第66話 メイド選抜
「夏祭りぃ!」
六道先輩はポスターを凝視し、目を輝かせる。
「そっか! あるんだ夏祭り!」
「毎年やってるよな」
「うん。最近は行ってないけど、小学生ぐらいの頃は兎神くんと瑞穂ちゃんとよく一緒に行ったよね」
「神輿も出るし、太鼓隊も出るかなり派手な祭りだったよな」
「太鼓!?」
六道先輩がいちいち驚く。
そっか。六道先輩、家この辺りじゃないもんな。夏休みの期間とかあの高級マンションから離れないとなると、この祭りの存在を知らなくても不思議じゃない。
「ボク太鼓やりたい! 法被とふんどし着たい!!」
「いや、女子はふんどし穿かないでしょ……」
六道先輩がふんどし穿いて人前に出てきたら、演奏とはまったく別のところで注目を集めてしまうだろう。
「なんにしても太鼓やりたい! よーしアオたん! ささっと学校行ってささっと会議終わらせて、太鼓隊に殴り込みに行くよぉ!!」
六道先輩はアゲアゲのテンションのまま走っていく。
あの人は夏の暑さとかお構いなしだな。分けて欲しいその元気。
「私は太鼓やりませんって」
「六道先輩はガチで太鼓やるつもりなのか?」
「やると言ったらやる人だよ。ウチの高校の髪色を自由にしたのもあの人、制服の改造を自由にしたのもあの人だからね」
「えぐい行動力だな……」
「まったく。私も早く行かないと文句言われそうだし、ここでバイバイだね」
「おう」
アオは小走りして、俺から少し距離を取った場所で立ち止まった。
「……祭り、8月13日、だよね?」
「ああ」
「……えっと、私……その日、予定空いてる、から……ね」
流し目で、照れくさそうにこっちを見てくるアオ。意図が読めん。
「へぇ。それがどうした?」
「……別に。ただそれだけ」
アオはそそくさと走っていく。
「祭り、か」
綺鳴はこういう行事興味ないだろうなぁ。でも連れ出したらいちいち反応が新鮮で面白そう。誘うだけ誘ってみようかな。
「って、コンビニコンビニ! 早く冷たいモン口入れないと死ぬ!!」
俺は1人、またコンビニを目指す。
---
家に帰り、愛しの妹にアイスやら菓子やらジュースやらを渡した後、部屋に入り一呼吸。
カフェオレとグミを交互に口に含みながらネットサーフィン。アニメを見て、最新のゲーム情報に目を通して、動画サイトを開いて6期生の動画を見漁る。
夕方の5時を回った頃だった。俺のスマホに店長から電話がかかってきた。
「はいもしもし。兎神です」
『よう兎神。休み中に悪いな』
「いえ、大丈夫です。どうしました?」
『実は明日、メイドの数が足りなくてどうしたもんかと思ってな。ほれ、夏休み中は高校3年組がこぞって夏期講習でいないだろ? 唯一村雲は受験勉強の必要ないっつって夏休みも来てくれているが』
村雲先輩、確か3年でトップレベルの頭の良さだったっけ。推薦じゃなく一般でかなり高偏差値のとこを狙うと聞いていたが……それで受験勉強の必要ないとか凄いな。
『その村雲も、夏風邪でダウンしちまってな』
「あらら」
『お前の知り合いでメイドできる奴いないか? 3人ほど必要なんだ。頼む! 時給は弾むからさ!』
3人か。頭の中で候補を並べてみる。
六道先輩、麗歌、綺鳴、アオ。この辺りに頼んでみるか。
「わかりました。声かけてみます」
『助かる。結果が出たら報告してくれ』
「はい」
通話が切れる。
まず一番望み高い六道先輩に電話を掛けてみる。六道先輩は一度メイドをやってくれたことあるし、快く了承してくれるはず――
『ごっめーんすばるん。参加したいのは山々なんだけど、明日の夜に先輩とのコラボ配信があってさ。入念に準備したいんだよねぇ~。メイド喫茶に顔出す余裕はないかなぁ~』
という感じで、六道先輩には断られてしまった。
あてが外れた。六道先輩は来てくれるもんだと思っていた。
次はアオか。アオはメイドとかやってくれそうに――
『いいよ。行くね』
「え? マジ?」
なんとアッサリOKを貰えた。
『うん。メイド服着てみたいし、兎神くんがお世話になっている職場も一度見ておきたいと思ってたしね』
「お前は俺の保護者かよ。――とにかく助かる。詳しくはRINEで送るよ」
『りょーかい』
アオが確保できたのは大きい。アオは要領が良いからすぐに仕事を覚える。即戦力だ。後は……、
『なるほど。私とお姉ちゃんにメイドになれと』
「ああ。なんとかならないか?」
『私は構いませんよ。兎神さんにはお世話になってますからね。ただお姉ちゃんを騙――連れて行くのは苦労しそうです』
「まぁ、綺鳴にメイドを頼むのは難しいよな……」
『でも見たいですよね。お姉ちゃんのメイド姿』
「もちろんだ」
『私も同じです。お姉ちゃんのメイド姿は絶対可愛くてヤバいです。なんとか連れて行きます』
コイツがシスコンで良かった。
「頼んだ」
『一応言っておきますが、お姉ちゃんを1人に数えないでくださいね。お姉ちゃんはドジっ子メイド確定なので、半人前程度に考えてください』
「そうだな……わかった」
通話を切る。
これで2人半。念のためもう1人、声を掛けておきたいところ。
しかしもう俺の手札は……、
「おにぃ!」
部屋の扉が妹の手によって開かれる。
瑞穂はネズミモチーフのキャラが入ったエプロンを着て、右手にはお玉を持っている。
「ご飯だって言ってるでしょ!! 早く来なさいってば! 冷めちゃうよ!」
俺は指をパチンと鳴らす。
「そうか。その手があった」
「? なに? ジロジロ見て……」
4人目の心当たりが1人だけいた。
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




