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1話

恐れの存在でもあり、同僚みたいなものでもあり、ティアにいろんなことを教えてくれた恩師。メイラが獄中死して1週間。


メイラの死や裏切りに対して、ショックや寂しいという感情は浮かばなかった。

怒りは感じた。もちろん両親を死に追いやった人間の一人だから。

それでも、“何かを失った”という空虚感があった。




帝国には遺体を引き取りにわざわざマシアス=ウェイルブリークが、魔塔からやってきたのだ。魔塔の直接の上司でもあるから。


ティアは今まで、鏡での魔力通信で会ったことがある。しかし、初めて直で会うマシアスにとても緊張していたが、会った途端それどころではなかった。


「う゛~~~~~~~」

泣きだした。まさかの号泣。


泣き止むまで、ティアにしがみつくマシアスを鋭く冷徹な瞳で睨むアレクサンダーがいた。




数分して落ち着いたマシアスは、目を真っ赤にして後で話そう、と言い残し、メイアの遺体を確認しに行った。


マシアスを待つために、シェヘレザードに了解を得て中抜けさせてもらった。

アレクサンダーには「一緒にいられないから、必要最低限近づかないで。人3人分は離れてね」と言われた。


遠すぎない?


30分ほどで、ティアの待っている部屋にマシアスが来た。


ティアの座っている向かいの椅子に座り、侍女が入れてくれたお茶を飲んでいる。


漆黒の髪に漆黒の瞳。

肌は白く、美しい男性。

鏡越しでも十分きれいな人だったが、直で見るとかなりの美しさであった。




侍女たちが出ていくと同時にマシアスが口を開いた。

「まずは、君と会うのは実は初めてではないんだ。」


ティアは驚いて目を瞠った。

まさか、幻覚魔法の忘却をかけられた?完全に忘れている。高度な魔法だけれども、マシアスならば簡単にできるだろう。


「実はね、私の年齢は不詳だけれど、オールディーシャ学院に一時期通っていたんだ。魔塔が嫌になってね。その時・・・サメイラと仲良くなったんだよ。」


「母と・・・ですか?」


「ああ。帝国で皇后の元で侍女をすると聞いて、なぜか嫌な予感がしていたから、監視を付けたんだけどね。君のお母さんはまあすごい人だから。簡単に私の監視を破ったよ。」

ははは、と笑っている。


「君のお母さんとお父さんが国を出るとき、私は魔塔の規則を破って帝国人の記憶を一時的に消したんだ。異常なくらいすぐに指名手配がかかったからね。逃げられるように。とにかく無事に帝国を出れて、私が用意した家で君が生まれたんだ。もう逃げるときは臨月近かったからね。」


懐かしそうに微笑んでいる。


「それで、私は罪を償うために魔塔に戻って監禁罰則を受けた。その時分に魔塔を幻覚魔法で手中に収めたメイラが、僕をそのまま永久に出すことのないように魔紋を書き換えたみたいでね。監禁罰則中は簡単な魔法は使えても、自分の話をしてはいけないんだ。話しちゃうとすぐに監禁罰則が体中に浸潤して、死に至るからね。」


何でもないことのように言う。


「メイラは一体何を・・・」

ティアがそこで言葉を詰まらせた。

何故か言葉が続かなかった。


「一体何をしたかったか?」

マシアスが後に続いた。


「うーん・・・メイラは直接的にサメイラと知り合いではなかったけどね・・・たぶん、サメイラを尊敬していたし、嫉妬もしていたし、憎んでもいたんだろうね。メイラ自身は自分が皇后のために動いて、頼りにもされていると自負していただろうし。

それが、実際はサメイラが皇后の右腕になったからね。憎かったのかもね。」


嫉妬。

増悪。

敬愛。

メイラを動かしていたのはどの感情だったのか。

それとも全てだったのか。



マシアスは黙って聞くティアを見上げた。

そしてマシアスは真剣な表情になる。


「私はね、君が過去を忘れて幸せになってくれれば、と思っていた。君からすれば余計なお世話だけど。だが、生きて入れば両親の死を思い出すだろうし、理由を知りたいと思うのは当たり前。だから君に時戻りの石の使い方を教えに来たんだ。だが一つだけ約束してほしい。」


マシアスの口調も表情もいつに比べて厳しい。


「絶対に過去を変えてはならない。変えればその反動は君だけでなく、他の人にも行くだろう。過去を変えることで、命を長らえさせる人もいるが、奪われる人もいる。それを決める権利は君にはない。」


