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第59話 愚か者

 六道先輩はパチクリと瞼を開閉させ、社長は瞬き一切せず目を開けたまま閉じない。

 俺は小さく開けた口が閉じなかった。


――一娯壱恵。


 現Vチューバーの頂点が、なぜ、このタイミングで……。


「……本当に、奴のサインか?」


「ええ。社長ならわかるでしょう?」


「……」


 もしも、一娯壱恵が本当に六道先輩の兄貴なら、社長の息子ということになる。

 息子の筆跡ならば……。


「たしかに奴の筆跡だな。それで、一娯壱恵殿が一体私になんの用だ?」


 どこか突き放した風に社長は言う。


(おおむ)ね、さっき昴君がやろうとしていたことと同じです」


「――なに?」


「『一娯壱恵が六道グループとコラボする。その代わり、六道晴楽を自由にしてやってほしい』。これが一娯壱恵の提案です」


 ミルキーさんは社長に書類を渡す。

 社長は書類に目を通す。


「……コラボ商品、宣伝プラン、一娯壱恵とコラボした際の利益効果の割り出し、その全てが完璧だな。愚か者め……これだけの腕があって、なぜ……」


 社長は悲しそうな顔をしている。


「パパ……」


 六道先輩も父親に同情している様子だ。

 家族にしかわからない、何かがそこにはある気がした。


「社長。返答は如何に――」


「もういい」


 社長は立ち上がり、俺たちに背を向け、ガラス張りの壁から空を見上げた。


「……好きにしろ」


 さっき社長は六道晴楽と七絆ヒセキ、両者を比較したら六道晴楽の方が僅かに利用価値があると言った。その両者で僅かな差ならば、六道晴楽と一娯壱恵で比較したら一娯壱恵が勝るだろう。

 七絆ヒセキは凄いVチューバーだ。それは間違いない。だが悪いけど一娯壱恵とは比較にならない。Vオタならわかる。一娯壱恵のネームバリューは次元が違う。

 社長も六道先輩より一娯壱恵の方が利用価値があると判断したのだろう。


 ……まぁきっと、社長が手を引いた理由はそれだけじゃないんだろうけどな。



 --- 



 社長室から出て、俺とミルキーさんと六道先輩で廊下を歩く。


「……」


 六道先輩は途中で立ち止まり、そして両腕を振り上げた。


「うがーっ!! 腹立つ!!」


「え!? なんで怒ってるんすか!? 全部うまくいったのに……」


「助けてくれたのは嬉しいけどさぁ! 企業案件、お兄ちゃんに取られた! それがムカつくの!!」


「……そこかよ」


「んもうっ、セイちゃんってば欲張りなんだから♪」


 六道先輩は頬を膨らまし「……むかつく」とつぶやいている。

 いつも余裕な六道先輩らしくない表情だ。なんというか、瑞穂を思い出した。そう、今の六道先輩は妹の表情をしていた。頬を赤くしてぶー垂れる顔は正直ちょっとかわいかった。


「てか、俺はミルキーさんに文句がありますよ!」


「あら、なにかしら」


「あの書類の量からして、ミルキーさんと一娯壱恵はかなり前から準備してましたよね!? 俺が色々頑張る必要ありました?」


「あったわよ。昴君のおかげで昨日までセイちゃんが捕まらずライブの練習ができた。それに、キミが暴れてくれていたおかげであたしたちが動きやすくなった。良い働きだったわよ♪」


「くっそ。手のひらの上で転がされた気分……ていうか転がされたのか」


「あーっ! せっかくリハーサル行けそうなのに、昨日レイレイにリハーサル中止するように言っちゃったよ! どうしよう……」


「それなら大丈夫ですよ。麗歌のやつ、その一件は保留にしてたみたいですから」


「ホント!? じゃあ早く事務所行こ! あ! その前にすばるんを病院に……」


「俺は後回しでいいですよ。骨は逝ってないですし」


「それじゃ昴君はここの医務室で待ってなさい。まずこの子を事務所に送ってくるわ。それからあなたを回収して病院に送るわよ」


「ありがとうございます。助かります」


 こうして、まだライブまで時間があるものの、事実上今回の俺の任務は終わった。

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