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第17話 打倒、月鐘かるな!

 なんだ、結構平和的な依頼だな。

 かるなちゃまがボコボコに負ける姿は好きだし、ハクアたん側につくことにためらいはない。


「いいぜ。その程度のことなら喜んで引き受けるよ」


「あまり舐めてかからない方がいいですよ。あなたがどれだけハクアのゲームの腕を上げられるかで、これからの彼女の活動の幅は大きく変動します」


 まぁ確かに、ハクアたんがそこそこのゲームの腕をつければやれる企画も増えるだろうし、登録者数は一気に伸びるかもな。


「しかし、どうやってゲームを教えればいいんだ? まさかとは思うが顔を合わせて」

「それはないです」


 食い気味に言いやがった。


「すでにハクアとも相談済みです。ハクアは顔や名前は知られたくないそうですが、声やメッセージのやり取りはしてもいいとのことです。彼女のRINE(ライン)を教えるので、それで連絡を取り合ってください」


「了解」


 ハクアたんとゲームかぁ、楽しみだ。


「……念押しに言いますが、舐めてかからないでくださいね」


 しまった、つい表情を緩めてしまった。


「早速ですが、明日から指導の方をお願いしていいですか?」


「おう。何時に始める?」


「そうですね……彼女の場合、平日の配信は19時から21時ぐらいが多いので、22時から24時ぐらいでどうでしょうか?」


「俺はいいけど、ハクアたんの方が結構キツいスケジュールにならないか?」


「私もそう思うのですが、実はこれ、彼女からの依頼なんですよ。今後の活動の幅を広めるためにも、どうしてもゲームの腕を上げたいって。多少の無理は承知の上でしょう」


 そういう経緯だったのか。

 こりゃ、たしかに適当なことはできないな。


「……キャラ通り真面目なんだな」


「ええ。6期生で唯一の常識人です」


 手のかからない優秀なVチューバーです。と麗歌は付け加える。

 普段、問題児である綺鳴を相手にしているからそのギャップでハクアたんのことを気に入ってるんだろうな。というか綺鳴に限らず、6期生って大きな事件が起きてないのが不思議なぐらい個性強い奴が多いもんな(ハクアたんが個性ないとは言わないけど)。


「それでは視聴覚室のカギは私が締めておくので、昴先輩は教室に行って大丈夫ですよ」


 視聴覚室に麗歌が持ち込んだであろう物はPCとモニターを繋ぐケーブルぐらい。片づけを手伝うほどじゃないな。


「わかった。じゃあまた何かあったら連絡してくれ」

 

 

 ---



 俺のバイトは月・金・日。

 月曜と金曜は夕方から夜、日曜は丸一日だ。今日は月曜だから学校が終わった後、電車に乗って樫和(かしわ)駅まで行く。駅から出てエスカレーターを下り、2分ほど歩く。アニメショップと書店に挟まれた場所にメイド喫茶はある。ちなみにここから3分の位置にこの前麗歌と行った“味鬼”がある。


 メイド喫茶には女子用の更衣室はあるが男子用はない。役割が裏方である男子はエプロンを付けるだけなので更衣室は必要ないのだ。だから来たらまずバックルームという名の休憩室に行く。


 ガチャ、とドアを開くと、


「あ、すばっちおっはぁ~」

「よう後輩、ギリギリだなぁ」

「おはよう、昴くん」


 メイドさん3人が挨拶してくれた。と言っても、勾坂(こうさか)先輩はバウムクーヘンを食べながらで、八侘(やた)先輩は机に片足を乗っけていて、村雲(むらくも)先輩は手に持った小説から目を離していない。適当な挨拶である。


「おはようございます。みんな早いっすね、今日三年短縮授業だったんですか?」


 このお三方は明星高校の三年生、つまり俺の1個上の先輩だ。高校でも仲が良いらしく、このメイド喫茶に3人一緒に応募したらしい。


「違うよ~、単にバスがたまたま良いタイミングで来て、電車も良いタイミングで来たから早く来れただけ~」


 と勾坂先輩が返答してくれた。


 勾坂先輩はオレンジ髪のポニーテールの人だ。気さくに話してくれる。どんな客が相手でもすぐ話を(はず)ませるコミュ力おばけだ。このメイド喫茶で人気№1の人である。


 八侘先輩は薄ピンクのショートヘアー。口は悪いが、見た目はちっこくて可愛らしい。ロリッ子メイドさんである。ちなみに客前では太陽のような笑顔を見せる。人気№2。


 村雲先輩は黒髪ロング。笑ってるところを見たことがない。客前でも笑わずに接客する。いつも厳かな空気を醸し出しており、近寄りがたい。見た目は物凄い美人で、他の2人も美人だが大和撫子という言葉が一番似合うのはこの人だろう。ただね、やっぱり愛想が悪いから人気はそこまで高くない。愛想良くすればトップ3に食い込める逸材なのは間違いない。


 この3人は学校でも人気で、三年に留まらず一年生や二年生も告白(アタック)するほど。


「おい、店長1人で調理場回してるから早く行ってやれよ。後輩」


「あれ? 林さん確かシフト入ってましたよね?」


「グループチャット見てないの? 林さん、風邪で今日は休みよ」


「マジっすか……」


 1人で調理場回すとか正気の沙汰じゃねぇ……! 俺だったら絶対無理だ。


『兎神~!! 来たなら早く助けてくれぇ~!』


 悲痛な叫び声がキッチンから聞こえた。

 せっせとエプロンを着て、すぐさまキッチンへ向かう。

 店長は驚くことにフライパン三刀流で頑張っていた。心の底からお疲れ様ですの声が出た俺であった。

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