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第73話 鷹峰翼の1日

 鷹峰翼の1日は早朝5時から始まる。


 起きてすぐ水を一杯。果物や野菜をミキサーに掛け、オリジナルのスムージーと栄養調整用のサプリメントを飲み、軽食を食べ、身支度とストレッチを済ませた後で部屋を出る。


 鷹峰翼は六道グループ幹部・鷹峰風摩(ふうま)の養子であり、現在は六道グループが管理する高層高級マンションの20階の一室で1人暮らしをしている。朝食が終えた彼が向かうのはマンションの最上階にあるジムだ。マンション住居者は無料で器具を使える。壁は全部ガラス張りで、最上階から街を見下ろしながらトレーニングできる人気の場所だ。

 鷹峰はランニングマシンに乗り、ランニングを始める。その耳にはワイヤレスイヤホンが付いている。

 今までの鷹峰はイヤホンを装着せず、何も聞かずにトレーニングに励んでいた。だが最近は違う。トレーニング中ずっと音楽を聴いているのだ。

 鷹峰は眼鏡系イケメン。ゆえに、彼が聞いている音楽はクラシックのような高貴なモノだろうと他のジム使用者は勘違いしているが、彼が聞いている音楽は――


『ぽーよぽよぽよ、ぽーよぽよ♪ 時代はぽよよん、ぽーよぽよ♪』


 未来ぽよよの楽曲、“ぽよよん☆ジェネレーション”である。


(不思議だ……)


 いつもより軽く動く脚に鷹峰は驚いていた。


(この歌を聞くと、筋肉がいつもより躍動する。ストレスが軽減する……一体どういう現象だ? これが晴楽先輩や兎神昴の力の源……Vチューバーの力か。恐らくは歌に特殊な音波を織り交ぜ、自律神経を調整しているのだろう)


 大真面目にそう推理する。


(いずれ科学的にこの歌を解析しなければな)


 トレーニングを終えた鷹峰はプロテインを摂取した後、部屋に戻る。

 朝10時。鷹峰は机につき、勉学を始める。午後の塾に備えての予習だ。

 勉強の際にはイヤホンは付けない。音楽が脳の吸収力を低下させることは研究で明らかになっていること。勉強の時は勉強のみに集中する。


「……」


 鷹峰は勉強に入る前に、ぽよよんのSNSのアカウントをチェックする。


(今日は10時から生配信か……ゲーム実況など興味はないが)


 鷹峰は一目だけと思い、動画サイトを開いてぽよよんの動画を見る。部屋は1人しかいないので、イヤホン無しでスマホから直接音を聞く。


「…………はっ!!」


 気づいたら30分が経過していた。

 まったく知らないRPGを、ぽよよんと共に楽しんでしまっていた。

 ゲームというものをやったことがない鷹峰にとってぽよよんのやっているゲームはどれも目新しく、面白い。ぽよよんも鷹峰と同じくゲームに関して疎いので、鷹峰と感覚がリンクする。かと言ってぽよよんはゲームが下手ではなく、手先が器用且つ頭が良いので変に詰まることがない。こういった点も鷹峰と強くリンクし、鷹峰にとって非常に面白いゲーム実況になっている。


「ダメだ。何をやっている……勉強に集中せねば……!」


 スマホを消し、机の上に置く。


「……後5分だけ。残りの時間をいつも以上に集中すれば取り返せるか」


 鷹峰はまた動画サイトで動画を見る。そしてみるみる20分を消化した。


「ダメだ。このままでは……!」


 鷹峰はスマホの電源を落とし、自室から出てリビングにスマホを置こうとするが――


「なにか緊急な連絡があったら困るか……」


 そう判断し、スマホの電源を入れ直して部屋に戻る。

 そしてそのまま自然に、無意識の内に動画を開いてしまう。


「さすがにここまでだ。今日のスケジュールを消化した後、アーカイブで見よう」


 鷹峰は今度こそぽよよんへの誘惑を打ち切り、勉学に集中した。



 --- 



 全てのスケジュールが終わったらぽよよんの配信を見る。

 そう決めてからの鷹峰の集中力は凄まじいモノだった。

 今まではデザート無しに筋トレ・習い事・塾をこなしてきたが、配信を見るというデザートを用意することでニンジンをぶら下げられた馬の如く、実力を発揮できるようになった。

 推しを見つけた時、推しで頭がいっぱいになって集中力が散る者と、推しを原動力に変えて頑張れる人間の2パターンがある。鷹峰は後者だった。ちなみに兎神は時と場合によって前者と後者を行き来させる。


