第65話 晴れた空
「おにぃ! そのアイス!!」
「ん?」
7月26日(水曜日)。
外は景色が歪んで見えるほどの猛暑だ。俺は冷房を効かせたリビングのソファーでバニラアイス片手にまったりしていた。すると、なぜか妹の瑞穂が怒鳴ってきた。
「それ! 最後の1本だったでしょ!」
「ああ。それがどうした?」
「……私まだ2本しか食べてない。6本入り中の2本しか食べてない! おにぃ4本食べてる!!」
「よく覚えてるなそんなの」
瑞穂が強く睨んでくる。金髪の前髪の隙間から、猫目で威嚇してくる。
「買ってきて」
「はぁ?」
「アイス! 買ってきて!」
「……今日は勘弁してくれ。この暑さだぞ」
「嫌! アイス食べたいぃ! 動画見ながらアイス食べてダラダラする予定だったの!! ついでにコーラとラムネも買ってきて!!」
「この我儘妹……! 行かねぇつったら行かねぇ!」
ぎゅ。と背後から抱擁された。
そしてすぐに抱擁はヘッドロックに変化する。
「ごはぁ!!」
「行けつったら行け!!」
さすが我が妹……! なんて腕力だ……! 息ができん!!
「わ、わがっだ! いぐがら放せ! 死ぬ!!」
俺が言うと、ヘッドロックは抱擁に戻った。
妹は俺の頭を撫でながら、
「ありがとお兄ちゃん♪ 大好き♪」
「この野郎……」
さすが我が妹、良い性格してやがる……。
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アスファルトの上を歩き、歩いて5分のコンビニに向かう。
「あちぃ……」
これコンビニからマンションまででアイス溶けちまわないか? そんぐらい暑い。
「あれ? 兎神くん?」
後ろからアオの声がする。
俺が無視して歩いてると、シャツの背広を掴まれた。
「こらこら。可愛い幼馴染に話しかけられているのに、なにを無視しているの」
「喋るのすらたるいんだよ。やべぇだろこの暑さ。砂漠の上を歩いている気分だ」
「まぁね。歩いて1分で汗びしょだもんね」
アオは俺と横並びになって歩く。
制服だから学校に用があるのかな。
「風紀委員の仕事か?」
「うん。ちょっと生徒会と合同で会議があるんだ」
生徒会ってことは六道先輩もいるのか。
「あ~、六道先輩と話すの憂鬱だなぁ……」
「苦手なのか?」
「すんごいからかってくるんだもん。私のこと完全に玩具だと思ってるね」
アオは真面目だからな。六道先輩には手玉に取られそうだ。
「玩具だなんて思ってないよ。ボクはアオたんのこと、愛人だと思ってるよ♪」
ピンクの髪が視界に飛び込んできた。
生徒会長であり、Vチューバー七絆ヒセキの中の人――六道晴楽がアオに後ろから抱き着いた。
「ろ、六道先輩!?」
「おっはぁアオたん。今日もええ匂いじゃのう~。シャンプーの香りと、乙女の汗の香りが混ざってなんともエロ――」
アオは六道先輩の頬っぺたを掴み、引きはがそうとする。
「やめてください。セクハラで訴えますよ……!」
「むっふっふ。アオたんに訴えられるなら本望よ!!」
六道先輩は指先で、サッとアオの耳たぶの裏を撫でる。
「みゃっ!!?」
アオは尾を踏まれた猫のように体をビクッと震わせた。
「ぬるふふふふ! 覚えておきたまえすばるん。アオたんは耳の裏が性感帯なのだ!」
「や、やめ! ちょっと……!」
汗まみれの美少女2人が目の前で戯れているというのに、健全な男子高校生である俺は一切なにも感じなかった。ただただ暑苦しいと思った。暑さって怖いね。性欲すら蒸発してしまう。
「いい加減に――しなさいっ!」
アオの肘鉄が六道先輩のわき腹に突き刺さる。
「ごほぅ!」
六道先輩は堪らずアオから離れる。
俺は早く冷房の効いた場所へ行きたかったため、2人を放置して歩き出す。
「ん?」
数歩歩いた俺は電柱に貼り付けられたポスターを前に立ち止まる。
花火のイラストと共にそのポスターにはこう書かれていた。
「尾多沼花火大会……」
尾多沼はここから15分ぐらい歩いたところにある湖沼だ。その近辺では毎年花火大会と祭りが開かれている。今年もやっぱやるんだな。
夕方から祭りを始めて、最後に花火を打ち上げてフィニッシュ。って感じだな。
「へぇ。今年もやるんだ」
「お祭りかぁ!」
いつの間にか、後ろからアオと六道先輩が覗き込んできていた。
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