第44話 六と七
5時間目は全校集会だった。
夏大会へ向かう部活動を激励したり、よくわからない検定の合格者を表彰したりというのがメインだ。どうせ一学期最後に終業式やるんだからそこでまとめてやれと言いたい。
まぁ意図はわかるけどなぁ、意図は。まとめて色々やって熱中症とかで倒れられるのを学校側は恐れているのだろう。今年の夏は特に暑い。
しかしタルいな。部活の人間に思い入れでもあれば別だったんだろうけど。
「それでは次に、生徒会長の挨拶です。生徒会長、六道晴楽さん、お願いします」
「はいっ!」
壇上に上がるは派手な髪の女子。
両肩に垂れたピンク色のおさげ。透明感のある肌にはっきりとした顔立ち。スタイル良し、顔良し、元気良しの三拍子の女子。
「生徒会長の六道晴楽です。夏休みまであと残り10日、暑さに気を付けて健康体で夏休みを迎えられるよう……」
生徒会長は模範解答の挨拶をする。
「……やっぱレベル高いよなぁ、ウチの生徒会長」
「……結構いいとこのお嬢様らしいぜ」
「……あーそれで。なんか品があるよな」
「……彼氏居んの?」
「……副生徒会長がらしいって噂だぜ」
男子生徒がザワザワしている。うん、まぁ間違いなく美人だもんな。気持ちはわかる。
副生徒会長ってのはあの袖の方に居る眼鏡か。黒髪で、これまたイケメン君だ。副生徒会長にキャーキャー言ってる女子もちらほらいる。
美男美女、お似合いかもな。
「では、これで挨拶を終わります」
壇上から去る寸前、生徒会長がウィンクをした。
そのウィンクは……気のせいでなければ俺に向けてしたような――
「いま! 俺にウィンクしたよな!?」
「なーに言ってんだ! 俺だって! 間違いなく俺!」
「あの発射角からウィンク定理を用いて解析するに、着弾点は間違いなくこの私……」
「そこ! 静かにしろ!!」
先生の怒号が飛ぶ。
恥ずかしい……こっちにウィンクしたと勘違いするとか、こいつらと同類じゃねぇか。
全校集会は滞りなく終わり、そして、放課後がやってくる。
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夕方の屋上。
うちわ片手に麗歌を待つ。
「……やっと涼しくなってきたなぁ」
それにしても麗歌のやつ、今度は誰の依頼だろうな。
大体の確率でかるなちゃまかハクアたんだろうけど、もし他の3人だったらどうしよう。そうだ、その可能性だってあるじゃねぇか。すっかり頭から抜けてた。
え? そうなるとワンちゃん、ここで顔合わせとかすんのかな。やべぇ! いきなり緊張してきた!
れっちゃん、ヒセキ店長、ぽよよん。その内の誰かと会うんじゃ……いや、まさかな。そんな急に――
「ふりぃ~だぁむ」
気の抜けた声と共に、俺は後ろから抱き着かれた。
むぎゅう。と、女性の胸の感触が背中に当たる。汗ばった女子の体と、汗ばった俺の体が接触して、むわっとしたいやらしく甘酸っぱい匂いが醸し出される。
「やっと終わったぁ、生徒会会議。疲れた、いらいら、むらむらぁ~」
「なっ……!?」
俺は慌てて女子を振りほどき、距離を取る。
振り返ると、そこに立っていたのはあの生徒会長――六道晴楽だった。
「は? え!? な、なんで生徒会長がここに……!」
「いやだなぁ、キミにボクのお願いを聞いてもらうからに決まってるでしょ。すばるん♪」
「お願い? なんのことだ?」
「……はぁ……はぁ……! いきなり走らないでください晴楽さん!」
遅れて麗歌がやってくる。
「麗歌! こりゃ一体……」
「そうですね……まずはこの方が誰なのかを教えましょう。ホントはもっと段取り良く進めたかったのですが、やれやれ……」
麗歌は六道先輩に手を向け、
「こちら、七絆ヒセキの魂、六道晴楽さんです」
「へいらっしゃい! ヒセキ店長ダヨ~」
「……ヒセキ、店長……? 六道先輩、いこーる、生徒会長、いこーる、ヒセキ店――ええぇ!!?」
ヒセキ店長……生徒会長が!?
「た、たしかに今のキャラは店長っぽいけど。アレ? 俺、生徒会長ってまじめなイメージがあったんだが……」
「公私を分ける偉い子なのだよボクは。本来のボクは! 常にふざけていたいギャルっ子なのだよぉ~」
い、今更だがよく聞くと声も似ている。
マジでこの人かよっ!
「天真爛漫を絵に描いたような人で、私にも制御不能なのです……」
「キミさ! 名前兎神昴って言うんだよねっ! あのね、歌作ってきたんだ~。キミの歌」
「晴楽さん、あの、まずは私の話を……」
「す~ばルンルン♪ すばルンルン♪ 兎の神様♪ すばルンルン♪」
無駄にキレのあるダンスを披露する六道先輩。
あの麗歌が頭を抱えている。
「今回の依頼は七絆ヒセキ、ひいては晴楽さんに関することなのです」
六道先輩を無視して話を進める麗歌。
「晴楽さんの家は……」
「ボクの家さ! 六道グループっていう財閥なんだぁ」
「六道グループ……って、あの大手ホテル企業の!?」
高級ホテル、と言えばでまず名前が上がるのがこの六道グループのホテルだ。
使ったことはないがCMとかでよく名前を聞く。マジもんの富豪だな。
「そうそう。ボクのパパがそこの社長、つまりボクは令嬢ってわけ!」
「……令嬢ってガラじゃねぇけど」
「……まったくです」
「まったくもう、生意気な後輩ちゃんたちだね~」
六道先輩は肩を竦め、
「でねでね! ボクのパパったらボクが会社に関係ない仕事を……Vチューバーをやってるの気に入らないらしくてね、ボクに配信活動を辞めさせるために、ボクを家に連れ戻して配信環境のない部屋に隔離しようとしているのだよ。さ~困った困った! そこで、トラブルシューター君の出番ってわけ」
なるほど。
まだ混乱はあるが、話の大筋は読めた。
「10日後の登録者数200万人記念ライブだけは絶対にやり遂げたい。パパと対面するのはライブの後までお預けにしたいんだよ」
六道先輩はこれまでとは一転、真剣な表情で告げる。
「だからキミにボクを守ってほしい。これから10日間、ボクのボディーガードをやってよ。すばるん♪」