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東方救嬢期 〜男の娘の幻想入り〜  作者: ASADE
第一章 幻想郷巡り。……にしたいです。(作者の願望)
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第44話 口喧嘩

 意味がないなんて言ってほしくなかったんだ。

 否定なんてしなくていいって、知って欲しかったんだ。

 ……そうた、そうなんだ。

 これはただの。

 これは僕の、自分勝手な祈り事だ。

 …………それだけのこと、だったんだ。

 同日の、虫の声だけがよく響くその深夜。

 僕が1人、物思いに耽りつつ窓の淵に体を預けて、外を眺めていた時のことだった。

 一羽の鳥が、僕の真隣に止まったのだ。そしてそれは、普通の鳥じゃなくて……


「……炎の、鳥?」


 炎の鳥。僕はそれに、強い覚えがあった。

 言わずもがな、あの人……藤原妹紅さんである。

 お昼の出来事を思い出す。そして同時に、あの時の会話を想起させた。


「……即断即決ってやつなのかなぁ……」


 頭に浮かんだその言葉たちを無意識に口にして、思わず見惚れてしまほどに美しいその仔を、なんとはなしに人差し指をゆいゆいして呼んでみた。

 だが呼んでから気づく。これ、絶対熱いやつだと言うことを。

 その仔は、なんの躊躇いもなく僕の願い通りに指に乗ってくれた。嬉しい反面、思考は鈍間に働いている。

 それに辿り着いたと同時に慌てて指を動かそうとして……その動きをぴたりと止めた。


「……あれ? 思ったより熱くない……?」


 そう、熱くなかったのだ。強いて言うなら温かい程度で、火傷なんて程遠かった。

 安堵で思わずため息をついて、反対の手の指でその仔の頭を撫でてみる。

 すると気持ちよかったのか、小さく鳴き声をあげて僕の手にすりすりし始めた。


「ふふ……可愛い」


 思わず漏れたその言葉は、誰に届くでもなく霧散する。

 その時だった。その仔は僕の手から離れて、目の前までやってきた。かと思えば一瞬だけ外に行って、また戻ってくる。そんな動きを繰り返した。

 これは……


「もしかして、ついてきてってこと……?」


 半信半疑ながら言葉をこぼすと、頭を勢いよく上下に振り、まるで合ってるとでも言いたげな動きをした。


「うーん……いいのかなぁ、ついて行っちゃって……ただでさえお昼でもあんなの書いたんだし、夜だともっとダメだよね……っいて」


 あーだこーだと考えていると掌を突かれた。

 正直痛かった。ぴえんである。

 でもなぁ……と、それでも結論が出せずにいたその時のことだった。

 その仔が後ろに回ったかと思えば、今度は首根っこを何度か突かれた後、咥えられる。

 そして……


「……………え?」


 気づけば僕の体は、小さく宙に浮いていた。

 力持ちだぁなぁ………………

 ……

 いやいやいやいやいや

 いくらなんでも力持ちがすぎるでしょどういうこと??

 思考が追いつかないとはまさにこのことなのだろう。数秒経っても、僕の頭はまだ状況を咀嚼している最中だった。

 まず口に入れてすらないのかもしれない。


「えっ、いや、えっと……一旦落ち着、こう?」


 この仔に言っても通じるのかな。通じそうではあるけど。

 だが予想していたこととは裏腹に、なぜかこの仔は僕がそう言うと地面に降ろしてくれた。

 あれ、もしかしてすごい話わかるのかな?

 ……なんて考えたのも束の間、その仔は僕の目の前まで来て、なんと顔芸を披露し始めた。

 何を言ってるのかわからねぇと思うが僕にもわからねぇ。

 なんかすごいキリッとしてる。今にでもあのセリフが出てきそうなほどのキリッとしてる。

 ……ん? あのセリフ?


「……だが、断る?」


 僕がほぼほぼ無意識にそう呟くと、その仔は嬉しそうに小さく鳴いた。

 嫌な予感が一周回ってしませんねこれは。

 そして気付けばその仔は、さっきと同じように僕の首根っこを掴んでいて。

 ……そして


「ちょちょっとまっ……てぇぇぇ!?!?」


 なんかえげつないスピードで部屋から出されました。窓開いててよかった本当。開いてなかったら絶対突き破ってたもん。

 ……これ降りた後顔デロンデロンになってるやつかなぁ……。

 ……聞きたいこともあったし別にいい気も……

 ……

 いいや決めました。絶対文句言っちゃる

 なんて、諦めからそんなことを考えてしまいながら。




「よぉ、来てくれたか、魅黒。……本当に来てくれたのか??」

「ぬぇぇぇ……すごい目にあった……」


 妹紅さんがなんか言ってる気がするが、今の僕にはそれを気にしてる余裕は無い。

 なんか顔の皮伸びてる気がする。赤くなってる気がする。普通に痛い。風圧ってすごい。

 ゼェハァゼェハァなんて擬音が合うような呼吸を肩で何度も何度も繰り返して、やっとのことその人の方へ目をやった。

 瞬間。なぜかは全くわからない。だけどどこか……嫌に、違和感が走った。


「……こんばんは、妹紅さん」

「…………いやぁ、ハハ。なんと言うかその……すまなかった」


 自分でもわかるレベルのジト目で妹紅さんを見ながらそう言うと、何故か妹紅さんが謝ってきた。

 なんでたろうね?

