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5話

短いです


ティアは黙ってロレッソの話を聞いていた。

母の死の真相が完全にわかったわけではないが、母が置かれていた状況はわかった。


そして、ロレッソの変わりよう。

冷たい表情。

冷たい瞳。

冷たい声。


冷たいのではない。

生気がなかった。



彼は年々、貴族を操ることに集中している、とヴィクトリアたちから聞いた。

帝国を守るでも、民のために動くでもない。

貴族たちを自分の支配下に置くために尽力していた、と。



「・・・私が変わったと思うか?」

ロレッソが呟くようにティアに言った。


ティアは何も言わず、ロレッソを見据えた。

それが肯定だったから。


ロレッソもわかったのだろう。

フッと笑った。


「お前は、私に立派な皇帝になってほしかったのだよな。」

ロレッソがティアから視線を外し、横にあったベンチに座った。


「私は、皇帝になどなれない。皇帝の血など引いていないのだから。そこにいるアサが私の父だ。」

そう言ってアサがいる方向に顎をしゃくった。


「アサが私に会いに来たのは()()()か・・・。それまでは陛下が父だと疑っていなかった。アサとは学院ではまともに顔を合わせることもなかったからな。


アサと話して、自分の存在する意味がわからなくなった。母は陛下をつなぎとめるために私を妊娠したが、私に興味などもたなかった。陛下が皇后宮を訪ねるときだけ、素晴らしい母親を演じていた。」


「それが、変わった理由はなんですか?」

ティアがロレッソに聞いた。



「実はな、アサも古の国で修行していたことがあった。アサは普段から髪を染めているから、一見全ての魔法が使えるともばれない。私は、アサから多くの魔法を教わった。魔紋も。そして気になったのだ。自分の出生が。母の想いも、陛下の想いも。何もかも。だから、時戻りの石を作り出す実験を続けた。


アサに魔力の核を入れて、時戻りの石を作り続けた。そして、自分の魔力も鍛錬で力を付けていった。それによって時戻りの石を完全に操る術を身に着けることができた。それから、ずっと時の旅人となっている。


元の時代には戻っていないから、すでにどの時代の自分かもよくわからなくなっているがな。」


ロレッソの言葉にティアは目を瞠る。


ロレッソはいた。ティアの時代に。確かに。


「ああ・・・お前がいる時代にいる私か?あれは私ではない。母が隠したもう一人の私だ。」

ロレッソの乾いた笑いがティアの耳に響く。


「あれは、私の双子の弟だ。生まれてすぐ隠された。以前アサが入れられていた牢に入れられていたんだ。私が時戻りの石で姿を消したせいで、母が弟に身代わりをさせたんだ。弟のいた地下牢はどこにあるか私にはわからない。だから姿を消せば母が建前上弟を表に出すと思った。」


それにしては、常識があった。

きちんと教育されている様子もある。


まるでティアの心を読んだかのようにロレッソが答えた。


「元々、勉強や教養は教えられていたそうだ。ただ、服装や体つきは私とは違った。それに、母は幻覚魔法の使い手を独自に教育して、自分の諜報機関を作っている。そこから、弟を好きに操れるようにしているんだろう。」


つまり。

幻覚魔法の魅了でロレッソの双子の弟を操っている、ということ。


「私は時戻りの石と術のお陰で好きな時代に時間はかかるが旅ができる。お前の両親を殺した人も知っている。」


ロレッソの言葉にティアは驚きを隠せない。



その後、ロレッソの紡ぐ言葉はティアに取って受け入れづらくとても辛いものであった。


呆然実質となったティアを何の感情も浮かばないロレッソの瞳が見下ろしていた。

「信じるか信じないかはお前しだいだ。私は見たままを言っただけ。このまま元の時代に戻れば、ことは全て終わっているはずだ。お前の・・・」


その後のロレッソの言葉はティアの中でとどまることはなかった。


信じていたもの。

愛していたもの。

全てが虚言で、全てが空想だったのか。

ティアは自分に刻まれた魔紋が光っても動くことはできなかった。


自分のいるはずの時代にいるマシアスが、こちらに戻すために呪文を唱えているのだろう。


ティアの周囲が光、目の前を見上げる。

ロレッソの悲しそうな瞳とぶつかった。


「“彼”には“彼”なりの理由があったんだろう。私はこのまま時の旅人となろう。必要があれば、未来も変える。禁忌とされ、自分に帰ってくるとしても・・・・」

その言葉を最後にロレッソとは二度と会うことはなかった。





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