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3話



瞬間移動だったのか、ティアは違う部屋へと連れてこられた。

ティアの口元を抑えていた手もゆっくりと離れる。


ティアは無表情のまま振り返る。


皇族に特有の金色の瞳がティアとぶつかる。


「こうして面と向かうのは久しぶりか、それとも・・・初めましてというべきかな?」


「・・・ロレッソ殿下・・・」


幾年ぶりに会う第3皇子。

背が伸び、あどけなさの残っていた顔だちもすっかり大人になっている。

茶色のパーマは少し伸びて、緩やかなウェーブに変化している。



なぜ、ここにロレッソがいるのか。

顔立ちや背丈を見ると、たぶん最近に近いロレッソ。



「フフ・・・相変わらずの無表情なのだな。」

ロレッソが先に口火を切った。


「・・・なぜここにいる、という顔だな。」

そう呟いて、ティアから少しだけ視線を右にずらした。


ティアの背後から足音が聞こえる。


「・・・これが、本当に私の弟子なのですか?」


ティアの背後に立ったのは、アサであった。


ティアは二人を見比べる。


確かに似ている。目の色と顔立ちがほぼアサであった。


「あなたと同じ時代からきているんですか?」

アサがロレッソのほうを見て聞く。


ロレッソは頷いた。

「そうだ。マシアスが彼女を過去に送ったのを知って、すぐに後を追ったが、私のほうが先に来てしまっていた。」




「一体・・・何を?」

ティアは何が起こっているのかわからず、思ったことをそのままロレッソに聞く。


「・・・ルアン・・・君がいなくなってからの話をしようか・・・それとも、君の出生の秘密から知る?それとも・・・もっと前の話からにするかい?」

ロレッソの金色の瞳は面白くなさそうな暗さをともす。









私は平民の友人であるルアンのお陰で、少しずつ皇子らしくなっていった。

臣下からも敬われることも増え、寄ってくる子女も高位貴族が増えてきた。


生まれた時から父に疎まれ、母に関心を持ってもらえず、注目を浴びたくていろんなことをしたら、宮廷の使用人たちにも煙たがられる存在となった。


ルアンやヴィクトリアたちと出会って、変わっていく自分を怖いと思いながらも、誇らしくもあった。


それまで関心などなかった父も、少しずつ声をかけてくれるようになった。


しかし、ヴィクトリアが長兄の剣に倒れた時、私は見てしまった。


醜く微笑む母を。


何がおかしいんだ。

息子の婚約者が死にそうなのだ。

それなのに、微笑んでいた。

ただ微笑んで見下ろしていた。事の顛末を。


皇帝である父ですら驚いた表情だったのに。


私は母に問い詰めた。

しかし、母は私を見ていなかった。恍惚とした表情でどこかを見ていた。


その表情を見たことがあった。


まだ小さいころ。

母が侍女を痛めつけていた時の表情。


侍女はただ、皇帝の命令で着替えを手伝っただけ。

けれど、母は皇帝に色目を使ったとして罰した。



それを理解したとき、私の背筋に悪寒が走った。




母である皇后は父を愛し、執着し、憎悪していた。

そして次兄であるジャクソンに同様の感情を抱いていた。


実の息子である私には関心も興味もなかった。



私は母の異常さが気になり、秘密裏に調べ始めた。

母の周囲ではよく令嬢や侍女が消える。

令嬢や侍女は必ずと言っていいほどに、ジャクソンや皇帝と何かしら繋がりのあった。


皇帝は気づいていなかったが、次兄は何となく気づいたのだろう。


自身の従妹以外には優しさを見せなくなり、怠惰な性格をより一層強くした。



何も知らない私は次兄を“無責任”と言っていた。

しかし、実際は無責任なのではなく、処世術なのだと知った。


そして、母の周囲を探ると“メイラ”と“アサ”という人間が浮上した。


メイラとはすぐに会えた。

彼女は母にそっくりの顔だちをしていた。


理由はわからないが、私が接触すると喜々として近づいてきた。

