楽し気に太鼓を叩く六道先輩の姿は老若男女問わず視線を集める。法被は羽織っているだけで、あとはさらしだけ。かなり露出の広い格好をしているのに、邪まな感情を抱かない。ただただその姿は美しかった。


「ん?」


 ぱち。と六道先輩と目が合った。

 俺が手を振ると、六道先輩はにこっと笑ってウィンクしてくれた。不覚にもキュンとしてしまった。俺の中にある微かな乙女心が呼び起こされた。イケメン過ぎるぜあの人。

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