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第26話 兎と青

 聞くのか? 聞くだろ!


 ボカしたままでいいはずがない。そもそもコイツがハクアたんである可能性はまだ半分もないんだ! ただ昨日聞いた声がハクアたんに似てただけ! 今の会話では全然ハクアたんっぽさはなかった!


 他の理由も根拠としては弱いものばかりだ。

 直接聞いて、ハッキリさせよう。


「お前は……天空ハクアなのか?」


 まっすぐ、アオの顔を見て問う。

 アオは数秒間を置いた後、困ったように笑って、


「本気で言ってるの? 兎神くん」


「え?」


 アオは俺の手からするりと抜ける。


「私がVチューバーなわけないでしょ? 昨日のアレはハクアたんの声真似しただけだよ。兎神くんが喜ぶと思ってね」


「な……声真似ってレベルじゃなかったぞ! あれはまさしく――」


「じゃあこれはどう?」 


 アオは咳払いを挟み、


「ウチはアンタらのことなんか全然好きじゃないんだからね」


 このローテンションなツンデレボイスは……!?


「れっちゃん!?」


「それだけじゃないよ。

――いらっしゃいませいらっしゃいませいらっしゃいませ~! ヒセキちゃんねる開店だよ~」


 これは、ヒセキ店長の声……!?


「私ね、声真似けっこう得意なんだ~。さすがにかるなちゃまとぽよよんは高すぎて出せないけど、ハクアたんにれっちゃんにヒセキ店長の声はマネできるよ。他にも色々バリエーションもある」


「あれ? じゃあ……本当に、ハクアたんの声もただ真似ただけで」


「私がハクアたんってわけじゃない。大体さ、私がハクアたんだったらもっといいマンションに住むと思わない? あれだけ稼いでるのに」


「そ、それは確かに……」


 このマンションはハッキリ言ってボロい。

 ハクアたんぐらいスパチャ額を稼いでいれば、こんなマンションに住むことはない……。


「残念だったね~。『幼馴染が実は売れっ子Vチューバ―だった!』ってライトノベル的な展開じゃなくて」


「うっ……」


 自分の早とちりが急激に恥ずかしくなってきた。


「勘違いご苦労様。もういいかな?」


「あ、ああ。悪い、変なこと聞いて」


 なんだ、勘違いか。

 悩んで損したぜ。


「いいよ、許してあげる。じゃあね」


 アオは素早い動きで部屋に入っていった。

 見間違いだろうか、最後に見えたアオの耳がめちゃくちゃ赤くなってたような気がする。



 ◇◆◇



「危ない危ない危ない……!」


 兎神と別れたアオは、自分の部屋に入るやいなや制服姿のままベッドに飛び込んだ。

 アオの顔は真っ赤に染まっている。


「セーフ! 大丈夫、バレてない!」


 アオは(ひら)けた胸元を見て、余計に顔を赤く染める。


「……大胆だったかな! 大胆だったかな!?」


 慌てて胸元のボタンを掛けていく。

 枕に顔を埋め、足をバタバタと動かし、


「昨日も今日も攻め過ぎ? でもこれぐらいしないと、いつまでもただの幼馴染のままだよね……」


 ベッドに置いてある兎のぬいぐるみを抱きしめ、天井を見上げて寝転ぶ。


(ハクアの声と、成長したこの体で、兎神くんは私のことを異性だと意識してくれたはず……進展、したよね?)


 ぬいぐるみを抱きしめる腕に、さらに力がこもる。


(私が見てきたラブコメアニメの中じゃ、幼馴染の子はみんな負けてきた。でも……私はそうなりたくない)


 そのために犯したリスク。

 ハクアの声を使ったのも、

 おんぶしてもらった時に体を押し付けたのも、

 すべては、(みずか)らを異性として意識されるためのモノ。


 アオは兎のぬいぐるみをジッと見つめ、小さく呟く。



「……だって、絶対、私が一番好きだもん……」

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