第67話 4人のメイド達
メイド喫茶〈MoonRabbit〉。言わずもがな俺のバイト先だ。
そこに今日、臨時メイドが4人加入した。
俺と店長は更衣室の前でその4人が着替え終わるのを待っていた。
ちなみに4人の内3人は更衣室を使っているが、1人はトイレで着替えている。
「いやぁ、助かったぜ兎神。まさかあんな可愛い子たちを連れてきてくれるとはな」
「まだ助かったかどうかはわかりませんよ。不安材料は大量にありますからね」
ガチャ、と扉が開く。
更衣室の中から3人のうさ耳メイドが現れる。
「「おおぉ……」」
思わず唸る俺と店長。
「ど、どうかな……?」
まずアオ。清楚で真面目なアオに侍女であるメイド姿は調和している。世話焼きメイド、って感じの雰囲気だな。
「メイド服は良いけど……このうさぎ耳は恥ずかしいね……」
アオの感情を表現するように、うさ耳がぺたんと倒れる。
「この耳が良い味を出してますよ。私はこの制服気に入りました」
妙にこなれた風に着こなす麗歌。クールメイドって感じだ。敬語で容赦なくご主人様に罵詈雑言ぶつけるタイプ。
そして――
「無理無理。絶対無理……無理ったら無理ぃいいい!! やっぱり無理だよ私は!!」
綺鳴……はヤバい。メイド服も、うさ耳も、さいっこうに似合っている。小動物的な愛嬌を持つ綺鳴にここの制服は似合い過ぎている。背が低い割に大きい胸も強調されていて、可愛げの中にエロさもある。ロリ巨乳ドジっ子メイド……最強すぎる。
「麗歌ちゃんの嘘つき! メイド喫茶に連れて行ってくれるって言うから、てっきり客側だと思ってたのにっ!!」
「いつも昴先輩にお世話になってるんだから、たまには恩返ししないとでしょ」
「うぅ……それは一理あるけどぉ」
綺鳴は渋々承諾する。
なんだか弱みに付け込んでいるようで申し訳ないな(建前)。
「いんやぁ、全員似合ってるし、属性もちゃんとすみわけできてるし、完璧だな」
「店長、まだ1人残ってますよ」
そう。まだ1人、不安材料が残っている。
男子トイレの扉が開かれ、最後のメイドさんが現れる。
「う、兎神くん……確かに僕は細身だけど、女装はさすがに無理だと思うんだ……」
鼠屋日比人だ。中性的な顔立ちをしているから女装できる……と踏んでいたのだが、
――予想以上の出来だ。
「いい! いけてるぞ日比人!!」
「鼠屋先輩、可愛いです」
「え……凄い。可愛いよ日比人君……!」
「ほ、ほんとに?」
男の娘メイド日比人。冗談半分だったがいけるな。もちろんカツラ被ってるし、化粧もしているけど。ボーイッシュな感じの女の子に見える。駅前に置いておけば1日で10人はナンパ師を釣れるだろう。
「……意外なダークホースだな。お客さんには性別が男子であることを敢えて教えておこう。その方が意外性があって面白い」
「何も言わずに出したら普通に女子だと思われますもんね」
「うぅ……恥ずかしい。兎神くん、報酬のれっちゃんのキーホルダー、絶対頂戴ね」
「わかってるって」
隣で綺鳴が「れっちゃんファンかぁ……!」とちょっと嬉しそうにしている。
「じゃあ開店前に接客をフロアリーダーから学んでくれ。メイド喫茶はミスもお客様は喜んでくれる。あまり気負わずやってくれ」
店長の一声でキッチン組とメイド組で分かれる。
メイド達の様子が気になるが俺は俺で仕事をしなくちゃな。
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開店は9時半。
まだ昼前で客足は少なかったから俺は店長の指示でホールの様子を覗き見ていた。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
まるで10年選手のような慣れた笑顔でアオが男性客を迎える。男性客は見知ったメイドが居ないこととに戸惑いつつもアオに案内され店内に入る。
さすがアオだ。話して1分で相手の緊張をほぐした。ずっと学級委員や風紀委員をやってきた経験が活きている。上手く場の空気を読み、回している。
「あ、えっと、もう一度注文よろしいでしょうか……」
一方で、意外に動きが固い麗歌。接客業の経験なんてないだろうし、そこまで前に出るタイプでもないからな。当然と言えば当然。
クールで出来そうな見た目の麗歌がミスする様はギャップ萌えを生み、客の心を掴んでいるので結果オーライだ。
「君、本当に男の子?」
「か、可愛すぎない?」
「あ、あはは。ありがとうございます……」
一番注目されていたのは男の娘メイドの日比人。
ネームプレートにデカく“男性”と書かれており、それを見た客が次々と驚いている。
「むぎゃ! ご、ごめんなさい! ジュースがちょっと零れちゃいましたぁ!!」
「……やれやれ」
綺鳴はやはり、ドジを連発していた。
注文を間違える。運んでいるジュースを零す。緊張から体を震えさせる。客側から緊張をほぐそうと必死に会話をするぐらいだ。どっちが接待されているのやら。挙句の果てには客からオレンジジュースを貰っている。
「……今日ばかりは俺も客になりたい」
「なにサボってるの兎神くん」
アオがいつの間にか隣に立っていた。
「それとも、ご主人様って呼んだ方が良かったかな?」
「ん~……」
俺はまじまじとアオを見る。
「え? な、なに?」
「なんか、既視感が……あー。そういや昔、俺が王子様でお前がメイドって設定でおままごとやったことなかったか?」
「瑞穂ちゃんに付き合ってね。アレのオチ、覚えてる?」
「え? なんだったっけな……」
「え~。忘れちゃったの? 最高に面白かったのに」
アオはクスっと笑って、ホールへ戻っていった。
俺は記憶を掘り起こす。
「あ」
思い出した。
王子様は終盤、姫(瑞穂)とメイド(アオ)の2人と付き合い、そしてその二股がメイドにばれ、最後メイドに毒殺されたんだ。
そんで残った姫とメイドが結婚するという謎の展開だったな。あの頃のアオはまだ女性らしさが無くて、傍から見たら美少年だった。そんなアオに小さい頃の瑞穂は溺愛していて、こういうエンディングを作ったんだったな。
「邪魔ものだからって、毒殺はねぇよな……」
あの時の釈然としない気持ちが蘇ってきた。
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昼頃は鬼のような忙しさだった。
「オムライス3つ追加! あとブルーハワイケーキ3個お願いします!」
麗歌の声がキッチンに響く。麗歌は注文を言うと、すぐさまホールへ走っていった。
店長は必殺技のフライパン二刀流を発動させる。
俺は溜まった注文の内、自分が作れる範囲のモノを作っていく。
「お前の連れてきたメイド達ちと人気過ぎだな! 話によるとSNSでも話題になってるらしいぞ!」
「夏休みというのもデカいですね……! 手が回らない!!」
それから後半組にバトンタッチするまで、怒涛の注文ラッシュが続いた。
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