表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/91

第18話 はじめまして

『再来週、ハクアちゃんとコラボゲーム配信やりま~す! やるゲームは……“大激闘! ブレイクシスターズ!”です!』


 上機嫌に告知するかるなちゃま。

 バイトを終えた後、家に帰った俺はいつも通りの三種の神器(ポテチ、缶コーラ、缶コーヒー計350円!)を手元にかるなちゃまの配信を聞いていた。


『かるなちゃまが6期生の中で、ゲームで勝てるのハクアちゃんぐらいだから楽しみだなぁ~。ぼっこぼこにしちゃうもんね!』


 6期生のゲーム上手さランキングはれっちゃん、ヒセキ店長、ぽよよん、かるなちゃま、ハクアたんの順番だ。ちなみにれっちゃんと店長は異次元に上手い。


《雑魚専》

《弱い者いじめ乙》 


 とコメントが流れる。


『雑魚専でも別にいいもん! 勝てばよかろうなんだもん!』


 勝ちを確信しているかるなちゃま。

 これは……もしハクアたんが勝って、もし俺がハクアたんを指導していたことがバレたら、綺鳴にブチ切れられそうだな。


 心配になった俺は麗歌に『依頼のことは綺鳴には内緒に』とメッセージを送った。麗歌からの返信はなかったが、既読はついたから大丈夫だろう。



 ---



「兎神さん! ブレシスやってますか!」


 朝の教室で、出会い頭に綺鳴が聞いてきた。ブレシスとは“大激闘! ブレイクシスターズ!”の略である。


 目の奥がキラキラと輝いている。眩しくて眼球が焼けそうだ。

 学校の自販機で買った200mlのいちご牛乳の紙パックにストローを差すと共に綺鳴から視線を外す。


「いや、名前は知ってるけどプレイしたことはないなー」


 我ながらちょい棒読みだった。


「え~、残念です。特訓相手になってもらおうと思ったのに……」


 本当はやってるぜ! と言いかけた口を何とか紡ぐ。


「別に俺じゃなくても、麗歌とでもやればいいだろ」


「麗歌ちゃん格闘ゲームは下手くそでして。シューティングとかはめちゃくちゃ上手いんですけど」


 なるほどな。

 麗歌がどうしてハクアに指導しないのかこれでわかった。アイツもブレシスは下手なんだな。


「……それに、普通に兎神さんとゲームで遊びたかったというか……」


 ゴニョゴニョと綺鳴が何かを呟いている。

 何を言ってるか聞こうとしたところで、体育教師の小荒井先生が入ってきた。


「はい、ホームルーム始めるよ~」


 話を止め、横向きだった体を前に向かせる。


 正直、今日はソワソワが止まらない。

 22時からハクアたんとマンツーマンでゲーム……駄目だ駄目だ、浮かれてはいけない! 俺の役目はあくまで指導だ。楽しむことじゃない。


 昨日は徹夜して指導計画票を立てた。初心者向けのキャラのピックアップも済ませ、ハクアたんのブレシスのプレイ動画を全て見返して足りない技術を全て洗い出した。準備は万端だ。


 問題は俺の緊張! 顔を合わせないとはいえ、一対一で緊張せずに応対できるだろうか。

 授業が全然頭に入らねぇ……数学の授業なのに英語の教科書出してるし。

 


 --- 



 目をギンギンにして、その瞬間を待っていた。

 部屋のテレビに映し出されるはブレシスの待機画面。

 なぜか座布団の上に正座の俺。目の前の机には缶コーヒーが3本とコントローラー、そして机の中心にスマホ。


 22時にハクアたんの方から電話がかかってくる予定だ。


 今は……21時。まだ1時間前である。

 おもむろに立ち上がってはスクワットしたり、窓の外を見上げてみたり。用もないのにリビングに出て冷蔵庫を開いて、閉じてみたり。風呂上がりの妹がウロウロする俺を気味悪そうに見ていた。


 部屋に戻って、もう50分ぐらいかな? と思ったらまだ21時15分。この悶々をあと45分も耐えなければいけないのか、と憂鬱になる。


 しかしなんとなく手に取った漫画を読み進めていたら、あっという間に21時50分になった。やっぱり漫画は最強の暇つぶしだな、と感心したところでスマホがピロンと鳴った。


 ハクアたんとのメッセージ画面に最初のメッセージが届く。『準備はできていますか?』と簡潔なメッセージ。『できてます』と返せば電話がかかってくるだろう。


 俺は『準備OKです』という短い文を打って、10回ほどこの短文に誤字脱字がないか確認しメッセージを送った。

 そしてすぐさま、スマホが鳴り出した。着信ボタンを押し、スマホを耳に当てる。


「はははは初めまして! う、兎神です!!」


 緊張全開! 極寒の地にでも居るのかというぐらい声が震えた。しかも自分でも気づかない内にまた正座している。

 俺のセリフから3秒ほど間を置いて、耳に、声が届いた。



『昴くん、はじめまして。天空ハクアです』



 その声はほんの少しだけ、震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