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第3話 月と兎の邂逅

 放課後。

 麗歌と合流し、住宅街を歩く。


「姉にはさっき昴先輩が来ることは電話で言いました」

「なんか言ってたか?」

「『ダメ! 連れてこないで!』と言ってました」

「……じゃあついて行っちゃダメなんじゃないのか?」

「いえ。あの引きこもり姉には劇薬が必要なのです。昴先輩は良い劇薬になると思います」


 劇薬……あまりうれしい評価じゃないな。

 俺の見た目は完全に不良。不良を引きこもりに充てるとか、この子すげードSだ。


「着きました」


 真っ白な二階建て一軒家。

 麗歌の後に続く形で家の中に入る。


 玄関で靴を脱いでると、トイレの流れるような音が通路の奥から聞こえた。


 ガチャ、と通路の奥の扉が開き、パジャマ姿の女子が出てくる。


 銀色のロングヘアー。前髪が長く、右目は完全に隠れている。左目はクリっとしていて大きい。

 身長は150cmなくて、かるなちゃまよりは大きいが小柄。

 そして胸! でかい! バストサイズに詳しくはないが、Eカップ以上はあるのではないだろうか!


「お、おかえりなさい……れい、か……ちゃぁん!!?」


 銀髪女子は俺を視界に入れると、脱兎のごとく階段を駆け上がっていった。


「……今の兎系女子は妹か?」

「いいえ、姉です」


 あれが姉か。見た目は完全に中学生だったな(胸以外)。

 声はかるなちゃまと同じに思えた。けれどそれは妹の麗歌も同じ。

 どっちだ? 麗歌の話を信じるなら、姉の方のはずだが……あっちはあっちでかるなちゃまと性格が違う感じがする。かるなちゃまは活発で、引きこもりとは正反対だからな。


「昴先輩は姉に用があるんですよね?」

「ああ、まぁな」

「それなら、姉の部屋に案内します」


 あの反応を見た後でもまだ俺を姉に会わせる気か。この妹、ドS過ぎる。うちの妹と気が合いそうだ。


「こちらです」


 本当に二階の綺鳴の部屋の前に連れてきてくれた。

 ドアプレートに“きなり☽”と書いてある。


「お姉ちゃん。お客さん連れてきたよ」


 ドアの先から『頼んでないよ!?』と声が飛んできた。

 麗歌は問答無用でドアノブに手を掛ける。しかし、鍵がかかっているのか、ドアノブは下がらない。


「では、後はお任せします」

「このタイミングで丸投げ!?」

「このドアを開くことはエクスカリバーを引き抜く並みに難しいとされています。あなたが選ばれし者ならきっとこの扉を開くことができるでしょう」

「……勇者か俺は」


 本当に麗歌は階段を下りていった。


「……」

『……』


 さてこのエクスカリバー、どうやって引き抜いたものか。

 待て待て、使命を思い出せ兎神昴。俺は引きこもりを連れ出すために来たんじゃないだろうが。


「あー、えーっとだな。俺がここに来た目的は1つだけなんだ。その……お前は月鐘かるなの魂、なのか?」

『!!?』


 ガタゴト! と部屋の中で誰かが転んだような音がした。


「おい! 大丈夫か!?」

『だ、だいじょぶですぅ……』


 すー、はー、と深呼吸が聞こえる。

 そして、


『も、もしそうだとしたら……うれしいですか?』

「え?」

『うれしくないですよね。だって、月鐘かるなは明るくて、可愛くて、みんなのアイドルで……わたしのような根暗と違います。わたしのような引きこもりオタクが、もしも月鐘かるなだったら……幻滅しますよね』


 早口で彼女は言う。

 どうやらなにか勘違いしているな。


「幻滅なんて、するわけないだろ」


 俺はそう言って笑いかける。相手には俺の顔は見えていないだろうがな。


「そんだけ正反対なのにバーチャルの世界じゃ完璧な月鐘かるなになっている。そりゃ凄いことだよ。むしろ尊敬するね」


『尊敬……』


「それにお前はお前だ。俺が愛しているのは月鐘かるな。多くの人間によって支えられ、生まれた月鐘かるなという偶像(アイドル)だ」


 キャライラストを描いた人が居て、

 3Dモデルを作った人が居て、

 プロデュースする人が居て、

 指導する人が居て、

 命を吹き込む人が居て……そうやって多くの人の手によって生まれたのが月鐘かるなだ。この世で唯一無二の存在だ。


 綺鳴は一息置いて、


『わ、わたしは、月鐘かるなじゃありません』

「そうか」

『……月鐘かるなの……親友、です』


 ああ、十分だ。

 俺の、大福の世界観を守った、ベストな答え方だ。


「お、俺さ……! 生まれつき顔つきが悪くて、友達はできねぇし、不良にばっかよく絡まれるし、外に出るのが怠くて……お前と同じように引きこもってたことがあるんだよ」


『そ、そうなのですか……』


「全部全部なにもやる気にならなくて、深い理由があるわけでもないのに人生諦めてた。でもそんな時にさ、月鐘かるなに会ったんだ!」


『っ!?』


「彼女の配信が楽しみで、生きていく希望が生まれた! 楽しくなったんだよ、世界が! かるなちゃまが頑張ってるから俺も頑張ろうと思えた……学校にも行くようになった」


 あの腐りきっていた俺を救ってくれたのは、間違いなくかるなちゃまだ。


「月鐘かるなが何者だろうが、彼女が俺に生きがいを与えてくれて、救ってくれた事実は揺るがない」


 それだけは、絶対に――


「いきなり邪魔して悪かった! だけど1つだけ、絶対に言っておきたいことがあったんだ! かるなちゃまに伝えておいてくれ……『この世に生まれてきてくれてありがとう』ってな。じゃあな」