「午後9時。全スケジュール完了」


 塾の前、腕時計を確認し呟く。

 帰宅し、風呂を済ませ、ホットミルク片手にソファーで配信を楽しむ。


『そういえば皆はもうぽよよのコースター、手に入れてくれたぽよか?』

「ほう」


 ぽよよの配信で、エグゼドライブがカラオケ〈GUNGUN(ガンガン)〉とコラボしていることを知った鷹峰は一度動画を止め、スマホで調べる。


「なるほど」


 コラボドリンクを頼むことでランダムでコースターが貰えることを知る。


「……この値段で、この量のドリンクか。客を舐めているな……いや、コースターが貰えるのならアリなのか?」


 鷹峰はホットミルクを飲み、考える。


「カラオケ……か。行ったことはないが」


 明日は珍しくスケジュールが空いている。自主トレ、自主勉は日課のためやるが、習い事や塾はない。


 翌日――


 鷹峰は昼過ぎに1人でカラオケ〈GUNGUN(ガンガン)〉に足を運んだ。


「お時間はどうなされますか?」


「……何時間刻みで提供しているのですか?」


「学割で1時間200円です」


「そんなに安いんですね……じゃあ念のため3時間で」


「わかりました。1ドリンクオーダーとドリンクバー、どちらになされますか?」


「1ドリンクオーダーとは?」


 カラオケ初心者の鷹峰は店員と5分ほど話し込み、カラオケのシステムを理解して部屋に向かう。

 早速コラボドリンクをオーダーし、時を待つ。


「……せっかく来たのだし、歌うか。しかし、歌なんてほとんど知らないな」


 鷹峰はスマホでカラオケの遊び方を調べ、デンモクで曲の検索欄に自身の高校の名を入れる。


「さすがに校歌は入ってないのか……」


 では。と鷹峰は仕方なく、知っている曲である“ぽよよん☆ジェネレーション”を入れる。


「ぽーよぽよぽよ、ぽーよぽよ♪ 時代はぽよよん、ぽーよぽよ♪」


 恥ずかしさを感じながらも、段々と声の調子を上げていく鷹峰。

 その時――


「失礼しまーす」


「ぽ――え!?」


「こちらドリンクと、コースターになります」


「あ、はい」


 男性の店員が部屋に入り、ドリンクとコースターを置いてさっと去っていった。

 鷹峰は自身の全力の歌を聞かれた恥ずかしさから顔を赤くさせる。


「……ロボットが持ってくると書いてあったはずだが……」


 コラボ特典がある場合は盗難防止のため店員が持ってくる決まりであることを鷹峰は知らなかった。

 一度中断されてしまったので、曲を止める。


「……コースターは……ぽよよんではないな」


 残念。と鷹峰は曲を入れるためデンモクを手にする。


「む? 採点機能というモノがあるのか」


 鷹峰は採点機能を入れ、また曲を入れる。


(この音程を示す棒に当たるように歌えばいいんだな)


 鷹峰は歌いきる。そして採点結果が出る。


「88点か。良いのか悪いのかわからないな」


 ふぅ。とひと息つく。 

 鷹峰はコラボドリンクを見て、迷う。


「あと一杯だけ、頼んでみよう」


 今度は歌わず、ドリンクを待つ。


「失礼します。コラボドリンクとコースターです。ごゆっくりどうぞ~」


 コラボドリンクとコースターが届く。鷹峰はコースターを見て、つい立ち上がってしまった。


「ぽよよんだ……」


 鷹峰はぽよよんのコースターを手に、微笑む。

 全身を駆け巡る幸福感。鷹峰は思わずガッツポーズを取ってしまい、すぐに恥ずかしくなって握った拳を隠した(誰も見てないのに)。


「目的の品は手に入れた。――が、このカラオケという娯楽、中々に面白い。社会では付き合いでカラオケに行き、仲を深めることもあるという。練習しておいて損はない……」


 鷹峰翼は新たに1人カラオケにハマったのだった。

 2時間ぶっ通しで歌った鷹峰は、充実している自分の心に気づく。


「そうか……これが……」


 鷹峰は、ある日の喧嘩を思い出す。

 何度倒しても立ち上がる、同い年の男の姿を思い出す。


 Vチューバー、そして推し。


 その存在によって、人がどれだけ強くなれるかを、微かだが理解しつつあった。


「……ようやく、お前に負けた理由がわかったよ……兎神昴」

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