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第49話 秘密基地

「おっじゃま~!」


「いらっしゃい」


 ミルキーさんのバー、その名も〈MILKY・BAR(ミルキー・バー)〉……そのままだな。

 まだ開店はしておらず、中にはミルキーさんしかいない。


「昴君もいらっしゃい」


「どうも」


「ミルキーちゃん! また2階借りるね!」


「はいはい。今日はいつまで借りるつもり?」


「今日は配信ないから9時まで!」


「無理はしなさんなよ」


「了解であります!」


 六道先輩は階段で2階へ上がっていく。


「2階ってなにがあるんすか?」


「大宴会場。つまりはカラオケルームよ。食材は用意しておくからあなたも見学していいわよ」


「カラオケルーム……」


 2階に上がる。

 恐らく防音の分厚い扉、その先に広い空間がある。マイクとか液晶とかがある。そのままカラオケの部屋を広くした感じだな。


「どう? 凄いでしょ!」


 部屋に入ると開口一番六道先輩はそう言ってきた。


「時間がある時はここを借りて、ダンスや歌のレッスンをしてるの」


「へぇ~。そういうのってエグゼドライブの事務所でやってるものだと思ってました」


「普段はそうしてるよ。でも今はエグゼドライブに迷惑かけるわけにはいかないし、ここでやらせてもらってる」


 意外にちゃんとしてるよな、この人。


「これから練習ですか?」


「そ! 200万人記念ライブのね」


「じゃあ俺は下で待ってます。当日まで楽しみにしていたいので!」


「え~、別に居てもいいのにな」


「駄目です! ここはファンとして引き下がります! ライブでやる楽曲は当日まで楽しみにしておきたい……!」


 俺は扉を閉じて一階に降りる。


「昴君~」


 手招きするミルキーさん。

 バーはすでに開店しているようで客の姿がちらほら見える。


「ちょっと飲んでいきなよ。話しましょ♪」


「未成年です」


「んもうっ! ジュースに決まってるでしょ」


 ミルキーさんは海色の見たことない色のジュースをいれてくれた。

 酒じゃないだろうな……と怪しみながら口につける。普通に爽やかでブルーハワイ風味の美味いジュースだった。


「へぇ。じゃあミルキーさんは六道先輩が実家に居る時からの知り合いなんですね」


 ミルキーさんは自分と六道先輩の関係について話してくれた。


「そうよ。元々あたしは六道グループの人間。セイちゃんの世話役だった。ダンスとか歌とか仕込んだのもあたしよ♪」


「いま六道先輩のところに居るってことは、六道グループからは……」


「抜けたわ」


「そこまで六道先輩に尽くす理由、聞いてもいいですか?」


「深い理由はないわよ。まだセイちゃんが10歳だった頃、あたしは自分の心を認められず、男として生きていた。でもね、ある日あたしが女の子の格好で外を歩いていたらたまたまセイちゃんに見つかったの。その時セイちゃん、なんて言ったと思う?」



 くす、とミルキーさんは笑う。


「『これまで見てきた服の中で、一番似合ってるよ』って。ふふっ。それだけよ。それだけのことで、あたしはあの子に心酔してしまったの」


 他のお客さんもいるからか、ミルキーさんは俺の耳に唇を寄せて、


「……あたしが世界で一番最初に七絆ヒセキのファンになったのよ♪」


 その声に、偽りはなかった。

 とても純粋で、爽やかな声だった。


「ママ―! 学生口説いちゃダメだよ~!」


「んもうっ! 斎藤さん、あたしの好みはダンディ系だって知ってるでしょ!」


 客の横やりに軽快に言葉を返すミルキーさん。

 ミルキーさんの話を聞く限り、六道先輩にはカリスマ性みたいなのがあるみたいだな。

 思い返してみると、6期生をまとめるのはハクアたんだが、6期生を引っ張っているのはいつもヒセキ店長だった。


「あら! もう8時ね。そろそろご飯にしなくちゃ。あなたとセイちゃんのご飯、作ってあげるわね」


「あ! すみません。俺が作るって言ったのに……」


「いいのよいいのよ。子供は大人に甘えなさい。昴君、セイちゃん呼んできてもらっていい?」


「はい」


 2階に上がり、扉の窓から中を覗く。


「!?」


 そこには汗ダラダラで、真剣な表情の六道先輩が立っていた。

 扉を開け、中に入る。


――凄い集中力だ。


 俺が部屋に入っても気づかず、曲を入れ、歌を歌い、ダンスを踊り出した。

 あまりの威圧感に俺は一歩も動かず、曲が終わるまで立ち尽くした。

 ライブの曲は当日まで聞きたくない……にもかかわらず、俺は音楽を止められなかった。それだけ、彼女は真剣だったのだ。


「……はぁ……はぁ……! あれ? すばるん?」


 六道先輩の言葉でようやく俺は喋り出す機会を得た。


「あ、えっと、飯です」


「そうなんだ! りょーかい。あと一曲練習したらいくね」


 階段を下りながら、俺はバイト先で聞いた村雲先輩の話を思い出していた。


「……努力家、か」


 村雲先輩は六道先輩のことを努力家と言っていた。

 多分、Vの活動以外でもこういう面があったのだろう。


 高校生Vチューバーが登録者数200万人を超える。それは生半可なことではない。才能だけでは絶対に無理だ。そこには想像を絶するような努力も当然必要となる。


 俺はまだ七絆ヒセキというVチューバーを甘く見ていたのかもな。

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