6話
カリオペ、ファリア、ラファエル、イアンはティアが商会長をしているロシエール商会の職員。
アレクサンダー=アローシェンは帝国の伯爵家の長男で、ティアの恋人・・・?
光がやみ、ティアの視界には見覚えのある風景が入った。
目の前には心配そうな相貌のマシアス。
それに、いつの間にかイアンとアンディオン王国にいるはずのカリオペたちもいた。
「ティア!大丈夫?」
カリオペがティアの肩に触れる。
「ルクレティアナ?」
あまりにぼーっとしているティアを心配してか、マシアスは正式名称でティアを呼んだ。
マシアスの頬がはれている。
ティアの視線に気付いたマシアスが苦笑する。
「ああ、これかい?君を過去に送ったといったら、カリオペ君とラファエル君に叩かれて、殴られたんだ。」
「「あたりまえでしょ(だろ)!!」」
ティアの目の前にいたカリオペと、扉近くに立っていたラファエルが言った。
ティアは周囲を見回す。
懐かしい部屋。
私の部屋。
古の国マルキスル王国の王城にある私の部屋だった。
「マルキスル・・・帝国は・・・」
ティアのつぶやきにその場の全員が黙りこくる。
そしてティアはハッとした。
「アローシェン卿は!?」
ティアが大きな声で叫ぶと、カリオペが微笑んだ。
「アローシェン家の皆様はマシアス様に便乗して、この国に亡命したわ。今は賢者様方と会っているの。・・・魔獣の調査が終了して、そのことも話し合われているわ」
カリオペが安心させるように言った。
「ティア。聞きたいんだが・・・」
マシアスが言うと、ラファエル、カリオペ、ファリアが大きな声で遮った。
「まだ戻ってきたばかりで魔力も安定していないんですよ!」
「少し休ませる気概はないんですか!?」
「もう!なんて鬼畜なの!!」
三人が続けざまに怒る。
しかし、マシアスは気にした風もなく、ティアの隣に腰かけた。
「マシアス様!女性のベッドに座るなんて!!」
カリオペが声を荒げると、マシアスに魔法で口にチャックを付けられた。
「よし。」
マシアスは呟いてティアに振り返る。
「君は帝国で革命が起きていることに気付いたね。それはどうして?」
「・・・過去でロレッソ殿下に会いました。」
「会っちゃったのか・・・」
「いえ。過去の殿下でなく、同じ時代のロレッソ殿下です。」
「「「ん?」」」
「ロレッソ殿下は双子だったそうです。現在革命の中心人物になっているであろう殿下は、双子の弟君。名前すら付けられなかったようです。本物のロレッソ殿下は、カスマ国のアサとともに時の旅人となっているそうです。」
ティアは一部始終あったことを話した。
ただ一つを除いて。
母を殺した人物。
そして、父を殺した人物。
最後にロレッソから聞いた衝撃の事実。
それが事実なら、なぜ。
不思議でならない。
私が知っている“あの人”は愛情深い人だった。
演技だとは思えなかった。
ティアが話し終えたころ、ティアの部屋に尋ね人が来た。
走ってきたのだろう。
乱れた髪を気にすることもなく、紫銀の髪がくしゃくしゃになり、スカイブルーの瞳は心配そうに曇っている。
「アローシェン卿・・・」
ティアが呟くと、アレクサンダーは泣きそうな顔になった。
そのまま小走りで部屋の中まで入ってきて、ティアを優しく抱きしめた。
二度と離れないように。
二度と離さないために。
カリオペが恋人たちだけにしてあげようと気を使うと、渋ったのはマシアスとラファエル。
二人とも、ティアの父親と兄の気分であった。
二人を引っ張って出ていこうとすると、扉が静かにこんこんと鳴らされた。
扉を開けると、目の前にはティアに似たピンクグレージュの髪にエメラルドグリーンの瞳をした、超絶美少年が立っていた。
「姉さん!!」
ティアの8歳年下の弟ルジオ。
久しぶりに会った姉に走り寄る。
恋人たちの間に割り込み、姉に甘える12歳。
ティアは力いっぱい抱きしめた。
知った事実をどう彼に話すか。
話さないべきか。
どうすることが一番かわからない。
とても言えなかった。
父は死んだのではなく、死んだと見せかけただけで。
帝国の監視役でもあった情報暗部の統括者であり、ルジオの実父。
そして、全てを知った母が父から逃げ出し、母を見つけ、何も知らない私が家から離れた際に父が母を殺したこと。
そして、その父は現在名を変え、“シュウ=メルドーバン”と名乗っていること。
父の友人と名乗り、ティアの師匠となり、全てを教えてくれた人。
ティアはただただルジオを抱きしめた。これから起こるであろう、父への断罪。
私は父を愛している。
だからこそ知りたいのだ。なぜ母を殺さねばならなかったのか。なぜ、母を連れて逃げたはずなのに、結局自分が死んだことにしたのか。なぜ、名前を変えてまで私たちの周囲にいたのか。何を求めていたのか。
その夜、ティアはアレクサンダーにすべてをは明日。
過去に行って何があって、何を聞いたのか。
アレクサンダーは口を挟むことなく。
ティアの手を握り、ただ黙って隣に座っていた。