第70話 海の家
海沿いの道路を真っ赤なオープンカーが走る。
潮の香りがする風が肌を撫でて突き抜けていく。
「いやぁ、悪いね~。また手伝ってもらっちゃって」
運転しているのは俺の叔母さん、兎神絵里。俺と瑞穂はエリちゃんと呼んでいる。
「ガールフレンドまで動員してくれるとは、ホント助かるわ~」
「言っとくが、彼女じゃないからな」
助手席には俺、後部座席にはアオと瑞穂が居る。
「幼馴染です」
ビジネススマイルでアオは言う。
「マジで! 妹も可愛くてこんな可愛い幼馴染も居るとか、アンタ恵まれ過ぎじゃない?」
「そうでもないよ。可愛い分、どっちも口うるさいからな~」
ガン! と瑞穂が助手席を蹴ってくる。
「おにぃがちゃんとしてないから私とアオ姉が口うるさくなってるんでしょ!」
「瑞穂ちゃんの言う通りだよ。兎神くんはもうちょっとしっかりとして」
「ほら口うるさいだろ?」
「あはは! 昴は将来、尻に敷かれるタイプだねぇ」
エリちゃんは美人だ。
肌は焼けていて、身長は高くて、スタイルも良い。兎神族特有の目つきの悪さはあるものの、難点と言えばそれだけ。だが32歳で未婚である。彼氏すらいないらしい。理由を挙げるなら、この自由奔放すぎる性格かな。
「ていうかアオちゃんさ、兎神って3人もいるから、こっちにいる間は呼び方変えない?」
「え?」
「昴って呼びなよ。あ、私のことはエリちゃんって呼んでね」
「昴……」
アオは俺の名を呼ぶと、顔を赤くして下を向いてしまった。
「なに照れてんだよ。昔は昴くんって呼んでたじゃねぇか」
「む、昔と今は違うでしょ!」
昔と今は違う……か。
振り返ると、シャツの隙間から汗に蒸れたアオの胸の谷間が見えた。
昔と今は違う……な。
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海の家〈兎海屋〉。
メニューは焼きそば、ジュース各種、フランクフルト、カレー、イカ焼き、かき氷、やきとうもろこしetc。
俺はエリちゃんともう1人のバイトさんA(マッチョな男性)とキッチンに立ち、アオと瑞穂とバイトさんB(優しそうな女性)が接客をする。
俺が焼きそばを慣れた手つきで作っていると、
「やるね昴! 料理の腕上げたか!」
エリちゃんはそう言って小さく拍手する。
「最近はずっと料理ばっかしてるからな」
メイド喫茶の調理場の経験が活きるとはな。
昼の忙しい時間も店長直伝の早業で余裕で捌けた。
「ていうか俺より、あの人何者?」
俺はマッチョなバイトさんに目を向ける。
「ああ、熊宿君ね。私の通っているジムで知り合ったんだよ。ジム友ってやつ? そんで海の家が人手不足って言ったら会社休んで応援しに来たんだよね。ホント友達想いの良い子だよ~」
熊宿さんはこちらをチラッと見ると、頬をピンクにして目を逸らした。
……なるほど。そういうことか。
エリちゃんが結婚する日は意外に近いのかもしれない。
「ふぅ、繁忙期は過ぎた感じかな」
「そうね。もう14時過ぎだから客足はこれ以上増えないかな」
キッチンとホールの間にあるのれんを捲り、ひょこっと瑞穂が顔を出してきた。
「おにぃ、なんか呼ばれてるよ」
「誰に?」
「なんかすっごい美人の2人組」
「なんだと……!?」
噂に聞く逆ナンか!
「行ってきなよ。こっちは大丈夫だから」
「うっす!」
俺は軽く髪を整え、ホールに出る。
「げ」
俺は見知った顔を見つけ、眉をひそめる。
「おーっす! すばるん」
「こんにちは。昴くん」
一方は活発ピンクツインテ女子、六道先輩。
もう一方はメイド喫茶に務める先輩、黒髪ロングの美人さん村雲先輩だ。
2人が向かい合って座るテーブルの前にはアオが立っている。
「六道先輩に村雲先輩……どうしてここに?」
「偶然だよ偶然! なんだか今日の朝急に海に行きたくなってさ~」
怪しい。
「ごめんね昴くん。昨日、雑談の中で海の家に行くこと言っちゃって。冷やかしに来たみたい」
「冷やかしに来たとは失礼なっ! ちゃんとボクにはアオたんの水着姿を見るって使命があるんだよっ!」
それを冷やかしと言う。
「私は誘われたから来ただけ。あなたたちがいるという情報は知らなかったわ」
村雲先輩は興味なさげにコップの氷をストローで回し、開いた窓から海を眺める。
「つーか、六道先輩と村雲先輩って接点あったんですね」
「村雲先輩は図書委員長だからね。委員会会議で生徒会や私たち風紀委員とも顔を合わせるんだよ」
「へぇ。じゃあお前も見知ってるのか?」
「うん。お世話になってるよ」
「てかさ~、すばるん、まず言うことない?」
六道先輩は俺の方を向き、羽織っていたパーカーを半脱ぎにした。
六道先輩は自分の水着――白のビキニ水着を見せてくる。
「ん……!」
思わず唸ってしまった。
水着姿だとよりわかる――六道先輩のロケットランチャーのデカさが。
前、写真で送ってきた水着と違う。アレはジャブだ。今回の水着の破壊力に比べたら全然――
「どう? ボクの水着、興奮するっしょ?」
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