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第63話 カラオケとコースター

 7月23日、夏休み2日目。

 地元の駄菓子屋の前で、ピーチ味の棒アイスを舐めながら人を待つ。


「じめっじめだな~」


 空は曇り模様。

 湿気が凄くてべたつく。


「来たか」


 棒アイスを食べ終え、駄菓子屋のゴミ箱に捨てる。

 俺のもとに銀髪ミディアムヘアーの少女、麗歌がやってくる。

 今日のコーディネートは白短パンに水色のポロシャツという恰好だ。清涼感があっていいね。意外にスカートを履いてない麗歌を初めて見た気がする。


「お待たせしました。昴先輩」


「よっ、麗歌。早速だがコレ」


「?」


 俺は麗歌に手を開かせ、麗歌の手の平の上に300円を置く。


「適当にそこの駄菓子屋で菓子買ってこい」


「お菓子……ですか。たったの300円じゃそこまで買えないのでは?」


「うまいゾ棒なら30本近く買えるぞ」


「うまいゾ棒? なんですかそれ」


 マジかコイツ。恐らく日本で一番売れているあの菓子を知らないとは……。


「まぁ中に入ってみろ」


 麗歌と一緒に駄菓子屋に入る。

 ここの駄菓子屋は老舗だ。昔ながらの駄菓子屋だな。スーパーじゃ見ないような古い駄菓子やアイスがあり、どれも格段に安い。

 麗歌は駄菓子の値段を見て目を丸くさせる。


「10円とか30円とか、こんな安値で売っているものなのですね……」


「やっぱりというか、駄菓子屋初めてなんだな」


「はい。スイーツは好きなのですが……しかしこれで儲けが出るのでしょうか。不思議です……」


 麗歌は目をキラキラと輝かせ、駄菓子屋の品々を見定めていく。


「……自腹でもう1000円出して、1個ずつ――」


「ダメだ。限られた資金で選ぶからこそ価値があるのさ。300円以内で買いなさい」


「一体その制約に何の意味があるのかわかりかねますが、今日は昴先輩のご褒美の日ですから、従ってあげましょう」


 六道先輩の一件を解決したお礼として、今日は麗歌の奢りで自由に遊んでいい日なのだ。とは言え、駄菓子ぐらいはさすがに俺が奢る。

 ここに連れてきた目的は世間知らずのお嬢様に庶民の楽しみを叩きこむこと。真っ白なキャンパスに絵筆を叩きつけるような、背徳的な喜びがここにはある。

 綺鳴はこういう庶民的な場所や事柄にも関心があるのに反して、麗歌は案外こっち方面に弱いのだ。


 麗歌はスナック菓子100円分、グミ90円分、チョコレート30円分、30円のジュース飲料、棒アイス1本50円を購入した。


「ん? お前も俺と同じアイス買ったのか」


「はい。今日は蒸し暑いので」


 麗歌は袋を開け、左耳に掛かる髪を左手でかきあげ、棒アイスを口にする。棒アイスが硬かったのか、噛み砕けず、甘噛みだけして一度口から離す。


 その一連の動作が――絶妙にエロかった。


 俺がゴクリと唾を飲み込むと、麗歌がジトーっと俺の顔を見上げてくる。


「……昴先輩」


「なんだよ」


「気持ち悪いです」


 反論できなかった。



 --- 



 続いて訪れたのはカラオケ〈GUNGUN(ガンガン)〉。以前、綺鳴と君津がひと悶着あった場所だ。


「今回は馴染みのある場所で良かったです」


「さすがにカラオケは来るか」


「はい。お姉ちゃんと2人でよく来ますよ。歌の練習になりますからね」


 店のドアを開き、受付に行く。


「ワンオーダー制で、2時間でお願いします。あ、20%オフのクーポンもあって……」


 受付で手続きをすまし、部屋番号が書かれた紙を貰う。


「お待たせ。141号室だってさ」


「私が奢るのですから、クーポンなんて使わなくて良かったのに」


「いいよ別に。年末に大量に配ってくれたおかげでクーポン山ほどあるからさ」


 141号室に入り、冷房をガンガンに掛ける。なんでカラオケの冷房って弱めになってるんだろうな。


「ワンオーダー制だからドリンクを一杯頼まないとダメなんだ。っていうわけで」


 俺は部屋にある注文用のQRコードをスマホで読み込み、メニューを出して麗歌に見せる。


「この中から選んでくれ!」


「……そういうことですか。なぜ先輩がカラオケに来たのかわかりました」


 麗歌はメニューを見て、呆れた顔をする。

 麗歌に見せているメニューはエグゼドライブコラボのドリンクだ。少々割高だが、ドリンクを頼むとエグゼドライブ生のコースターがランダムで1枚貰える。


「コラボメニューを選ぶとランダムで1枚コースターが貰える。もしお前がかるなちゃまをゲットしたら譲っていただきたい…!」


「やれやれ。わかりましたよ。では私はかるなちゃまのムーンレモンクリームソーダで」


