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第21話 大好き

 アオのクラスは1組、俺たち3組の2つ隣のクラスだ。

 昼休みになって1組の教室を覗くとすでにアオの姿はなかった。どこに行ったのだろうと廊下を見回すと、階段へ向かうアオの背中が見えた。


 なんとなく足音を消して、良く言えば忍者の如く、悪く言えばストーカーの如く忍び足でアオの後を追う。アオは階段を上にあがり、3階へと足を踏み入れた。3年生のクラスがあるフロアだ。


 俺も3階に上がり、4階へつながる階段の前の壁に背を預け、片目だけを廊下に出す。アオはすぐ側の3年1組の教室の前で男と話していた。アオはこちらに背を向けているが、アオと話している男はアオに視線を合わせているとはいえ階段側を向いている。見つかると面倒なので顔をひっこめ、耳を澄ます。


 チラリと見えたその男子生徒は茶髪でオールバック。体は細く、リア充オーラ満載のやつだった。

 幸い、ここからでも二人の会話は聞こえる。って、この会話を聞く意味があるのかわからないけどな。


「いやぁ、アオちゃんが俺に会いに来てくれるなんてね。嬉しいよ。再三アタックした甲斐があったかな?」


 声も軽い。まさかとは思うが、アオのやつ、ああいうのが好みなのか?

 別にアオが誰と付き合おうと構わないが、なんだろう。胸の奥がムカッとする。あれかな? 娘をお前のような軟派なやつには渡さん! ていう父親の気持ちってこんな感じなのかな? 絶対違うな。


「そういうつもりで来たわけじゃありません」


 先輩に対して、やや強めの言葉でアオは言う。


「早川先輩、今日の朝の挨拶運動にも顔を出していませんでしたけど、なにかあったのですか?」


 口ぶり的に風紀委員の先輩かな? 風貌的には風紀委員って感じはしなかったけど。


「わりぃわりぃ、テニス部の朝練があってさ。ほら、そろそろ最後の大会だから気合入れてるんだよね。正直風紀委員の仕事やってる余裕がないっていうかさ~」


「先生が提案した風紀強化期間を受け入れたのは風紀委員長の早川先輩ですよ。今さらそんなこと言われても困ります! せめてこの期間内は風紀委員に顔を出してください!」


「えー、じゃあなに? テニス部の連中を見捨てろって言うの? 俺エースだから、俺が居ないとアイツら困ると思うけどなぁ」


「別に見捨てろって言いたいわけじゃ……」


「アオちゃん優秀だから、俺の代わりぐらいできるっしょ? 頼むわ~、次の委員長にはアオちゃんを推薦してあげるからさ!」


「そんな……! 私もそう暇じゃないんですよ……」


「暇でしょ? だって部活もバイトもやってないし、塾とかにも行ってないって聞くよ? 帰宅部イコール暇人じゃんか!」


 ひでぇなコイツ。

 俺が言い返してやりたいところだが、しかし俺が出て行ったところでアオのやつは嫌がるだろうし余計に話がこじれる気もしなくはない。


「それともなに? なにかやってるの?」


「それは……やってませんけど」


「はい、じゃあ決まりね。これから2週間風紀委員長代理よろぴく~」


 話は終わったようだ。アオに見つかるとやばい、退散退散。



 どうするかなぁ。アオには同情するけど、実際アオなら代理ぐらい簡単にこなしそうだ。他の風紀委員も手助けしてくれるだろうし。ここで俺が出張るのはかえってアオの邪魔になりそうな気もする。

 これはアオが自分で解決できる問題だろう。下手に手を出すこともない。


 気になるのはあの早川という男。

 なんかどっかで見たことあるような気がする……。



 --- 



 夜になって、俺は昨日と同様ハクアたんとゲーム練習をしていた。


「はい、ここです!」


『えいっ!』


 俺の操作するキャラクターを、ルギア(ハクアたんが操作するキャラ)が撃墜する。


「そう! そのタイミング! 完璧でした!」


 ちなみに俺が操作しているのはムービィーという黄色くてまんまるのキャラだ。満月に目や手足を生やしたような造形で、かるなちゃまの持ちキャラである。ほぼ間違いなく、かるなちゃまはハクアたんとの対戦でコイツを使ってくる。


 つまり、今やっていたのはvsかるなちゃまの模擬戦だ。


「かるなちゃまは相手の撃墜ゲージが7割を超えると必ずこのブレイク技を振ってきます。その後隙に今のブレイク技を当ててください」


『うん! イメージ掴めた。凄いね昴くん、かるなちゃまの動画もチェックしたんだ』


「もちろんです」


 かるなちゃまの動画は今回の一件に関係なしに全部20回は見てる。


「6期生は箱推しなので、6期生の5人の動画はほぼ全部見てますよ」


『ふーん、それじゃあさ、6期生で一番好きなのは誰なの?』


 うっ……いじわるな質問だな。

 本音はかるなちゃまだけど、ハクアたんの前で正直に言うわけにもいかないよな。いやでも、嘘をつくのもアレだし……、


『あっはは、その沈黙で私以外っていうのバレバレだよ』


「そんなことは……ないですよ?」


『質問が悪かったね。

……うん、ちょっと質問変えようか』


 ハクアたんはクスりと笑って、



『昴くんは、私のこと……好き?』



 さっきの質問と違って、この質問なら堂々と答えられる。


「好きです!」


『……えへへ』


 電話口から照れた声が聞こえる。か、かわいい。


『もう一回、言ってくれる?』


 付き合いたてのカップルのような会話だ。

 しかしこの好きはあくまで異性としてではなく、ファンとしてのものだ。だからハッキリと言おう!


「大好きだぁ!!」


『……もう一声!』


 俺は立ち上がり、大声で言い放つ。



「スーパーウルトラデラックスダイナマイト、だ・い・す・き・だああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」



 隣の部屋から「うるせえええええええええええっっ!!! 何時だと思ってんの!!?」という声が壁を3度叩く音と一緒に轟いた。

 やべぇ、今まででMaxのキレようだ。もう一段階キレると部屋に乗り込んでくるな。


『あはは、妹ちゃんに怒られちゃったね』


「ええ。ちょっとはしゃぎ過ぎました」


『今日はここまでにしよっか。ありがとね昴くん、おやすみなさい』


「はい! おやすみなさいっ!」


 通話が切れる。


「……またおやすみなさい頂きましたっ!」


 深夜0時。自室でガッツポーズする俺であった。


 しかし……なんだ? 今の会話、なにか違和感があった気がような? 

 まぁいいか。寝よう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは良い伏線ですね!
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