 不思議なこともあるんだぁねぇ(すっとぼけ)

 そんな時、先ほどまで僕をものすごいスピードで輸送(?)していたその仔が、ちょこんと僕の肩に乗ってきた。

 こんな可愛いのにあんな力あるんだなぁ……

 ……

 かわいいなちくしょう(錯乱)。

 悔しいから撫でちゃお


『……♪』


 あ、鳴いた。

 ……

 かわいいなちくしょう(再放送)

 なんかループ思考だって思ったら負けな気がするので何も考えずただただこの仔と戯れ続ける。


「……懐いてるな」


 そう言いながら、その仔のことを覗き込む。横目で見えるその表情は、どこかむず痒さを感じているように見えた。

 そんな言葉に小さく疑問が湧いて、浮かんだままに問いを投げた。


「もしかしてこの仔、人見知りだったりします?」

「あー……まぁ少なくとも、ここまで懐いてるところは、見たことないな」

「これって懐いてる判定でいいんですかね?」

「……いいんじゃないか?むしろそうじゃなかったらなんなんだよって感じだしな」


 人見知りって感じしないなぁ。逆に懐っこい気さえする。

 静かに視線をその仔にやって、ちょこちょこ頭を撫でてみると、小さく鳴いて目を細めた。

 ……

 可愛いなちくしょう(再再放送)


「可愛いですねぇ……♪」

「……餌付けでもしたか?」

「してないですよそんなこと!」


 人聞きの悪い……

 まぁ、それだけ人見知りってことなんだろうね。

 多分きっとメイビーおそらく


「……ほれほれ、こっちこい」

「あ……」


 妹紅さんが指をちょいちょいってやってその仔を呼ぶと、なんの迷いもなくすぐさまあっちに行ってしまった。

 ちょっと悲しい。


「……ありがとな」


 小さくそう呟くと、妹紅さんはその仔を自らの手のひらで優しく包み込んだ。

 すると一瞬炎が手の内から漏れ出るように盛ったかと思えば、気づけば、まるで手品の様にその仔の姿が消えていた。


「……へ?」


 そんな光景に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。目の前で、何が起こっているのかわからなかった。


「え、えっと……今何を……?」

「ん? あぁ。戻しただけだ」

「戻した、ですか……??」


 尚更意味がわからなかった。


「……ま、とりあえずこっち座れよ。それ含め、これから話すから」


 そう言いながら、妹紅さんは自分が座っている木の幹の隣をぽんぽんと叩いた。

 僕はそれに特に深く考えることなく従って、そこに腰を下ろす。そして、座った後に気がついた。

 ……これ、めちゃくちゃ近いのでは?

 なんていう、そんな事実に。

 これ思ったより恥ずかしいな??

 さぁちゃんと話せるかどうか怪しくなってきましたどうしようマジで。どうしようもないんですけどね!!

 それから、風だけが鳴く沈黙が訪れる。

 その風は僕の体を沿うように流れ、微かに髪飾りを持ち上げた。


「……魅黒」


 名前を呼ばれて、思わず体が小さく震える。

 ゆっくり視線をそちらにやると、彼女は膝元で手を組み、視線をそこに落としていた。

 それを見て、その声を聞いて。ようやくこれから話されるコト、その重要さが分かった気がした。

 ……だから。


「……下で、大丈夫ですよ」

「! ……わかった。……藍奈」


 彼女は僕の名を、再度口にした。

 力強く。されど先ほどよりも確実に、柔らかく。

 場違いかもしれないけれど。この人に初めて名前を呼んでもらえて、言い表し用もなく、嬉しく思った。


「……これからする話は、どれだけ長くなるか、わからない。……それでも———」

「聞きますよ」

「!」

「……あなたのことを知りたくて、僕は今ここにいるんですから」


 実際すぐにあそこに戻る、なんてことを僕はしていない。これは小さくとも、確かな裏付けになることだろう。

 それからまた訪れた僅かな沈黙を置き、妹紅さんは、その口を小さく開いた。


「……多分、お前のことだ。気付いてるんだと思うが……私は所謂、不死鳥。フェニックスだ。……正確にはそうなった、だが」


 彼女も何から話していいのか、あまりわかっていないのだろう。時たま言葉を詰まらせつつ、微かな身振り手振りと表情で、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「もうほとんど、その意味がなくなってきてはいるが……あぁいや、これをいうのは後……だな。まず、なんでお前と……藍奈と、話をしたがってたのか、とかからか」