ティアは視線をそらすことなくマシアスを見つめ返す。


「いいね?」

マシアスの念押しの言葉にティアは頷いた。


わかっている。過去を変えてはならない。

わかっている・・・。





恐れの存在でもあり、同僚みたいなものでもあり、ティアにいろんなことを教えてくれた恩師。メイラが獄中死して1週間。


メイラの死や裏切りに対して、ショックや寂しいという感情は浮かばなかった。

怒りは感じた。もちろん両親を死に追いやった人間の一人だから。

それでも、“何かを失った”という空虚感があった。




帝国には遺体を引き取りにわざわざマシアス=ウェイルブリークが、魔塔からやってきたのだ。魔塔の直接の上司でもあるから。


ティアは今まで、鏡での魔力通信で会ったことがある。しかし、初めて直で会うマシアスにとても緊張していたが、会った途端それどころではなかった。


「う゛~~~~~~~」

泣きだした。まさかの号泣。


泣き止むまで、ティアにしがみつくマシアスを鋭く冷徹な瞳で睨むアレクサンダーがいた。




数分して落ち着いたマシアスは、目を真っ赤にして後で話そう、と言い残し、メイアの遺体を確認しに行った。


マシアスを待つために、シェヘレザードに了解を得て中抜けさせてもらった。

アレクサンダーには「一緒にいられないから、必要最低限近づかないで。人3人分は離れてね」と言われた。


遠すぎない?


30分ほどで、ティアの待っている部屋にマシアスが来た。


ティアの座っている向かいの椅子に座り、侍女が入れてくれたお茶を飲んでいる。


漆黒の髪に漆黒の瞳。

肌は白く、美しい男性。

鏡越しでも十分きれいな人だったが、直で見るとかなりの美しさであった。




侍女たちが出ていくと同時にマシアスが口を開いた。

「まずは、君と会うのは実は初めてではないんだ。」


ティアは驚いて目を瞠った。

まさか、幻覚魔法の忘却をかけられた?完全に忘れている。高度な魔法だけれども、マシアスならば簡単にできるだろう。


「実はね、私の年齢は不詳だけれど、オールディーシャ学院に一時期通っていたんだ。魔塔が嫌になってね。その時・・・サメイラと仲良くなったんだよ。」


「母と・・・ですか?」


「ああ。帝国で皇后の元で侍女をすると聞いて、なぜか嫌な予感がしていたから、監視を付けたんだけどね。君のお母さんはまあすごい人だから。簡単に私の監視を破ったよ。」

ははは、と笑っている。


「君のお母さんとお父さんが国を出るとき、私は魔塔の規則を破って帝国人の記憶を一時的に消したんだ。異常なくらいすぐに指名手配がかかったからね。逃げられるように。とにかく無事に帝国を出れて、私が用意した家で君が生まれたんだ。もう逃げるときは臨月近かったからね。」


懐かしそうに微笑んでいる。


「それで、私は罪を償うために魔塔に戻って監禁罰則を受けた。その時分に魔塔を幻覚魔法で手中に収めたメイラが、僕をそのまま永久に出すことのないように魔紋を書き換えたみたいでね。監禁罰則中は簡単な魔法は使えても、自分の話をしてはいけないんだ。話しちゃうとすぐに監禁罰則が体中に浸潤して、死に至るからね。」


何でもないことのように言う。


「メイラは一体何を・・・」

ティアがそこで言葉を詰まらせた。

何故か言葉が続かなかった。


「一体何をしたかったか?」

マシアスが後に続いた。


「うーん・・・メイラは直接的にサメイラと知り合いではなかったけどね・・・たぶん、サメイラを尊敬していたし、嫉妬もしていたし、憎んでもいたんだろうね。メイラ自身は自分が皇后のために動いて、頼りにもされていると自負していただろうし。

それが、実際はサメイラが皇后の右腕になったからね。憎かったのかもね。」


嫉妬。

増悪。

敬愛。

メイラを動かしていたのはどの感情だったのか。

それとも全てだったのか。



マシアスは黙って聞くティアを見上げた。

そしてマシアスは真剣な表情になる。


「私はね、君が過去を忘れて幸せになってくれれば、と思っていた。君からすれば余計なお世話だけど。だが、生きて入れば両親の死を思い出すだろうし、理由を知りたいと思うのは当たり前。だから君に時戻りの石の使い方を教えに来たんだ。だが一つだけ約束してほしい。」


マシアスの口調も表情もいつに比べて厳しい。


「絶対に過去を変えてはならない。変えればその反動は君だけでなく、他の人にも行くだろう。過去を変えることで、命を長らえさせる人もいるが、奪われる人もいる。それを決める権利は君にはない。」


ティアは視線をそらすことなくマシアスを見つめ返す。


「いいね?」

マシアスの念押しの言葉にティアは頷いた。


わかっている。過去を変えてはならない。

わかっている・・・。






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