彼女は守秘義務はないのか、というくらい知りたいことを教えてくれた。



母は陛下を愛し、どうしても婚約者であったフィルリア様を堕としたかった。

しかし、陛下の寵愛と他貴族からの信頼は彼女のほうが上で、手が出せなかったそうだ。


そこで、母は当時の皇帝と皇后にお願いをした。

如何にフィルリアより優れ、未来の皇后として有益か、それを二人に訴えたそうだ。


そこで、皇帝から出された条件が当時の情報暗部の解散だった。


情報暗部は帝国のために他国からの情報を集める部署。

そして帝国を監視し、皇帝に圧力をかけれる唯一の部署であった。


秘密裏にされ、誰が統括しているかも知らされない。

代々統括者から統括者へと引き継がれるだけなのだそうだ。


母は、アジュート侯爵家の娘であったことから暗部の存在は周知していたが、調べるのには社会的地位があまりにも足りなかった。


そこで、目を付けたのが“幻覚魔法”を使える人。

宮廷にある禁書の中に、古代語で書かれた魔術書があった。

大昔それをみて、幻覚魔法について勉強をしたそうだ。


ただ母にはそれほどの魔力がなく、幻覚魔法が使えなかった。

母ができることといえば、知識を付けること。


そこで、自分の影として育てられ、家出をし、現在魔塔に預けられている双子の姉を思い出した。


すぐに連絡を取り、メイラと再会した。

メイラは双子の妹に会えたことが嬉しそうだったらしいが、母は何の感慨もなく、ただ目的を追行したそうだ。


母は、双子の姉に幻覚魔法の知識を授けた。

ある程度の幻覚魔法は使えたようだが、母が欲しい“魅了”までは使いこなせなかったそうだ。


少しして、母はあることに気付いた。

自分の“言葉”。


自分の言葉でいともたやすく人を操れることに気付いた。


そうして、母は平民のエリスを見つけた。

貴族たちからいじめを受け乍ら懸命に学院に通うエリス。


ある日、彼女がいじめられているのを見つけた母は物陰からずっと見ていたそうだ。


令嬢たちがエリスの前から消え、通りかかった男子生徒が四方から3人ほど集まり、エリスの言われるがままにいうことを聞いていたそうだ。


それから、母はエリスに毎日話しかけ初め、“親友”という立場を手に入れた。


エリスは平民でロマンチストでもあり、貴族の常識なども全く通用しない人だった反面、とても素直で操りやすそうだったそうだ。


そこで、エリスをたきつけ当時皇太子だった父に近づけさせた。


面白いくらいに父とフィルリア様は簡単に婚約破棄することとなった。


ここで母は掘り出し物を手に入れる。

フィルリア様を断罪するため、裏でいろいろと画策している際にサメイラにあった。

観察力が鋭く、頭の回転も速い、虐げられし公爵令嬢。


サメイラに能力値が高いのを母はすぐ気付いたそうだ。

サメイラに優しくし、守ることで、彼女の信頼を得ていったそうだ。


サメイラは母に尽くし、母はサメイラを守った。

そこで、母はサメイラに情報暗部について調べるよう頼んだ。




母は次なる行動をとるため、自分の側近を父の近くに侍らせ、避妊薬を飲ませ始めた。


父とフィルリアは仲を深めていったのだ。

母は、父と結婚するため、今度はエリスを操った。

言葉巧みに。


当時の皇帝はこともあろうか、娘ほどの年齢のエリスに惹かれていた。

そして、母はエリスに()()言った。


「ケルビンと結婚して、皇后になりたいなら、陛下を籠絡するしかないわよねえ・・・」


エリスはそれをうのみにし、皇帝の寝所にこっそりと入った。


そして身ごもったのが長兄ティオリアであった。



母はそれをネタに皇帝を脅迫し、父の婚約者に収まった。

父もエリスも、二人を上げ、つつましくする母の姿に安心し、何の疑いも持たなかったそうだ。


しかし、当時の皇后は疑った。

何かをしたのでは、と。


そして母は、皇后の愛人であったアサを捕らえ脅迫した。


そうして、母は()()()()形で父の婚約者に収まったそうだ。




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