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第23話 アオ、怒る

「本館3階の施錠チェックと、全12か所の掲示板に許可なく張り紙がされてないかチェック。それに自販機横のゴミ箱をチェックして、いっぱいだったらゴミ捨てもしろって? こんなの美化委員の領分だろ……」


 隣を歩く綺鳴に愚痴を零しつつ、まず掲示板を見回る。


「でもいいですね~、こうして放課後に慈善活動をするなんて。青春! って感じです!」


「めんどくさいだけだろ……ま、お前と一緒に学校探検できるのは楽しいけどな」


「うえっ!?」


 軟派なセリフを言ってみると、綺鳴はわかりやすく顔を赤くした。


「わ、私も楽しい……ですよ」


 バインダーで口元を隠し、上目遣いで綺鳴は言う。

 まずったな、思わぬカウンターだ。俺まで顔に血が上る。


 とりあえず掲示板のチェックとゴミ箱のチェックを先に済ませ、最後に施錠チェックに向かう。

 本館3階フロア、そこは3年生の教室のあるフロアだ。

 帰りが遅い生徒が居たりしたら注意して帰ってもらい、同時にそれぞれの教室と設備の施錠をチェックしていくという内容だ。


 もう17時で、生徒なんて残ってるはずもない。と思っていたのだが、一つ目のクラスからもう居残りがいやがった。しかも、


「……テニス部の練習じゃないのかよ」


 3年1組。

 教室には風紀委員長の早川を中心に5人ほど残っている。


「えーっと、これって注意して帰ってもらうパターンですよね?」


 綺鳴は背中を丸め、小さくなる。

 上級生相手に帰ってくださいと言うのはそれなりに勇気のいる行動だ。この前まで引きこもりだった綺鳴には難易度が高い。

 幸い、俺はこういうの一切ビビらないタイプだ。


「お前はトイレにでも隠れとけ。俺が行ってくる」


「うぅ……すみません。お任せします」


 綺鳴が女子トイレに駆け込んだのを見て、俺は3年1組の教室に入った。


「すみません。もう下校時刻とっくに過ぎてるので、帰ってくれませんか?」


 俺が言うと、早川が前に出てきた。


「あれ? 君、風紀委員じゃないよね?」


「はい。風紀委員のお手伝いです。黒崎の許可は取ってます」


 念のため言うと、黒崎とはアオの苗字だ。


「え~? アオちゃん、外部の人に手伝い頼んじゃったの? 意識低いなぁ」


 総理大臣、コイツの顔面を殴っても罪にならない法律を今すぐ作ってください。


「……黒崎は体調を崩しているんです。だから俺が手伝いに入りました」


「あらら、アオちゃんにまだ風紀委員長の仕事は荷が重かったかな?」


「そう思うのなら、先輩が手伝ったらどうですか?」


「俺は忙しいの」


 俺が睨むと、早川は大きく肩を竦めた。


「わかったよ兎神くん。出て行くさ。ほらみんな、行くよ~」


 早川に言われ、次々と出て行く。全員テニスラケットを背負ってるからテニス部の連中か。

 早川が教室に鍵をかけるところを見届けた後、俺は早川に問う。


「これからテニス部の練習ですか?」


「うん、そうだよ。最後の大会が近いからね。今日は他校で練習試合だ」


 早川たちを見送った後、綺鳴がトイレから出てくる。


「兎神さん、あのオールバックの人が早川さんですか?」


「そうだよ」


「……私、あの人に会ったことあります」


「え? マジか、どこで?」


「どこでって、兎神さんも見たことあるはずですよ。ほら、この前のカラオケで……」


「――あ!!」


 パズルの最後のピースを嵌めた時のような快感が頭を刺激する。

 そうだ、あの時に見たんだ! 君津と一緒にカラオケに来ていた連中の中にアイツはいた。


「……アイツ、やっぱり部活に精を出すタイプじゃねぇな」


 つーか、こんな時間から練習試合ってのもおかしい。

 練習試合するなら授業が終わってすぐにバス停に向かうだろ。


「綺鳴、悪いけど風紀委員の仕事任せていいか?」


「はい。他の教室は気配ないので私一人でも大丈夫だと思います」


「悪いな。アオには俺は急にバイトが入ったから帰ったとでも言っておいてくれ!」


「りょーかいですっ!」


 敬礼のポーズをとる綺鳴に手を振り、俺は早川たちの後を追った。


 