 思考がまとまったのであろう。妹紅さんは自分に言い聞かせるように小さくうんと頷いて、こちらに向き直った。


「私が、最初のスペルカードを切った時。藍奈が、最後のスペルカードを切った時。……そのときのこと、覚えてるか?」

「……えぇ、もちろんです。状態が状態であったとはいえども、あんなの、忘れたくても忘れられないですよ」


 そうだ。本当に、本当によく覚えている。

 ……言われてからあの時のことをざっと振り返ってみて、改めて、今こうしてられることが奇跡のように感じられた。


「……あの時に、お前の声を、聞いた気がしたんだ」

「……声、ですか?」


 思ってもいなかった言葉に、思わず鸚鵡返しをしてしまう。


「あぁ。……ただの聞き間違え、って線もあるが……確実に、お前の声だった。それをあの時、確信したんだ」


 あの時……というのは、多分今日の昼のことだろう。

 実際に……初めて“彼女”と対面をした、あの時のこと。


「だから、呼んだんだ。あの言葉の、真偽を知りたくて。あの言葉の、真意を知りたくて」


 だから、呼んだんだ。そう言って妹紅さんは、僕の目をじっと見据えてきた。

 曇りのない、真っ直ぐで静かな、鋭い眼光。

 ただただひたすらに吸い込まれそうだと。そう思った。


「……結論から、言いましょうか」


 僕も同じように、彼女の瞳を見つめる。

 なんかいきなり鼻頭を見たら相手には目が合ってるって思われるって話を思い出した。唐突だね。やらないけど。


「僕は、そのようなことを“口にしては”いません」

「っ……そう、か」


 すると彼女はわずかに目尻を落とし、悲しそうな顔をした。


「……なんて言っていたか、教えてもらっても良いですか?」


 僕はポツリと浮かんだ荒唐無稽な思考の下、そんな言葉を並べた。

 漠然と辛いだろうということしかわからない僕には、聞いて良いのかわからなかったけれど。


「救わせてくれ。少なくとも私は、そう聞こえた」

「……やっぱり」


 その言葉を聞いて、無意識にそんな言葉が漏れた。多分、彼女にこの言葉は届いていない。

 僕は切り株から弾かれるように立ち上がって、1歩、2歩と歩みを進めてから彼女に向き直る。

 彼女の僕を見据える瞳は、少しの驚きと微かな落胆をはらんでいた。


「やっぱり僕は、そんなことを口にしてはいません」

「……そう———」

「ただ」


 僕はその言葉を遮るようにして、強引にその言葉を続けた。


「僕は、そう“思って”いました」

「!!」


 胸に手を当て、想起する。


「そして僕はそれを、“決意”と呼んでいた」


 言葉にしてはいなかった。これは確かなことだった。

 だけどその言葉は。確かに僕自身の言葉であることは直感で理解した。……これだけは、間違いなかった。

 なぜ具象化されているのか、まずなんで彼女に届いたのかはわからない。

 ……本当に謎は、深まるばかりである。

 

「……じゃあ」

「なんでそんなことを思ったのか、ですか?」

「いやっ…………あぁ」


 ……この反応的に、ニブイチを外してしまったみたいだ。

 ちょっと悔しい。

 だが、その問いが飛んでくることも一応予想はできていた。順序が違っただけなのだ。決して言い訳などではない。

 決して。

 ……だけど


「…………えっと……改めて言われると言語化するのむずいですね……」


 まぁ言われたわけじゃないんだけどね。

 ……あれ?予想外した挙句返答に困ってるって……めちゃダサくない?

 ……

 うわ泣きそう。

 うーんうーんうわーんうーんなんて唸りながら考えて、ようやく一つの答えを出した。


「僕は、怖かったんだと思います」

「……は?」


 彼女から素っ頓狂な声が漏れた。

 僕はできるだけ言葉を選びつつ、さらに言葉を重ねていく。


「あの時のあなたの顔を見たら、なぜか……言い表しないほどの、恐怖を感じたんです」


 そのとき、彼女は確かに、ほんの小さな、息をついた。


「………………それはそれでちょっと」

「……?」


 ……うん? あれ、この反応ってどういうこと?

