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第46話 ハリセンボン

 メイド喫茶〈MoonRabbit(ムーンラビット)〉。俺のバイト先である。

 その従業員入口をくぐった所であることに気づく。そう、バイト中は六道先輩をどこに(かくま)えばいいのだろう、という問題だ。後々考えておかないとな。


「おはようございま~す」


「おっは~」

「おはよう」

「よう、青少年」


 いつもの3人組、勾坂(こうさか)先輩、村雲(むらくも)先輩、八侘(やた)先輩がバックルームに居た。

 この3人は高3、つまり六道先輩の同級生だ。


 ……ちょっと聞いてみるか。


「……あの、六道先輩ってどういう人……ですか?」


「変人!」

「うるさい」

「卑猥」


 うん、俺が受けた印象と違いない。


「でも」


 と、村雲先輩が付け加える。


「努力家よ」


「努力家……」


「認めたくはないけどね」


 基本辛口の村雲先輩が言うなら説得力あるな。


「おいおい、悪いこと言わないからアイツはやめとけよ、青少年」


「そうだよすばっち。この私が、晴楽と一緒に居る時はツッコミ役になるんだからね~。あの子の彼氏になったら大変だよ~」


「別にそういうつもりはありませんよ」


 シフト表を確認する。

 なぜか店長の欄に線が引いてあって、代わりに林さんの名前がある。


「今日店長休みっすか?」


「おう。なんか知らんけど、これから暫く休み取るんだってさ」


「え!? そうなの!?」


 反応したのは勾坂先輩だ。


「な、なんで!? なにかあったの!?」


「さあ? まぁでも店長イケメンだし、女と旅行でも行ってんじゃね?」


 ガーン。と肩を落とす勾坂先輩。わかりやすいな……。


「そろそろ時間ね」


 これから昼組と夕方組が一気に切り替わる。

 俺はキッチンに出る。すでに林さんがいた。


「ヨ~、スバ」


「おはようございます」


 林さんはロックバンドもやっていて、髪色緑で耳舌唇にピアスがある。俺が霞むレベルで怖い。


「やっと2人か。楽になるゼ」


「お疲れ様です」


「今日はBGM何にする?」


 林さんは見た目こそ怖いが、中身はめっちゃいい人。

 BGMをリクエストするとスマホで音楽を流してくれる。


「林さんの好きなやつでいいですよ」


「ああ、じゃあお前に勧めてもらったVチューバーの楽曲でいいか? 蛇遠れつのやつ」


「いいっすね!」


 蛇遠れつの音楽がかかる。


「荒れ狂う海の中も~♪」


 料理中は歌わないが、料理してない空き時間やストップウォッチを止めに行く時は林さんは豪快に歌う。めちゃくちゃ上手いのでこれもいいBGMになる。


「キミとなら、怖くはない~♪」


 俺も暇な時はこうして歌う。

 2人とも手が空いてる時はデュエットを歌ったりもする。歌声がデカすぎて店長やメイドさんに注意されるまでがワンセットだ。



 --- 



 家に帰り、最低限の荷物をバッグに詰め込んだ。

 さすがに通学用バッグには入りきらなかったから別に肩下げのバッグも用意した。

 妹は結構乗り気みたいで、「あんな可愛い姉妹と共同生活だなんて! しかも豪邸だ~!」とはしゃいでいた。挙句には「お兄ちゃん♪ 一か月ぐらいお泊りしててもいいんだよ?」と言ってくる始末。傷ついたぜ。


 ぐっすり眠って朝、外に出ると、


「おはよう、兎神君」


 アオと接敵(エンカウント)した。

 バッグが重いから通学速度が遅くなると予測し、早めに出たのが仇になった。


「おはよう。じゃ、俺急ぐからこれで――」


「どうしたの? その荷物」


 アオは俺のバッグを指さしてくる。


「ああ、友達の家に泊まりに行くんだよ」


「友達って誰?」


 なぜか笑顔で聞いてきやがる。


「……日比人だよ。日比人」


 後で口裏合わせてもらおう。


「ふーん」


 にやにやと、訝しげに俺の顔を下から覗き込んでくる。

 アオはエレベーターの方に指を向け、


「遅れちゃうし、歩きながら話そうか」


「お、おう」


 アオと一緒にマンションを出る。


「何日間泊まるの?」


「今日から9日後までだよ」


「どうして泊まるの?」


「遊ぶために決まってんだろ」


 俺がいま歩いているのは通学路のはずだが、取調室に居る気分だ。


「9日間も、わざわざ夏休み前にね~……」


「べ、別にいいだろうが!」


「兎神君ってさ、後ろめたいことあると目逸らすよね」


 ぎくり。と背筋が震える。

 アオはまったく笑ってない目で、



「嘘じゃないよね? 今の話」



 包丁持ったヤンデレがする目わかる? あのまったく光のない目。今のアオの目はそんな感じだった。


「……嘘じゃないよ」


「うん! それならいいんだ。兎神君が隠し事する時って大体無茶なことする時でしょ? それが心配でね」


「無茶なんかしねぇよ」


「ホントに? じゃあさ」


 アオは小指を出してくる。


「指切り。絶対無茶しないって約束して?」


「はぁ? そんなガキくさいこと」


「いいから!」


「……ったく」


 俺はアオと小指を絡ませる。

 こいつには一体どこまで見透かされてるのか、わかったもんじゃねぇな……幼馴染って恐ろしい。


「嘘ついたら針千本飲~ます♪ っと。あ、一応言っておくけど、冗談じゃないからね?」


 将来、コイツの旦那になった人にはちゃーんと2つ忠告しないとな。

 『浮気したらバレるぞ』。そんで『浮気したら殺されるぞ」ってな。

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