第68話 夏休み会議
メイド喫茶のバイトを終えた後、俺と臨時メイド達はファミレスに足を運んだ。
「ファミレス……ここが……ファミレス……!!」
綺鳴はまるで天竺でも見てるかのようなキラキラした瞳をしている。
「……友達とファミレス。まさにリア充……!」
そういや、前に友達とファミレスで勉強するのが夢的なこと言ってたっけ。
友達+ファミレスというシチュエーションに憧れがあったんだろうな。
「兎神くん、ホントにいいの? 私たちの分全部奢るって……」
「ああ。店長から1万預かってるからな」
俺とアオと朝影姉妹に日比人の5人。俺以外はそこまで食べないだろうし、1万ありゃ足りるだろ。
ファミレスに入り、テーブル席に陣取る。
男子、女子で向かい合うように座る。なんか合コンみたいだな……。
ドリンクバー人数分と、それぞれの夕食を注文。
「ドリンクは男子が持ってくるよ。何が良い?」
「私はアイスコーヒーで」
「私もアイスコーヒーを。お姉ちゃんは……」
「えっと……わ、私もアイスコーヒーを……」
「飲めるのか? お前」
ぎくっ。と肩を揺らす綺鳴。
かるなちゃまは苦いの苦手って言っていた。だから綺鳴がアイスコーヒーを好むはずがない。
「ミルクと5:5で! ガムシロップ大量で!」
「そりゃもうコーヒー牛乳だ」
「綺鳴ちゃん、無理しないでオレンジジュースにしたら?」
母親が我儘な娘を諭すように、アオが問う。
「うぅ……そうします」
アオの母性が見事に綺鳴を包み込んだのだった。
俺と日比人はドリンクバーにドリンクを取りに行く。
「なんだか緊張するね」
氷をコップに詰めつつ、日比人がそんなことを言い出した。
「緊張? なんで?」
「だってあんな可愛い女の子ばかりなんだよ。緊張しない?」
ふと女子たちが待つテーブルを見る。
周囲の客たちが「アレは芸能人の集まりか?」とどよめいている。
朝影姉妹はどっちも美少女だし、アオも頻繁にナンパされるぐらいにはモテるんだったな。
「メイド喫茶で働いているせいか、たまにそういう感覚が麻痺する……」
「ははっ! なるほどね」
ドリンクを持ってテーブルに戻る。俺と日比人もアイスコーヒーだったため、余計に綺鳴のオレンジジュースが目立ってしまい、綺鳴は気恥ずかしそうにしていた。
それから注文していた料理が届き、雑談を交えながら食事を進める。空気の読めるアオが全員の共通の話題、盛り上がる話題を探す。流行りの歌手やお笑い芸人の話を振るもヒットせず、どうしたものかとドリンクを啜るアオ。
アオの話が一段落したところで、全員が興味を持つであろう話題を知っている俺が話を切り出す。
「エグゼドライブの水着発表会、そろそろだな」
するとすぐに日比人が反応を示した。
「うん。例年月末だからね。まだ告知が無いのが不安だけど」
綺鳴もアオもエグゼドライブの話題に頬を緩める。
「楽しみですよね!」
「今年はどんな感じになるのかな~」
エグゼドライブは年に一度、全員が水着を着るイベントがある。水着は毎年新規であるため、絶対に見逃せない。
「去年の水着は誰が一番良かったですか?」
と、麗歌が禁断の質問を切り出してくる。
綺鳴が期待を込めた目で見てくる……。
「私はかるなちゃまかな。敢えてのスク水スタイル、可愛かった」
アオが言うと、綺鳴は「えへ、えへ」と照れた。
「わ、私は……ハクアたん、です。黒のビキニ……ちょっとエッチで、良かったな」
今度はアオが顔を赤くする。なんでアオが照れるんだ? 謎だ。ハクアたんのファンなのかな。
「3人共エグゼドライブのファンなんだね」
日比人が笑って言う。同士が多くて嬉しいのだろう。
「僕は……ごめん。やっぱり推しのれっちゃんが一番可愛く思えた! パーカー&ビキニ! 良かった!」
「あ~、アレな。たしかにあの衣装のれっちゃんはいつも以上に可愛かったな。今年の水着はどんなのかなぁ」
「それで昴先輩は誰が良かったんですか?」
「……逃がしてくれないかお前は」
女子3人がやけに気合いの入った目で見てきやがる。日比人だけが穏やかな顔だ。
綺鳴が居る手前、かるなちゃまと答えたいのは山々だが……いや、嘘をつくのは良くないよな。
「……ヒセキ店長だ」
「えぇ!?」「うわぁ」「困った人ですね」
女子3人が驚きの声を上げる。気持ちはわかる。なんせ去年のヒセキ店長の水着衣装は、開始3分で運営からモザイク処理を受けるという……よく言えばド派手な衣装だったからな。
「兎神くん、チャレンジャーだね」
日比人が呆れ気味に言う。
「あんなのほとんど裸じゃないですか!」
綺鳴は怒り気味だ。
「変態ですね」
「やれやれだよ」
「待て待て! 露出の広さに目を奪われがちだが、色の配置とデザイン性が完璧だったんだって! よく見てくれ!」
女性陣の冷ややかな目は変わらない。
俺に気を遣ったのか、日比人が話を変える。
「そういえば尾多沼花火大会もそろそろだよね。みんなは行くの?」
「お祭り……人多い……ぼったくり……怖い……」
ぶるぶると体を震わせる綺鳴。その綺鳴に対し、麗歌が耳打ちする。
「……綿あめ、りんご飴、チョコバナナ……」
「お祭り……食べ物……美味しい……楽しい……!」
さっきまでの絶望顔から一転、幸福顔になる綺鳴。さすが麗歌、綺鳴の扱いには慣れている。
「綺鳴も乗り気になったみたいだし、この面子で行くか? ――いてっ!」
誰かに足をガン! と蹴られた。
机の下を見るも、全員足は定位置にある。誰に蹴られたかわからん……。
「昴先輩、何を堂々とスカート覗いているんですか」
「みゃっ!?」
綺鳴が慌ててスカートを押さえる。
「ちげぇよ! 物落としたから拾ってただけだ!」
俺の足蹴ったの誰だ? と聞いても多分犯人は答えないだろう。聞くだけ空気を悪くするだけだな。
体を起こし、話を戻す。
「そんで、どうする? 祭り」
「私は皆さんが一緒なら行きます!」
「私も大丈夫だよ」
「お姉ちゃんが行くのに私が行かないわけにはいきませんね」
「僕も行けるよ」
「よし。じゃあ決まりだな。臨時でRINEグループ作るから入ってくれ」
夏祭り用のRINEグループを作成し、適当にだべった後解散した。
外に出て、生暖かい風とセミの鳴き声に出迎えられて、ああ夏だなぁとしみじみと感じた。
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