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第62話 ご褒美タイム

「はぁ……」


 なぜ俺がため息を漏らしているか、それは学校に呼び出されたからである。

 相手は教師ではない。1つ上の先輩だ。

 夏休み初日。なのに制服に袖を通す始末。せっかくこの拘束具から解き放たれたと思っていたのに……面倒な。


 

 ---



 それは朝の4時のこと。俺はスマホの着信音に起こされた。

 電話に出ると、


『おっはぁすっばるーん! 夏休みに入ったからってダラダラ寝てるんじゃなかろうねっ!?』


「……まだ4時ですよ。寝てていいでしょ」


『もう4時なんだよ! あとたったの20時間で1日が終わってしまうのだよ!』


「あと何百時間夏休みがあると思ってんだ……つーか、何の用っすか。まさかこんなイタ電するために掛けてきたわけじゃないでしょ」


『あり? ガチおこ? ごめんごめん、ライブの興奮がまだ冷めなくってさ~。ちょいテンションが変なとこ入ってんだよね~』


「そうだ、ライブ! 凄かったです! 感動しました! えと、その、ほんっとなんて言ったらいいかわからんぐらい素晴らしかったです!!」


『語彙力死んでるよすばるん~。……それもこれもキミのおかげさ』


「いや、俺よりも一娯一恵の手柄でしょ」


 いいとこ全部持ってかれたからな。


『お兄ちゃんのおかげでもあるけどさ、キミのおかげでライブの練習を余念なくできたのは事実だし、ライブが完璧以上の出来だったのは間違いなくキミのおかげだよ。んま! それ関連でちょいと話があるんだよね。すばるんさ、今日の10時くらいに学校の屋上来てよ!』


「え~……何でですか?」


『それは来てのお楽しみ♪ じゃあね~』


 電話が切れる。

 ふ~……めんどくさい。めんどくさいが、行かないとさらにめんどくさいことになるから行くしかない。


 とは言えまだ時間があったので、俺は二度寝してから準備を始めた。



 --- 



 そんなこんなで学校の屋上。

 鍵は開いていたからすでに六道先輩が居るもんだと思ったけど、誰もいない。



「ふりぃ~だぁむ」



 気づいたら、後ろから抱き着かれていた。


「……隠れてたんすか、六道先輩」


「ありゃ? 可愛くない反応!」


 六道先輩は俺から離れ、残念そうな顔をする。


「会った時の初々しさをどこになくしてしまったのかね? すばるんよ」


「アンタが何度も抱き着いてくるから耐性ができたんですよ」


「……ボクの体に飽きたって言うのかい!?」


「誤解を招くような言い方すんな!」


 ほんっと、この人と話してると疲れる……。


「早く本題に入ってくださいよ。今日呼び出した理由、教えてください」


「ボディガードのお礼をしようと思って! まずはコレ、あげる」


 六道先輩は紙袋を手に取り渡してくる。


「これは?」


「6期生5人それぞれのエッチなマウスパット! 当然、かるちゃまのやつもあるよ」


「……そんな……これは! あまりにエロ過ぎて18禁になりかけたやつでは!? 素材が凄すぎて高校生じゃまず手を出せない値段だったやつでは!?」


「そうだよ~。好きに使って~」


 神はここに居た……使わないけど。大事に保管するけど。


「そんで、ご褒美はもう1つあります」


「もう1つ?」


「すばるん、やっぱり忘れてるね。ほら、私を守り切れたら触らせてあげるって言ったでしょ?」


 六道先輩は後ろで手を組み、胸を強調させる。


「ボクの体、どこでも♪」


「……あ。そういえば……え? あれ本気だったんですか!?」


「もちろん!」


 六道先輩は頭の後ろで手を組み、目を瞑る。

 胸や脇が無防備に晒される。


「はい、どうぞ」


「マジか……」


「一度言ったことは曲げないよ。一か所だけ、好きなだけ触りんしゃい。ま、どうせ触るところはわかってるけどね」


 うーむ。

 さすがになぁ、男としてはもちろん胸にいきたいところだが……それじゃ六道先輩の思うつぼ。胸触って顔赤くしてそれをからかわれて終わり。いつものパターンだ。


 それじゃ面白くない。


 よし、決めた。


「先に言っときますけど、俺が触るの胸じゃないですから」


「え……? じゃあどこ……?」


 六道先輩は数秒考え込んで、徐々に顔を紅潮させていった。


「ちょっ!? ()()()!!?」


 六道先輩はいきなり慌て出して、肩幅に開いていた足を閉じた。


「ちょちょちょちょっと待って! さすがにさすばるん! そこは、そこはぼぼぼ、ボクも覚悟してなかったというか……」


「? 体のどこでもいいんですよね?」


「あ、うん。そうなんだけど……そうなんだけどさ……! でも、さ」


 六道先輩はモジモジとしだした。

 六道先輩らしくない、羞恥心に満ちた表情をしている。


「恥ずかしい……よ、そこはさ……前言ったことは冗談で、本当は自分でもそこは……」


 六道先輩は目をギュッと閉じ、また足を開いた。


「ええいっ! なるようになれ! 覚悟は決めた! 一思いにやれ! すばるん!」


 六道先輩は体を震わせている。なぜか怯えているようだ。目元に涙を浮かべてプルプルとしている。


「みゃ~……!」


 なんか――とんでもない馬鹿な勘違いしてそうだな。


「じゃ――」


 俺は六道先輩の――頭を触った。


「え……?」


「うりゃ」


 六道先輩の頭を両手で触り、撫でまわす。


「ちょ、なーに、くすぐったいってすばるん!」


「おらおらおら!」


 頭をくしゃくしゃにし、手を放す。


「え? え? なんで、頭……?」


「これまで子ども扱いしてきた仕返しですよ。つか、六道先輩、どこ触られると思ったんですか? やけに動揺してましたけど」


「あ! そ、それは、えーっと……す、すばるんのエッチ! ボクの口から言わせる気!?」


「一体なにを想像してたんだか。正直な話、ご褒美なら昨日のライブで十分ですよ」


 俺は笑って言う。


「昨日のライブのヒセキ店長、本当にかっこよかったです。最高のステージだった。アンタは天性のVチューバーです」


「……っ!!」


 六道先輩は俺に背を向ける。


「……せこいよすばるん、そんな純粋な笑顔(かお)……」


「? 六道先輩?」


 六道先輩は屋上入口まで走り、反転して、俺に対して舌を出す。



「べーっ! すばるんのヤリチン!!」



 と言い残して去った。


「なんて捨て台詞だよ……」


 俺は晴天の空を見上げ、ため息をつく。


「……一緒に居ると疲れるけど、帰ってもあの人が居ないって言うのも……ちょっと寂しいんだよなぁ」

読んで頂きありがとうございました。

この小説を読んで、わずかでも面白いと思っていただけたら評価とブクマといいねを入れてくれると嬉しいです。とてもパワーになります。

よろしくお願いします。

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