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第47話 最強のヤンキー

 授業が終わると俺はそそくさと学校を出た。

 今日は午後から雨が降っている。好都合だ。雨が降ってりゃ気配を消しやすいからな。間違ってもアオに見つかってはならない。

 人目の少ない道を歩き、念のため尾行者がいないか確認。通学路とは逆方向の道路に出る。


 見慣れない十字路。


 自分の通学路の逆側ってホント行く機会がないな。この辺は特にレジャースポットがあるわけでもないし。

 湿気と熱気が混ざったぬめっとした空気の中、次のバスが40分後とかに来るバス停で雨宿りしつつ待つ。待つこと10分ほどで赤色の高そうな車がバス停より50メートル前ぐらいで停まった。


「すばる~ん!」


 この雨音でも、この距離でも通る声。六道先輩の声だ。

 スマートでピカピカの車に近づいていく。


「乗って乗って! 誰かに見られちゃうよ! どこにパパラッチが潜んでいるやら……!」


「なんですか。俳優の密会デート的な設定ですか?」


「せいかーい! 賞品は雨と汗で蒸れたボクの靴下でーす!」


「いらねぇよ!」


 六道先輩が奥にずれる。

 この高級車を万が一にでも傷つけないよう慎重に傘を畳み、中に入る。


「君が昴君ね」


 運転席には綺麗なお姉さん……いや、お兄さん? が居る。女性の格好をしているが、ほぼ間違いなく男性だ。


「この人は……」


「ミルキーちゃん! 昼はお手伝いさん、夜はバーのママをやってるんだ」


「よろ~♪ 話は聞いてるわよ」


「よ、よろしくお願いします」


 うん、声は高いが間違いなく男の声だ。


「じゃ、出発しましょうか」


 車が走り出す。


「えーっと、ミルキーさんを雇ってるのは六道先輩のお父さん……じゃないですよね」


 六道先輩の父親が雇っているのなら家出娘の出迎えなんてするはずないもんな。


「ミルキーちゃんを雇ってるのはボクだよ」


「高校生で大人を雇えるぐらいの金があるんすね……」


「にっへっへ! Vチューバーの財力舐めちゃダメだよ~」


「確かにお金はセイちゃんから出てるけど、あたしを契約上雇ってるのはセイちゃんの叔母さんよ」


「細かいことはいいでしょ! とにかくボクが言いたいのは親の力は借りてないってことだよ~」


 なんとなく、そこは六道先輩の中で譲れないプライドなんだなと思った。


「ミルキーちゃん、ちょっとお菓子買うからコンビニ寄って!」


「んもう! あんまり間食しちゃ太るわよ?」


「大丈夫だって! その分、ちゃんと運動するから!」


 車はコンビニの駐車場に入る。


「すばるんも降りて降りて! 一緒に今日の夕飯も買お!」


「弁当で済ます気ですか? 材料さえありゃ俺が作りますよ」


「あら昴君、料理できるの? 偉いわねぇ~」


「バイトで調理担当なんで」


「それなら帰ったらあたしのバーに来なさい。食材分けてあげる♪ どうせセイちゃんの冷蔵庫にはジュースとかしか入ってないだろうしね」


「失礼な! アイスもあるよ!」


 弁当を買う必要は無くなったわけだが、一応ボディガードだしな。俺も降りておいた方がいいだろう。

 車から出て傘をさす。車からコンビニまでは短い距離だが、俺が濡れてこの高級車も濡らすわけにはいかない。


「すばるん入~れ~て!」


「のわっ!?」


 六道先輩が腕に絡みついてきた。


「六道先輩! 羞恥心とかないんすか!? 胸! 腕に当たってますよ!」


「ボクのおっぱいに恥ずべきところはないっ!」


「んな迫真の顔で言うことか!」


 足早にコンビニに入り、六道先輩との密着状態を解除する。

 六道先輩はコンビニに入るとすぐさまお菓子コーナーに足を運んだ。


「そういえば」


 エグゼドライブがどっかのお菓子メーカーとコラボしていたな。

 あった。この手のひらサイズのチョコ。包装紙にはエグゼドライブメンバーが印刷されている。俺はチョコの中からかるなちゃまの絵柄を探し、手に取る。


「へぇ~」


 と俺の手元を六道先輩が覗き込んできた。


「かるちゃま推しなんだ」


 店長はかるなちゃまをかるちゃまと呼ぶ。

 この呼び方で、ああホントにこの人が店長なんだな~……っと改めて理解した。


「ええ、まあ」


 なんだかちょっと照れるな。


「むむむ~! ボクの中の泥棒猫根性がムクムクしてきたよ。覚悟してねすばるん」


 六道先輩は耳元で、


「……絶対、キミをボクのファンに堕としてあげるから」


 ゾゾゾ。と背筋に鳥肌が走った。


「にゃはは~! すばるん顔真っ赤っか! 可愛いんだからもうっ!」


「こんの……! からかいやがって……!!」


 六道先輩はカゴを手に取り、バッサバサと菓子を入れていく。

 なんというか、こう。子供っぽくて底抜けに明るいけど……やっぱり年上なんだなって思う。ちょっとだけ、大人の色気みたいなのを感じる……悔しいが。


「会計お願いします!」


 元気に買い物を終えた六道先輩。ちなみに俺が持ってたチョコも買ってくれた。


「持ちます」


「さんきゅ~」


 袋は俺が持ち、外に出る。

 だが、


「あっはは……」


 運転席で苦笑いするミルキーさん。

 車の周りに、黒服の強面男が2人立っている。


「……パパの部下の人だ」


 黒服たちは俺たちを見つけると、傘を閉じて近づいてきた。タイミングよく、雨が晴れていた。


「お嬢様、社長がお呼びです」


「さぁ、こちらの車に――」


 俺は黒服と六道先輩の間に立つ。


「ようやく、ボディーガードの出番だな」


「なんだ小僧……」


「六道先輩、運動は得意ですか?」


「ずっと最高評価だったよん♪」


「じゃあ、逃げますよ!」


 俺は六道先輩の腕を引いて走る。


「にゃはは! すっごい、ドラマみたい!」


「待ちやがれ!!」


 やくざのような怒声を放ち、追いかけてくる黒服2人。

 俺は人のいない道を選択し、走っていく。


「すばるん!? どんどん人気のない方に行ってるよ!?」


「それでいいんですよ。通報とかされたら面倒じゃないですか」


「え?」


「確認ですけど六道先輩、アイツらはぶっ飛ばしていいんですよね?」


「う、うん。先に恐喝まがいのしてきてるのあっちだし、なるべく大事にしたくないだろうから通報とかはしないよ絶対。

――って、まさかすばるんアイツらと戦う気!? 見たでしょあのゴリラみたいな体格!!」


 黒服を誰もいない路地裏に誘い込み、俺は足を止める。この先は行き止まりだ。


「終わりだな、小僧」


「邪魔するなら少々痛い目を見てもらいますよ――ぐはっ!?」


 俺は紳士風な黒服の顔面に飛び蹴りをくらわせる。

 黒服は吹っ飛び、倒れ込んだ。


「なっ!?」


「うそーん!」


 拳をポキポキと鳴らし、残りの1人を挑発する。


「生憎と、喧嘩じゃ負けたことねーんだ」

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