 予想と違いすぎて本当にわからないんだけど

 ……あれ? もしかして……


「……あ! あーいやいや! あのえと、そっちの意味じゃなくて……えっと……」


 しゅんとした顔になりぼそりと呟くようにそう言ったのを見て、やっと失言に気がついた。

 言葉が咄嗟に出てこなくてあたふたと手を振りまくっていたその時、彼女は吹き出すように小さく笑い始めた。

 僕はそれを聞いて、思わずピタリと動きを止めた。

 数秒間、くすくすとした笑いは続く。


「ふふ……冗談だから、大丈夫だ」


 目が点になる、というのは多分今の僕の状態のことを指すのだろう。

 感情と思考の急降下で、思わず何も考えずに彼女のことを見つめた。小さく舌を出して、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。

 色々感情が混ざり合って形容できないものとなり、無意識に膨らんだ頬を無理やり引っ込めてから、揶揄われたこと対する恥ずかしさを消す為とまとまらない思考のまま言葉を続けた。

 ……いや本当にこんな状況ではやめてほしいものである。空気は柔らかくなったけど……心臓に……


「え、えっとですね……要するに、“僕が”ではなく、“あなたが”。そんなふうに見えた。そんな風に感じていた。……ってことです」


 ……うん、多分これでもう誤解は生まれないはず。予測でしかないことは置いておいて。

 今思うとさっきの言い方そう思ってくださいよって言ってる並の言い方でしたね。……反応的にわかってそうだったっていうのはさておいて。


「……私が……ね」


 何か物思いに耽るようにゆっくりとその言葉を呟いた。

 左足を立て、そこに左肘をつき、考え込むように左手に顔を乗せている。

 その表情が、その姿が。言いようもなく、綺麗に思えた。


「……ハハ」


 そんな姿に見惚れてしまっていた時のことだった。彼女がいきなり、小さな笑い声を上げた。


「お前は、本当にお前なんだな」

「? それって……」

「紛れもなく、いい意味でだよ」


 ……仕返ししようと思ったのに先を越されてしまった。

 ぴえん


「慧音から、先に話を聞いていたんだ。新しい外来人のことを……お前のことを、な」

「……あの人から」


 あの人が僕をどんなふうに言ったのか、ほんの少しだけ気になった。

 あの人のことだし、悪く言われては……ない……よね……?


「そんときに、性格とか、諸々教えてもらってた。そんで、こうも言われてたんだ。もしかしたら、そいつが、私の力になってくれるかもしれない……ってな」

「??」


 何に対して、なのか。本当に見当もつかなかった。


「何言ってんだこいつ、って顔してるな?」

「……ソンナコトオモッテナイデスヨ」

「私も、はじめて言われた時は、そんな感じだったさ。はぐらかさなくてもいい。もっと言うと、私を知らない人間が、私の何を判るんだって思った。思ってた」

「……」

「だけど今なら、慧音が言ってたことの、意味がわかる。……やっぱりあいつに、人を見る目にゃ勝てねぇな」


 独白のようなその言葉の中に混ざっている微かな喜びが、言いようもなく嬉しくて。

 ほんの少しだけ、頬が緩んだ。


「……っと、蛇足しすぎたな」


 そんな言葉が小さく聞こえて、咳払いが一つ挟まれた。

 今度は足を幹から放り出して、人差し指をピンと立てた。


「あいついたろ? お前をここまで運んできた」


 すぐに頭の中にあの仔の姿が浮かんできて、小さく頷く。


「あいつは……簡単に言えば、私の能力の化身みたいなもんなんだ」

「化身……ですか」

「あぁ。まぁそこはややこしい気もするから、私の分身って認識で大丈夫だ」


 それを聞いて、思いの外すんなりとそれを飲み込めた。

 あの見た目からそんな感じであろうなとは思っていたから。


「だから、わたしの意思でいつでも表に出せるし、感情も多少は共有してる。ま、思いのままにできる、ってわけじゃないんだけどな。動物よろしく、気ままなやつだよ」

「はえ〜……そんなことできるんですね……」


 なんか思ったよりずっと凄くて言葉が出なくなっちゃった。

 感情共有ねぇ……すっごい(語彙力)

 ……

 ん?あれ?分身みたいなものってことは……僕、約妹紅さんを撫でちゃったってことになるの?

 ……??

 やっばい意識したらめためた恥ずかしくなってきた。


「……なにも、言うな」


 僕が1人心の中で悶えてると、妹紅さんがふとそんな言葉をついた。横目で小さくそちらを見ると、手口を手で覆って、ほんの少し顔を逸らしていた。

 恥ずかしがってるのか、笑っているのか、それとも別の何かなのか。僕にはそれがわからないけれど、なんとはなしに笑っているような気がした。

 そんな事を考えていると、妹紅さんはひとつ大きな咳払いをして、話を戻してくれた。

 ありがとう妹紅さん。いやホント。


「あー……そうだな、次は…………私、お前にあの声のこと聞いたか?」

「……? はい、聞かれましたよ? それがどうしたんですかいきなり」


 あれ?これもしかしてまた別の話のやつ?

 

「ほら、聞きたいことが2つある、的なこと言ったろ?でもまだ、一つしか聞けてなかったからな」

「うーん……? ……あ、確かにそうですね……」


 すごく自然(?)に話が移ったから歌うに行ったもんだと思ってた……

 これを蛇足って言うでしょうね。多分2乗されてた(??)


