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第61話 伝説のライブ

 7月21日、終業式。

 暑い中での校長の長話も今日ばかりはみんな文句垂れず聞いている。なぜなら、これさえ終われば後は天国(夏休み)だから、多少の苦しみは我慢できるというもの。


 俺も例外ではない。


 終業式が終われば夏休み! そしてぇ! 今日は七絆ヒセキの登録者数200万人突破記念のライブがある!


 六道先輩の頑張りを見てきたからか、楽しみが倍増している。


「今日のヒセキ店長のライブ、楽しみだね」


 終業式から教室に戻る途中、Vオタ友達の日比人とライブの話で盛り上がる。


「ポテチ、コーラ、アイスコーヒーは必須だな」


「ペンライト、うちわ、ハチマキも必要だね」


「今日は奮発してチータラも買おう」


「僕は柿ピーとポッキーも」


「太るぜ~、日比人」


「ヒセキ店長のライブで太るなら本望だよ」


 なんて雑談をしながら教室に戻る。

 帰りのホームルームを終え、コンビニに寄った後に家に帰る。

 ソファーで薄着でだらけている妹を尻目に、俺は部屋にそそくさと入った。


「ポテチ! コーラ! アイス―ヒー! チータラ! 念のため買っておいた安いお菓子&ジュース群! パソコン良し! クーラー良し! 諸々の電子機器充電オーケー!」


 楽しみ過ぎて全身に鳥肌が立つ。

 ライブの待機画面で俺はその時を待つ。


――さぁ始まる。


 待ちに待った、ヒセキ店長のライブが……!

 時間まであと10秒……5秒……3、2、1――



『いやぁ、今日も暑いっすね~。昨日なんか、今年の最高気温更新したらしいっすよ~』



 ライブのステージの上。

 薄暗い中、店長は穏やかな語り口調で話し出す。


『――でも今日は昨日より涼しいんだってさ~……あー、よかったよかった……なーんて、腑抜けたこと思ってねぇよな!?』


「うおっ!?」


 店長の様子が一転して激しくなる。


『おらぁ! 最高気温更新していくぞお前らぁ!! “デッドヒート・サマータイム”!!!』


 店長が指を天に向けると、音楽が鳴りだした。

 激しいリズムが画面の先から聞こえてくる。


「“デッドヒーット・サマータイム”……! 店長の曲の中でも一番激しいやつを初っ端からやるのか!!」


 “デッドヒーット・サマータイム”から連続で3曲、ソロ曲が続いた。

 息もつかない連打。せっかく買ったコーラやポテチを口にするのを忘れ、俺はひたすらにペンライトを振っていた。


 ボルテージはいきなりマックス、全身が熱くなってくる。まるでライブ会場に居るような臨場感が肌を包みこんでくる。


 この表現力……! これが七絆ヒセキか!


「やべぇ……すげぇ! 鳥肌立ちっぱなしだ……!」


『さぁさぁお次は我が盟友(めいゆう)たちと歌うぞよ!! おいでハクハク~!』


 もう1人、Vチューバーがステージに上がる。


『登録者数200万人おめでとうヒセキ! 遊びに来たよ!!』


『激しく乱れていこうぞハクア殿!!』


 現れたのは同じ6期生の天空ハクアだ。黒髪セミロングで頭にセーラー帽を被った海軍騎士(オーシャンナイト)である。


『そんじゃデュエット行くよ!』


『うん! タイトルは……』


『『“Knight(ナイト)Museum(ミュージアム)”!!』』


 これはハクアたんの楽曲! 聖歌のような穏やかなパートとロック調のパートが混在する他に類を見ない曲調の歌だ。リズムが極端に移り変わるためカラオケで歌うのはかなり難しく、うまく歌うにはかなりの練習が必要だ。


 だがヒセキ店長はこの歌を難なく歌えている。

 

 それだけ努力したということだろう。


『ふーっ! ヒセキとのデュエット、久しぶりだったぁ~! 楽しかったよ!』


『もちろん店長もだよっ! さぁハクアたん! おめでとうのハグを……!』


『じゃあ私の出番ここまでなんで失礼しまーす』


『むぎゃあ! このツンデレ清楚ビッチ!』


 ハクアたんが退場し、そして入れ違いに、


『およよ……酷いよハクアぁ』


『……腐ってないで。次、行くよ』


『お、来たね真のツンデレガールよ……!』


『誰がツンデレよ。ウチはデレないっつの』


 緑髪で蛇皮のマフラーにパーカーを着た少女、密林の歌姫・蛇遠れつがステージに上がる。


『それじゃタイトルコールするよ』


『え? その前におめでとうコメントは!?』


『聞いてください。“蛇華蛇歌(ジャカジャカ)”』


 店長を無視してれっちゃんは歌を始める。

 これまた超速テンポの難しい曲だ。これでもかというぐらいギターの音が暴れている。


 しかしこれにも店長はついていく。れっちゃんは嬉しそうだ。この曲にれっちゃん以外でついてこれる人間は珍しい。恐らく初めてのデュエット、楽しくてしょうがないのだろう。声も調子がどんどん上がっていく。