「じゃ、俺はハクアたんのブルーナイトソーダにする」


 ちなみにコラボドリンク自体は全員分あるわけじゃなく、6期生からはかるなちゃまとハクアたんのコラボドリングがある。

 注文した後、何も歌わず待つ。歌っている途中で入られると白けるからな。


「晴楽さんの一件、本当にお疲れ様でした」


「これまでの依頼で一番骨が折れたよ」


「……正直、驚いてます」


「なにがだよ?」


「昴先輩の能力に、です。まさか晴楽さんの問題まで解決できるとは思いませんでした」


 麗歌は深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございました。おかげで、七絆ヒセキを失わずに済みました」


「大げさだな……確かに俺も色々頑張ったけどさ、周りの人の助けが無かったらどうしようも無かった場面も多かった。俺だけの功績じゃない」


 麗歌は呆れたような顔をして、


「……ほんと、謙遜がお好きですね」


 注文した商品が届く。

 貰ったコースターは……かるなちゃまとれっちゃんだった。


「いよっしゃあ!!!」


 俺はマ○オばりに飛び跳ねて喜んだ。


「喜び過ぎでしょう……」


「お前、このコラボで推しを引く確率がどれだけ低いかわかってねぇだろ」


 俺はドリンクを並べ、その前にコースターを並べる。


「写真撮影しましょうか?」


「……ええですか?」


 麗歌にスマホを預け、俺とドリンク&コースターの写真を三つの角度から撮ってもらう。


「麗歌は良いのか?」


「……では1枚だけ、撮りましょうか」


 麗歌はなぜか俺の隣に座り、右腕を組んできた。


「え?」


 麗歌はそのままスマホを持った左手を伸ばし、俺と麗歌のツーショットを撮影した。


「え~っと? コースターは?」


「では、せっかくカラオケに来たので歌いましょうか」


 俺の質問は完全スルーし、麗歌はマイクを指さす。


「お、おう、そうだな」


 よくわからないが、麗歌は今の1枚で満足したみたいだし、いっか……。


「お先にどうぞ」


 俺は早速、“つきルナむ~ん”(歌:月鐘かるな)を熱唱する。

 熱唱し、ストレスを全開放した俺に対し、麗歌の視線は冷ややかなモノだった。


「独特な歌声ですね」


「変に気を遣わなくていいよ。下手なのは自覚している」


「いえ。確かに点数が出る歌い方ではありませんでしたが、とても楽しそうで、全力で、テンションが上がる歌声でした」


 世辞でも嬉しい評価だ。


 麗歌は小さく笑うと、新しく歌を入れた。

 麗歌が入れたのは流行りのアニソン。俺は麗歌の歌声を聞いて、驚きを隠せなかった。


「……うまぁ」


 かるなちゃまというより、れっちゃんに似てるか。完璧な音程、リズム感、それでいて個性もちゃんとある歌だ。採点機能は入れてないが、入れていたら95点以上いくんじゃないだろうか。

 歌い終わった麗歌に、俺は惜しみない拍手を送る。


「やるじゃねぇか! めちゃうまかったぞ!」


「言い過ぎですよ……」


 麗歌は気恥ずかしそうに目を背ける。


「……前に、お前が月鐘かるなをやる予定だったって聞いた時さ、正直、お前じゃ人気のライバーにはなれないなって思ったんだ」


「……!」


「でも、今の聞いて考えが変わった。お前の声は唯一無二だ。色々器用だし、性格はちゃんとしているし、今のかるなちゃまとは違うベクトルだったかもしれないけど、お前はお前の月鐘かるなを作って、ちゃんと人気が出てたと思う」


「そんなこと……ないですよ」


「いいや、あるね。Vチューバー専門家の俺が言うのだから間違いない」


 麗歌は完全に俺に背中を向けてしまう。


「麗歌?」


「……昴先輩は、なんでも思ったことを言うのやめた方が良いと思います……」


 麗歌の声は震えている気がした。

 でもこっちを振り返った麗歌は決して涙なんて流しておらず、いつものクールな面持ちだった。どうやら気のせいだったようだ。


「昴先輩、店員さんに言ってフリータイムに変えてもらいましょう」


「え?」


「さっきの無責任な発言の罰として、とことん付き合ってもらいます」


「俺明日バイトあるから、喉枯らしたくないんだけど……」


「問答無用です」


 それから9時間カラオケに付き合わされ、俺の喉は無事潰れた。

【読者の皆様へ】

久々に再開です!

個人的に超お気に入りの作品なのですが、如何せんまったく陽の目を浴びません。

どうか……もし気に入って頂けたなら、宣伝や評価にご協力お願いします。

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