「えーっと、確か……どうやったのか、的なことでしたっけ」

「あぁ、そうだが、直接まだ私言ってないぞ」

「そうでしたっけ?」


 なんかそう言われたらそんな気も……あれ? 記憶力……

 いつも通りだね。ヨシっ!(涙目)


「……それはですね……」


 なんとはなしに迫力を持たせて、躊躇うようにそう言った。同時に目も瞑って、思考も回す。

 謎に固唾を飲み込むような音が聞こえた気がした。

 多分気のせい


「実は……」


 妹紅さんと言えばまだかまだかと言うふうな表情と動きで、僕のことを見つめてきている。

 そうして僕は、早口でその答えを口にした。


「僕にもわかりません」

「お前そろそろまじでしばくぞ」

「ごめんなさい」


 とってもこw……とっても圧な圧だと思いました まる

 今思ったけどこれだいぶ失礼だな?

 ……

 無かったことにしましょうそうしましょう

 これなんか笑ってるみたいですね。草じゃないだけマシかな?

 それはそれとしてとっても失礼だと思う(他人事)


「それが偶然ってことはないってことは僕でもわかるんですけど……いかんせん本気の方でなんでってとこがわからないんですよね……」

「……本当は?」

「本当ですって!これはマジのガチでマジなやつです!僕にだってそんな力ないはずですし!」


 ジト目やめてくださいお願いします


「……だが、そうだとしたら……」

「……上手くいきすぎてる」

「……あぁ」


 考えても仕方ない、と言うことはお互いわかっているはずだ。だけど、それでも考えずにはいられなかった。時間を無駄にするだけとわかっていながらも。


「ふと思ったんだが、それって、お前の能力のせいってことないか?」

「…………能力、ですか」

「あぁ。お前のがそんな———」

「……」

「———……わからないのか?」


 僕が何をいうか迷っていると、言葉を切って,そんな言葉が投げかけられた。

 少し躊躇ってしまいながらも、そして悟られたことに微かな不甲斐なさを感じながら、僕はそれにゆっくり小さく首肯した。


「そうか……」

「すみません」

「お前が謝ることじゃないさ。逆に、謝るのは私の方だ」

「僕は マ ジ で気にしてないんで大丈夫ですよ」

「……そ、そうか」


 ……ん? あれ? これちょっと引かれてない?

 ……気のせいだよね? 勢い強すぎたとかじゃないですよねこれ。

 ……

 うわっなんかいきなり恥ずかしくなってきたんですけどやめて欲しいんですけど。

 ……とりあえず手を合わせておきましょうか

 なむなむ……


「……何してんだ?」

「いやほんとにほんとなんでもないです」


 もうこの言葉だけでわかった謎に体動いてんの。

 ……ピャァァァァ

 もう恥ずかしさ超越しちゃった気がする。恥か死ししてないだけ多分マシ。手遅れかもだけど。

 ……そんなことよりも!!

 今は!! 能力についてのことですよ!!

 そう心の中で叫んで無理矢理に思考を戻そうとしながら,一つ大きく息を吐いた。

 ……

 “能力”

 能力なんかについては、文字通り思考の端にすら存在していなかった。考えなくてもいいと思っていたのだ。

 知らないことは恥じゃないとは言うけれど、申し訳ない気持ちはまた別だ。

 確かに何度か、どのタイミングかはあんまり覚えてないけど話には出ていた気がする。……なんか気づいたら流れてた気もする。多分そのせいであんまり深く考えてなかったんだねきっと。

 ……もしも僕に能力ができてるのなら、どんなものなのかな。思ってたより考え出したら気になってきた。

 確か……ここに来たタイミングで能力が宿ることがあるなんて話を、霊夢さんか紫さんが言っていたような気がする。それが覚えている限り、一番最初の時だ。

 もしも本当にその通りなら、僕はこれまでに能力を使っていたのだろうか。自覚はないが、もしかしたら……

 うん、こう言うのが淡い希望って言うんだろうね。うわこいつ悲しって思った人は反省してください。

 ……そう言えば関係ないけど紫さんと最近会えてないなぁ……最初の時以来だよね多分。……なんか考えてたらちょっぴり寂しくなってきちゃった。考えんのやめよやめよ。蛇足もいいところだし。