 ---



 結論から言おう、ビンゴだ。アイツは練習試合なんて行ってなかった。

 駅前で他校の女子生徒と合流し、そのまま電車に乗って別の駅に行き、ゲーセンへと足を運んだ。

 今は太鼓を叩く音ゲーに興じている。それを格ゲー台から覗き見る俺。


「……マジでクズだなアイツ」

「ホントだね」

「まったくです」


 独り言を呟いたはずなのに、二つの別々の声が返事しやがった。

 ゆーっくり後ろを振り向くと、あら不思議、青髪風紀委員と銀髪ロリ巨乳がいるじゃありませんか。


「……テメェら、なんでついてきてやがる」


「綺鳴ちゃんから兎神くんが早川先輩の後を追ったって聞いてね」


 俺は責めるような視線を綺鳴に向ける。綺鳴は俺から逃げるように視線を動かす。


「……私の嘘はなぜかアオちゃんにはバレてしまうのです」


「まったく。風紀委員の仕事はいいのかよ?」


「引き継ぎはしてきたよ。仕事を任せた子たちのためにも、もう容赦はしてられないね」


 アオは手に持ったスマホで早川と女子のゲーセンデートを盗撮する。


「兎神くん。いざという時はお願いね」


「あ、おい!」


 アオは一人、早川たちの元へと向かった。

 早川が接近してくるアオに気づく。


「え? アオちゃん!? どうしてこんなところに……」


「ちょっと慎吾君? 誰この女?」


「いや、ただの後輩! 彼女じゃないって!」


 アオを口説いてたくせに、別に彼女が居たのかよ。


「早川先輩、明日からはちゃんと3年生全員、風紀委員の仕事をやってもらいますよ」


「はぁ? 風紀委員の仕事はお前らに任せたって……」


 アオはスマホの画面を早川に向ける。

 ここからじゃ画面に何が映っているのか見えないけど、間違いなくさっき撮った写真だろう。


「断るならこの写真を新木先生に提出します」


「ちっ、盗撮なんかしやがったのか!」


「あなたはどうせ、内申のために風紀委員長になったのでしょう。でもこれを提出すれば、早川先輩は必ず風紀委員をクビにされますよ。風紀委員の仕事もテニス部の活動もサボってデートしていたわけですからね」


「……写真をいつ撮ったかなんてわからないだろ。風紀強化期間じゃなきゃ、別に女とゲーセンに来てたっていいはずだ」


「早川先輩、衣替えがいつから始まったかお忘れですか?」


 アオは早川の半袖のYシャツを指さす。


「あ!」


「……二日前ですよ」


 逃げ道をふさがれていく早川。

 アオはこわーい笑顔で冷徹に追い詰める。


「私の言う通りに行動すればこの写真は提出せず、先輩も風紀委員長の肩書を失わないまま卒業できます」


「部下のくせに俺を飼い殺しにするつもりかよ」


 早川は待機しているテニス部員たちを顎で促す。


「なぁアオちゃん、女の子がよ、こんなとこに一人で来るなんて不用心だぜ。なぁ、お前ら!」


 早川の後ろからテニス部の後輩たちが出てくる。


「お前からスマホを取り上げるなんざ簡単さ。ついでにお前の恥ずかしい写真でも撮っておこうかね」


 ピリピリと震える空気。

 アオは一切うろたえない。なぜならこのタイミングで助っ人が来るとわかっているからだ。



生憎(あいにく)、一人じゃねーんだな」 



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