 俺はそう言って、階段を下りていく。

 一階に下りると、


「……用は済んだのですね」


 麗歌がため息交じりに言ってくる。


「あなたでもエクスカリバーは抜けませんでしたか」

「あいにくな。つーか、初対面の俺に抜けるわけないだろ」

「そのようですね。なんとなく、あなたなら何とかしてくれるような気がしたのですが……残念ながら、私はマーリンにはなれなかったようです」

「まったく、俺がアーサーってガラかよ……」


 靴を履き、朝影家から出る。


(それにしても朝影綺鳴か。あの感じ、いじけている時のかるなちゃまにソックリだったな)


 クク……と思い出し笑いをした時だった。

 ドタドタと階段を下る音。

 ガタン! と扉が開く音が背後から聞こえた。


「あ、あの!!」


 ビクッと肩を揺らし、俺は振り返る。

 汗を大量にかいた朝影綺鳴が立っていた。


「は?」

「いい、言ってなかったので……ありがとうって。昨日の、コンビニで……」

「ああ。あれな。別にお前のためにやったわけじゃないんだがな」


 不覚。ツンデレ語録を使ってしまった。

 でも事実だしなぁ。


「あ、ありがとうございました。本当に、怖かったので……」

「おう。今度から夜に1人でコンビニ行くのはやめとけよ。お前さ、自覚ないと思うけど、可愛いから。そりゃナンパされるって」

「かかか、かわいいだなんて……!?」


 プシューッと頭から煙を吐き、照れてしまう綺鳴。


「用はそれだけか?」


「は!? ……はい」


「そんじゃ、またな」


「ま――」


 ガシ! と背広を引っ張られる。


「うお!?」


 振り返ると、綺鳴が息が当たるぐらいの距離まで詰めてきていた。


「ままま、待ってください! お、お礼に……その……」


 口ごもる綺鳴。待つこと10秒、


「歌枠!」


 と渾身の声で言った。


「歌枠?」


 歌枠とは歌の生配信のことだ。

 Vチューバーが色々な歌を歌ってくれる配信である。


「次の歌枠……お礼に、リクエスト……聞きます。聞いて、かるなちゃまに伝えておきます!!」


 瞬間、全身を雷に打たれたような感覚が俺を襲った。



「なななな、なんだってぇ!!?」



 なんという幸福。

 なんという僥倖!

 お、俺がかるなちゃまにリクエストできるだとぉ!!

 お、落ち着け。深呼吸、深呼吸……!


「ちょ、ちょっと時間くれ!」


 俺は綺鳴の手を振りほどき、スマホをポケットから引き抜いて考える。

 どうする? 候補が多すぎる! どれもこれも歌ってほしい!


 でも、あえて、あえて1つ選ぶなら、やっぱり俺が一番好きな曲にしよう!


「こ、これで!」


 とあるアニソンのウィ〇ペディアを開き、画面を綺鳴に見せる。


「カラフルラピットのセカンドシーズンのOP、“キャロットレヴォリューション”で、お願いします……!」

「これ……これ! わたしも好き!!」


 綺鳴は俺のスマホを見て、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「カラフルラピット面白いよねっ! 女児向けアニメなんだけど、結構ダークな部分もあって、でもでも女児向けらしくちゃんと可愛いところもあって! 子供も大人も楽しめるんだよねっ!」


 キラキラと無邪気な笑顔を向けてくる。

 なんだ……このキューティービッグバンは。笑うとこんなにも可愛いのか。

 綺鳴とかるなちゃまは違う。しかし! こうやって無邪気な笑顔をされると重なってしまう……かるなちゃまに!!


「あ……」


 我に返った綺鳴はそそくさと後退し、玄関扉を盾に顔以外を隠した。


「ご、ごめんなさい。調子に乗りました。わかりました、かるなちゃまに伝えておきます……」

「……アンタは俺の女神さまだぜ……」


 キラリ、と一滴の涙を流す兎神(おれ)であった。


「さ、最後に、お名前……を」

「兎神昴だ! よろしく――」


 名乗ったところでバタン! と扉が閉められた。

 それから間を置かず、扉が開かれる。出てきたのは妹の方だ。


「すみません。姉はどうやら活動限界みたいです」


 緊急脱出(ベイルアウト)したか。


「そうか、わかった。じゃあまたな」

「――昴先輩」


 初めて、麗歌はこれまでの無表情を崩し、小さく笑った。


「エクスカリバー、抜けましたね」


 意地の悪そうな、小悪魔な笑顔だ。

 バタン、と扉は閉められる。


 俺が抜いたと言っていいのだろうか。

 彼女は勝手に出てきたし、しかも昨日だって1人でコンビニ来てただろう。


……まぁ、なんでもいいか。


 歌枠にリクエストできただけで満足だ。



 ---  



 あれから一週間後。

 今日は月鐘かるなの歌枠生配信の日である。


 ポテチ、OK。

 コーラ、OK。

 デスクトップPCの前、ヘッドホンをつけて時を待つ。


『きーん、こーん、かーん、こーん! 起立、礼! こーんばーんーはーっ! エグゼドライブ6期生の月鐘かるなです!』


 始まった!

 それから雑談を5分ほどして、運命の刻が来る。


『今日は歌枠で~す! アニソン縛りでいっくよっ~! 一曲目はカラフルラピットのセカンドシーズンOP……“キャロットレヴォリューション”!!』

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