 ふっと息を吐き、一瞬間だけ目を瞑る。なんとかしてその空気と話題、そして思考を変えるために思考すると、一つ疑問が浮かび上がる。

 断りを入れて、それを投げかけた。


「妹紅さんはさっき、“そうなった”と言っていましたけど……その経緯とか、教えてもらってもいいですか?」


 本当に単純な疑問だった。ただただ一縷に、気になっただけ。

 だから答えられなくてもほんのちょっぴりがっかりするくらいですむものだった。

 だけど、妹紅さんはその話を少しのためらいを含みながらも話してくれた。

 嬉しかった。微かにどこか、受け入れられたような気がして。

 先ほどにもまして静けさを放つこの空間に、まるで水滴を垂らされた澱みのなかった水面の如く、その声が響き渡り続け、残響した。

 その間、静かな声色でたびたび言葉を詰まらせ、目線を右往左往させていた彼女のことが、嫌に印象に刻まれた。

 ……まさか……ね。


 ……結論から言えばそれは、あの話とリンクしていた。

 あの話とはもちろん竹取物語のことである。

 端的に言ってしまえばただ一言、“腹いせ”だという。

 五つの難題を受けた5人の内の1人が彼女の肉親であり、難題とも称されるそれを彼、ひいては5人何れもが手に入れられるわけもなく恥をかいたから。

 そういことが理由であるらしい。

 もっと簡単に言うと嫌がらせの一環だったというのだ。今ではそれは、殆ど逆恨みと化しているとも言っていた。

 それを話し終えてから、彼女は小さく、弱々しく、くぐもった声色で“もう少し早く知っていれば”と呟いたのが聞こえた。裏付けはないが、どこかから湧き出る半透明な自信ならあった。

 それについて、考える暇もなく答えが自然に導かれ自分勝手に納得をする。

 そうだ。腹いせ、基嫌がらせなんて言っても。言い方を考えなければただの勘違いなのだ。

 なぜならその薬が手に入るところに置かれることになったのは、その薬を処分するためなのだから。

 山道、何人もの大人が頂上に向かい進んでいた時に不意打ちで現れて、ひったくるようにそれを奪い、見せつけるように飲み込んだと言う。遅かれ早かれどちらにせよ、手放されるものだったとは露ほども知らずに。

 “意味がなくなった”と言っていたのは多分、そのせいなんだと思う。飲んだ後からその事実を知ったのだろうから。

 ただ、予期せぬ者に渡ったという結果のみを見れば妹紅さんの思惑は完遂しているとも言えるだろう。意味がないわけじゃない。どちらかと言えば迦具夜姫ではなく燃やそうとしていた側が一番ダメージを受けたとは思う。だから攻撃をする対象が違った、ということなのだ。それも迦具夜姫……基輝夜さんの思いの丈によって話は変わるが……

 ……まぁそこはもはや、考え方でどうにでもなるとしか思えなかった。

 ちなみにカグヤって名前微妙に間違ってるって指摘された時めちゃくちゃ申し訳なくなりました言わずもがな。言葉にできないレベルでグウェェェってなりました。いやほんとマジでマジ。

 ……なんて、考えれば考えるだけ沼に浸かってしまいそうだ。そう思って頭を振って思考を捨てた。なんかこんがらがってきたし。

 だがそうしても、その話を聞いてからでは、かける言葉はそう簡単に見つかるものではなかった。

 沈黙が流れる。横目で彼女をみてみると、物思いに耽るような表情をして、足を小さくばたつかせながら月を見上げていた。自然と僕も、同じように視線が空へと移ろいだ。

 ……その時の僕はどこか、まるで小骨が喉に刺さったときのような、僅かで微かな、けれど確かな違和感を感じていた。

 まだ、何か……大切なことを隠されているような、そんな感じがした。

 ……

 今日こそは本物の、綺麗な満月であった。

 淡い光の輪で囲われて、薄雲がそれもろとも優しく包み込んでいた。揺らぐことなく、無くなることも隠れることなく。確かにそこで、辺り一帯を照らしていた。

 確かこの輪のことを、月の(かさ)というんだっけ。雲の方は特筆すべき名前はなく、そのまま“薄雲”という名前だけだったと思う。なんてことを考えている最中、気づけば僕は、当然の如くそれに目を奪われてしまっていた。

 ……“月に行きたい”。

 どこかで聞き覚えのあるような、そんな荒唐無稽とも思ってしまうような願いがふと浮かぶ。

 そう思うことは、多くの人が経験することだとも聞いたことがある。幼い頃、一度は興味の対象になると。

 僕はそんなこと一度も考えたことなどなかったけれど。

 身体に這うように流れる風のせいで、淡く照らしてくる月のせいで、静寂を許さない数多の()のせいで、思考が淀み、霞んでいく。

 ……そう思うのは何故なのだろうか。今度は小さな疑問がぽつりと浮かぶ。

 どんな場所なのか知りたいからなのだろうか。もうほぼほぼ周知の事実と化しているのにも関わらず。

 うさぎがいるのは本当なのか知りたいからなのだろうか。多分いないのに。地域によって月にいる動物が違っているという事実が、小さく頭の中でちらついた。

 未知の地に足をつけてみたいからなのだろうか。人間はとっくに月に行っていて未知の地でもなんでもないのに。なのにそれでも行きたくなるものなのだろうか? 自分にとってと言われれば何も言えないけれど。

