第48話 おっぱいヘッドロック
「さすがに、大人2人はきちいな」
口に溜まった血を唾と一緒に吐き捨てる。
目の前にはのびた2人の男。
俺は黒服2人を真っ向から殴り倒した。ただこっちも無傷とはいかず、顔に一発貰っちまった。
「……すばるん、戦闘民族だったりする? この2人、武術習ってるガチもんの武闘派なんだけど……」
「どうりで強いわけだ。人殴って拳痛くなったの初めてだし、血出したのも久しぶりだな」
「にゃっはは……麗歌ちゃんがボディーガードに推薦するわけだ」
俺の一番の才能は間違いなく喧嘩だ。それは自分で断言できる。
特にスポーツをやっていたわけでも武術をやっていたわけでもないのに不良10人に囲まれても無傷で乗り切れる。これを才能と言わずなんと言う。
「ミルキーさんは?」
「いまこっちに向かってるって。とりあえず追手はもういなさそう」
「しかし、かなり強引に連れ戻しに来るんですね」
「あっちも本気なりな~。ずっと無視してきたツケが回ってきたかな」
「っと、来ましたね」
「ごめーん! 2人とも無事~?」
ミルキーさんの赤い車が到着する。
「んもうっ! 礼儀知らずなんだから! いきなり囲んできちゃって!」
「にゃっはは~。迷惑かけちゃって悪いねミルキーちゃん」
「アンタが謝ることじゃないわ。気にしないでちょうだい」
車に乗って改めて六道先輩のマンションに向けて出発。
「ミルキーちゃん、絆創膏ってあったっけ?」
ミルキーさんは助手席の引き出しを開け、中から小さな救急箱を出した。
「ここに入ってるわ」
「あんがと」
六道先輩は救急箱を受け取り、
「ほらすばるん! こっち向いて!」
「大丈夫ですよ。これぐらいの傷」
「駄目だって!」
「……そんなら自分で手当てしま」
「いいからこっち向けぇ!!」
六道先輩がヘッドロックをかましてくる。
「ぐわっ!?」
そして頭に当たる横乳!
「うりゃうりゃ! 先輩の言うことはおとなしく聞いとけうりゃ!」
六道先輩が俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「わかりました! おとなしく治療受けるんで! 放してください!」
ダメだこの人! 異性との距離感バグってやがる! 男子高校生には刺激が強すぎる……!
「――はい。手当て終わり!」
「ありがとうございます」
無事手当ては終わり、そして、
「着いたわよ」
目的地に到着。
「すっげぇ……超高層マンションだ」
車から降り、マンションを見上げる。
ウチのマンションの倍以上の高さだ……しかも真っ黒で、カッコいい。
「あそこがウチの店ね」
ミルキーさんは少し先の二階建てのバーを指さす。
「落ち着いたら食材取りに来なさいな」
「了解っす」
「あんがとねミルキーちゃん!」
「ばいば~い」
ミルキーさんはマンションの駐車場に車を入れに行った。
俺と六道先輩はマンションの入口に入る。
玄関ホールで六道先輩はカードキーを使い、マンションの入口の扉を開いた。凄いなー、ウチのマンションはカードキーなんていらないし玄関ホールもない。
さらにエレベーターもカードキーがないと使えないときた。ガチセキュリティだ。
「マンションの中まで入っちゃえばもう安心だよ。ここに侵入したら不法侵入で捕まるしね」
「六道グループの人間がこのマンションの部屋借りれば中にも来れるんじゃないんですか?」
「ここは六道グループのライバル企業のマンションだからさ、六道グループの人間はあまりここで騒ぎは起こしたくないはずだよ。だからここで無理やり連行って真似はできない。絶対安全領域なのサ!」
よかった。寝る時まで気を張るのはしんどいからな。
「マンションを出入りする時はボクに言ってね。遠隔で開けるから」
「了解です」
「ほうらすばるん! ここがボクらの愛の巣だよ~」
部屋の扉はまぁ普通。鍵を差し込んで六道先輩は扉を開く。
中に入り、愕然とする。
「ひっろ~……」
リビングだけでウチの部屋全部合計したぐらいの広さがある。
「ここがボクの寝室、ここが図書室で、ここが配信部屋~。配信部屋には絶対入らないでね。入ったら冗談じゃなくぶっ飛ばすよ~」
「う、うす」
「ここがトイレね。こっちが男子トイレで、こっちが女子トイレ」
「トイレが2つもあるのか……」
「男子トイレはまだ一回も使われてないけどね。それでここがすばるんの部屋~」
これから9日間使う俺の部屋。
ベッドもあるし、机もある。椅子もある。必要最低限の物は揃ってる。
「この部屋はお泊り配信の時とかにエグゼドライブのメンバーに貸してるんだ」
「ま、まさか、6期生のメンバーも……」
「うん! みーんなこのベッドで寝たことあるよ!」
「ま、じ、か!!?」
こ、こんなとこで俺が寝てしまっていいのか!? いいや、よくない! よくないが……状況が状況だ。体力は常に万全にしたい。床やソファーでは十分な休息はとれないからな、ベッドを使うしかないっ!
「言っとくけど、ちゃんとシーツも布団も洗ってるからね?」
「そっかぁ」
「なんで残念そうなの?」
間取りは確認した。とりあえず生活に不自由することはなさそうだ。
「よーし! 説明も終わったことだし、ミルキーちゃんのお店行くよ!」
「ああ、そっすね。食材取りにいかないと」
「すばるんはね! ボクは別の用事があるんだ」
ふっふっふ~。と六道先輩は笑う。
「すばるんには特別に見せてあげるよ。ボクの秘密基地♪」