第69話 水着配信会
7月31日(日曜日)。雨続きだった28日~30日より一転、今日はカラッと晴れた。
本来アルバイトの日だが、店長が休みをくれた。『エグゼドライブの水着配信、見たいんだろ?』と気を遣ってくれた。ほんっと何から何までイケメンな人だ。
ちなみに28日~30日は特筆すべきことは何も起きていない。強いてあげればそうだな……六道先輩が自分の水着姿の写真を『使用許可!』という文字付きで送ってきたり、日比人とオンラインでゲームを楽しんだり、本読んだり配信を見たり、おすすめに出てきた筋トレ動画を見て実践して3分で飽きたり……と、ホント、なんてことない日常を過ごしていた。
そうそう、最近麗歌は綺鳴を連れまわしてカフェやら観光名所に行っているそうだ。コミュ障をちょっとでも改善させるための策だとか。2人が楽しんでいる様子が度々写真で送られてくる(もちろん即保存)。麗歌のテンションを見るに、コミュ障改善はただの建前でアイツは綺鳴とデートがしたいだけだと思う。
「さてと」
三種の神器(ポテチ・缶コーラ・缶コーヒー)を準備。
ネット環境、音質のチェック完了。
午後1時。エグゼドライブ水着発表会が始まる。
『『『エグゼドライブ水着お披露目会スタート!!!』』』
Vチューバー達のタイトルコールで生配信が始まる。
1期生から6期生までいるが、全員が揃っているわけじゃない。それぞれの期につき1人~2人欠けている。6期生もぽよよんが体調不良で、れっちゃんはスケジュール都合で休みだ(ドンマイ日比人)。まぁいま大人気のエグゼドライブ生を同じ時間に全員集めるのは難しいから仕方がない。
場所は砂浜。彼女たちの後ろには大海原が広がっている。海の上には一隻の船……という名のステージがある。
それぞれ最初は基本衣装を着ており、1期生から順に船に上がり、船の中で着替えて甲板で水着を披露、という流れだ。
6期生の番が来る。
まず最初に飛び出してきたのはヒセキ店長。
『ばいーん!』
と叫んで出てきたヒセキ店長はツインテールの髪を下ろし、ビキニ水着の上にパレオ(片端を結んで腰に巻く布)という、意外にも清楚な装いだった。
『どう? どう? ドキっとしたかな君たち!』
歯を見せて笑う店長。不覚にもドキッとしてしまった。いつもの活発で嵐のようなイメージとのギャップがまさに見事だった。これはいい意味で期待を裏切ったな。
続いて登場したハクアたんもまた、ギャップを感じさせる水着だった。
『出航~! ……なんちゃって』
左眼に眼帯、頭に海賊帽、シンプルなビキニ水着の上に海賊風のマントを羽織るという、まさかの海賊の船長スタイルだ。活発で荒々しい店長が清楚な格好をし、清楚なハクアたんが野性味のある海賊の格好をするというギャップ二連発――
「うおおおおおおおおっ! 夏休み万歳ッ!!!」
俺が叫ぶと、隣の部屋から「おにぃ、うるせえええええええええええっっ!!!」という声が壁ドンと一緒に響いてきた。
さてさて、最後はかるなちゃま……全体を通しての大トリだな。見てるこっちまで緊張してきた。
「……っ!?」
かるなちゃまの水着姿を見て、俺は声も出なかった。
『えへへ、どうかな……?』
白のうさ耳バンドに、へそ部分が露出した白スク。
まさかのバニーガール風水着!?
「エロさと可愛さが最高の比率で合致している。まだまだポテンシャルを秘めていたなんてさすがは俺の推し……!」
かるなちゃまは低身長だけど胸が大きいからな、ぴっちぴちのスク水が胸の形を完璧に象っている。そこがまた素晴らしい!
「フィギュア出るかな~。出たら欲しいな~」
コンコン、と扉がノックされ、こっちの返事を待つ間もなく開かれる。
訪ねて来た相手が誰かは言うまでもない。俺はPCの音量を下げて、外の音を拾えるようにする。
「おにぃ、明後日ひまぁ?」
この聞き方……怠いことを頼まれるやつだ。
「暇じゃない」
「暇でしょ。嘘つくな」
「友達と遊びに行く予定がある」
「その友達の名前は?」
「……鼠屋日比人。クラスメイトだ」
「アオ姉経由でその人と連絡できるか確認してみるね。もしその鼠屋さんに確認して、嘘だったら……」
「嘘だったら?」
「おにぃのコレクション全部燃やす」
「明後日暇です。オールフリーです」
「よろしい」
コイツはやると言ったら本当にやるからな。恐ろしい。
「そんで、明後日なにがあるんだ?」
「叔母ちゃんが海の家やってるじゃん。アレの手伝いに来てくれって」
「……またかよ。去年もやったじゃねぇか」
「いいじゃん。時給めっちゃ良いし。それに……私の水着姿見れるよ」
瑞穂がその平らな胸を張って言う。妹の水着姿に興味なんぞあるかってんだ。
めんどくさいな……暑い中焼きそば作るのやだなぁ~。
『エグゼドライブの水着フィギュア発売決定~!』
ヘッドフォンからそんな声が聞こえてきた。
フィギュア……高い……けど欲しい……金……バイト。
「仕方ない。愛しの妹の水着を見るためにいっちょやるか」
「え? ホントに期待してんの? きもっ」
瑞穂は俺を睨み下ろした後、部屋を出て扉を閉じた。やれやれ、反抗期な妹ちゃんだぜ。
「ああそうそう」
今度はノックもせず扉を開けられた。
「アオ姉にも声掛けたら来てくれるってさ」
「アオ? なんでアオに声掛けるんだよ」
「アオ姉要領良いし、即戦力でしょ。それにアオ姉の水着姿見たいしね~」
ぐへへ。とオッサンのような笑い声と共に瑞穂は去っていく。
そういやアイツ、昔はアオにガチ惚れしてたからな。その名残りで今でもアオに懐いてやがる。
ま、アオが来てくれるのは正直ありがたい。アイツはなんでもそつなくこなすからな。俺の負担が軽くなる。
海、か。なんとも夏らしくて、なんか行くのが恥ずかしいのは俺が天邪鬼だからだろうか。
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