 月の裏側がどんなふうになっているのか知りたいからなのだろうか。それは、本当にいけると思っているのだろうか。今の今まで行けていないことに、正当な理由があることを度外視にしているのだろうか。

 それとも単に、月に行ったという肩書が欲しいだけなのだろうか。これが一番単純で、一番らしい気がする。

 ……考えれば考えるだけ変化するその容貌に、少し、眩暈がしてしまいそうだった。

 ……

 これがもしも、もしかしたら。本当に、嘘偽りのない本心からの僕自身の願いなのだとしたら。

 その理由を知れるときは、来てくれるのだろうか。

 ………………


 “来ない”。

 何もわからない、何も知らない、何も知ることができないけれど。

 これ……これだけは確信をもって、自信を持って言うことができた。

 なぜ? どうして、なんで? ……だって。

 だって、だって、だってだってだってだってだって。

 だって、この願いは———


 

 ———“自分”の願いじゃないのだから。



 “夢という名のレッテル”なんていう意味のわからない言葉が、シャボン玉のように浮かんで消えた。

 眩暈がして,胸が痛いと思った。

 形の定まらない気持ち悪さが増した気がした。

 何もかもに、ふわふわとした感覚があった。

 考えがまとまらなかった。何も思い出せなくて、何も思い出そうと思えなかった。

 考えることが面倒くさく感じた。

 ダメだなって。そう感じた。


「……僕は」


 意図せず口から、言葉が落ちる。


「僕は、あなたがすごいと思います」


 何を言いたいのか、言っていいことなのか僕自身ですらわからない。

 ……だけど。僕の直感が言っていた。

 このまま最後までこの言葉を続けたほうがいいと。たとえそれが、ダメなことであったとしても。

 怪訝そうな表情をする妹紅さんを横目に捉えながら、そんなことを思う。


「そう思えることが。そう思って、行動に移せることが。誰かを想って、できることが」


 ……多分、この話をした妹紅さんにとってこんな言葉は耳障りなもの以外の何者でもないと思う。不快そうな彼女のことを見て感じて、今やっとそう思った。

 だって妹紅さんはこの話をしたかっただけであって、意見や感想を求めてるわけじゃないと思うから。

 だけど、それでも……僕はそうだとしても、どうしても……自重をするように笑って話す彼女のことを、あの時にあんな言葉をこぼした彼女のことを、“嘘をついている”ような素ぶりばかりをしていた彼女のことを、ほんの少しでも見せようとしてくれた彼女のことを。

 何もしないで見過ごすことなんてできなかった。絶対にしたくなかった。それになにより……そんな言い方をする彼女自身にずっと濃く、強く……腹が立って、イラついた。

 だから、と、心の中で謝罪の言葉を彼女に投げて、否定の言葉が投げられる前に思いの丈を口にする。


「もしも僕が同じような状況下に置かれたら、そんなことしようとも思えないと思います」

「……」

「それに、それは全部が全部間違いなんかじゃないと思うんです」


 空気が重くなるのを、肌で感じた。

 ……自覚しろ。

 僕が今から並べる言葉のその重さ。

 そして、持て。

 ……彼女の逆鱗に触れる、その覚悟を。

 彼女を“肯定”する、その覚悟を。

 

「もしも本当に間違いなのであれば、そんなことは“していない”」

「……何が言いたい?」

「腹いせなんて言葉であなたのそれを表してほしくない。それだけですよ。……だって、あなたのその行動は、それだけのせいじゃないんだろうから」

「……!」


 瞬間、首元に手が添えられた。つい先程まで隣に座っていた彼女はいつの間にか目前に現れ、両手で首を掴まれていたのだ。

 ……多分僕は、今この瞬間に……この人に心の底から失望され、後悔されたんだと思う。


「おまえは……!!」

「……僕には何もわからないです」


 ゆっくりと言葉を吐いていく。同時に、僕はその手に自分の手を被せ、目を逸らさないように、逸らしてしまわないようにと頭の中で反芻させつつ、静かに彼女の瞳を見据えた。

 添えられただけでまだ握られていないのか、苦しさは少なくて。

 息を吸って、息を吐いた。


「あなたの“その傷”がなぜ消えていないのかも」


 ハッとして、弾かれたようにその手を離して、いつの間にか捲れていた服の袖を慌てたように元に戻す。

 今までずっと気づけなかった、その腕の傷。だがずっと、確かにそこにあったんだと思う。


「あなたの首の索状痕(さくじょうこん)が、どうしてずっとあるのかも」


 今度は首を腕で覆うように隠した。そこには明らかに何かに裂かれたような痕があった。


「あなたの言った“お前たち”がどう言う存在なのかも,どうして恨むようになったのかも」

「……おまえに……」

「不死になる前、不死になった後。あなたにどんなことが起こったのかも」


 僕がそう告げたその刹那、彼女が急激に距離を詰めてきた。至近距離まで数瞬間もかからないうちに近づかれ、両手で胸ぐらを掴まれて、無理やりに立たされる。グイッと顔の近くまで引っ張り上げられると同時に、その眼が、僕のことを射抜いてきた。