 結局最後まで店長はついていった。


『だっはぁ! この歌しんど! きっつい!』


『でも最後まで来れたじゃん。ホント凄いよ……おめでと』


 最後に小さなデレを見せてれっちゃんはステージを去った。

 続いてステージに上がるは、


『店長~! 200万人突破おめでとうぽよ!』


 未来ぽよよだ。ピンク髪のロリガールである。


『ぽよよ~ん! さっきまでの連中が冷たかったから、ぽよよんの温かさに涙が出るよ~!』


 他の面子が冷たかったというより、店長の日頃の態度に問題があるんじゃ……。


『ではではぽよよん、早速共に歌おうじゃないか!』


『了解ぽよ! タイトルは……せーのっ!』


『『“ぽよよん☆ジェネレーション”!!』』


 今度は萌え歌だ。子供が出すような高音で独特のリズムを捌かないとならない。これまた別ベクトルの高難易度曲。

 なんでこうも難易度の高い歌ばっか……。


『ぽーよぽよぽよ、ぽーよぽよ♪ 時代はぽよよん、ぽーよぽよ♪』


 ヒセキ店長は萌え声で歌い切る。


 いま、わかった。なぜ敢えてヒセキ店長が困難に挑むか。

 これは覚悟の表れだ。自慢に似た覚悟、自分はトップを狙える逸材であるというのをこの場で示している。それだけの才覚があると、誇示している。


『ありがとうございましたぽよ!』


『サンキュ、ぽよよ。さぁ、今度こそおめでとうのハグを!』


『さよならぽよ~』


 店長のハグを躱し、ぽよよんはステージを降りる。


『みゃ~! ぽよよんまで!』


 ウソ泣きする店長。

 そんな店長の元に小さな影が飛び込む。


『おめでとう店長!!』


 巫女服をかわいらしく改造した金髪ロリ巨乳、月の巫女・月鐘かるな。


「きたああああああああっっ! 待ってましたぁ!!」


 彼女はステージに上がってすぐ、店長に抱き着いた。


『かるちゃま!』


 店長はかるなちゃまを大いに撫でまわす。

 う、羨ましい……!


『かるちゃま~! 店長の天使様よ~! くぁわいいねぇ、このこのっ!』


『でっへへ~』


 尊い……尊過ぎて死んでしまう。


『かるちゃま~! むちゅ~!』


『ぎゃー! チューはダメだよっ!』


 キスをしようとする店長をかるなちゃまは押しのける。


『店長! 早く歌お! かるなちゃまね、今日すっごく楽しみだったんだぁ。もう待ちきれないよ!』


『かるちゃま……! おろろ……ほんま娘にしたいランキング1位やで。そんじゃまいきますか!』


『月鐘かるなの楽曲で……』


『『“つきルナむ~ん”!』』


 つきルナか! アップテンポで意味不明な語句を言いまくる歌。ザ・電波曲!

 滑舌が試される歌だ。


「しかし……」


 ヒセキ店長とかるなちゃまは特に明るいVチューバ―だ。

 だからか、こう、ほんっと、


「楽しそうだな……」


 全力で推しが楽しむ姿が見れる。これがどれだけ幸せなことか。


「よっしゃ俺も!」


 俺はペンライトを振り回す。


「1兆大吉! カラス絶好! ふんどしピアスにあわび結び! ロマンスエンドはお断り! ピクルス・パイン・レモンは余計か? めんどくちゃいからわさびぶっ掛け!! つきルナむ~んは今日も綺麗さ! それなら一切問題なっしん!!!」


 俺も“つきルナむ~ん”を全力で歌う。妹は暑さでダウンしてるから俺が騒いでも突っ込みはない。


『さぁ~って、次が最後の歌だよ』


 もうラストか。

 すでに2時間経過。あっという間だったな……。


『最後はね、なんと新曲です』


 え? 新曲……だと。


『メインボーカルは店長。そして、コーラスを務めるのは……』


 ステージに、4つの影が上がる。

 月鐘かるな、天空ハクア、蛇遠れつ、未来ぽよよ。

 そして七絆ヒセキ。エグゼドライブ6期生が揃う。


『6期生の皆さんです! それじゃラストいっくよ~! “不可思議(ふかしぎ)のキズナ”!!!』


 伝説のライブだった。


 満足を超えていた。


 七絆ヒセキ。今日、彼女のライブを見たすべての人間が思ったであろう。彼女と同じ時代に生まれてよかった、と。


 ライブは大成功に終わり、“ヒセキ店長200万人ライブ!”のハッシュタグは多くのSNSのトレンド1位を独占。Vチューバーの歴史に残るライブとなった。

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