 その目は深く、濁っていた。


「……お前に何がわかるってんだよ!!!」


 そんな言葉が、この竹林に轟いた。

 小さく俯きつつも吠えるように叫んだ彼女の顔には、憎しみと悲しみが混じったような表情で、涙が一筋流れていた。


「……僕には、なんにもわかりません」

「じゃあ!! 口出してくんのは、知りましねぇで勝手にものを語るのはやめろ!!! やめてくれよ!!!!」


 肩を震わせ、大きな呼吸を繰り返しながら、彼女は僕を鋭い眼光で射抜いてくる。

 気迫で押されて怖気付いてしまいそうだった。

 いわば、雄叫び。それは誰かを萎縮させるには十分すぎるものだと思う。僕も一瞬、怯んでしまいそうになった。

 ……だけど。

 僕は、これを言い切らなければならない。

 この人を敵に回してでも、どれだけ深く嫌われて、恨まれたとしても、僕は……本当の意味で、認めてほしいと思ったから。

 大事にして欲しいと思ったから。

 ……彼女自身(真念)という、唯一無二の存在を。


「でも!!」

「!」

「あなたのその葛藤も、あなたのその決断も、あなたのその覚悟も!何もかも知ることができてなくても!!」


 大きく、息を吸い込んだ。


「僕は、あなたの願いを知っています!!」


 張り上げるように、そう叫んだ。


「あなたは強い、それを今までの話を聞いて理解した。あなたは優しい、それを今までのことで確信した。そしてそれが、“あなた”であることを学んだ」


 違うかもしれない。

 間違っているかもしれない。

 擦りすらしてなくて、嗤われてしまうかもしれない。

 でも、どうしても僕は、こうとしか思えなかったから。

 ……だから、否定してほしくなかったんだ。


「あなた自身が言っていた、負けられないと。あなた自身が言っていた、助けてと」

「それがどうしたってんだ……!!」

「……それは、あなたの“真念”だ」

「!!」

「それはあなたがあなたであるための、数の少ない存在証明のひとつだ! そんな願いを、そんな想いを!! あなた自身が!! 踏みにじるような真似しないでください!!!」


 だって。


「それを突き通せるのは、それを完全に証明できるのは、あなた以外にいないんです」


 ……あぁ。

 そうだ。そう言うことだ、そう言うことだったんだ。

 言葉にできて。

 やっと初めて……繋がった。


「……」

「……その傷、あなたが自分でつけたんですよね? わかりますよ、僕がこの目で見ましたから」

「っ!! お前、どこで……」

「永遠亭のある一室に吊るされていた“ソレ”がありました。わかりますよね、それはあなたが一番知っているはずなんですから」


 狼狽するように、彼女は一歩、また一歩と後ずさっていく。

 そうだ。ここに来るまでは確信を持てていなかった、この人のことをあまりにも知れていなかったから。

 だけど今なら、自信を持って言うことができる。できてしまう。

 あれは、あの部屋で吊るされていた、あの“藁人形”は———この人自身がこの人自身を、呪うためのものなのだと。


「なんであそこにあったのかはわかりません。あなたが故意にあそこにやったのか、何者かに持って行かれたのか。そんなの興味すらありません。……ただそれをあなた自身が作り出す言うことは、自分の存在を否定することと同義なんです」


 いつのまにか目の前が霞んでいた。僕にはそんな資格はないのに、涙が頬を伝って地面に落ちた。


「少なからずあなたも、今を恨んでいない節があると思うんです。そうでなければあなたが誰かと話すことはないと思うから。そうでなければあなたが僕と話すことなんてないと思うから」

「……」

「だから、あなたが自分に見切りをつけるなんてことしないでことしないでください。誰かに何を、どんなことを言われたって気にしなければいいんです。それをあなたはできるし他でもないあなた自身が望んでいることにつながるんですから」

「……違うと、いったら?」

「僕がそれを真っ向から否定して見せます。だってそうでなきゃ、あんなこと言うはずがないんですから」


 もしもここが幻想郷という場所でなければ、笑い話で済んだ可能性は少なからず存在した。けれど、ここは違う。何があってもおかしくなくて、今の状況は何も不思議なことはないと言うことなのだ。


「あれは、遠目で見ただけでも相当ボロボロになっていました。首に紐が食い込んで、ちぎれてしまいそうだったとさえ、今は思います」

「……」

「一つ聞きます。あなたはなぜ、あんなことをしたんですか?」

「……答えるわk」

「それは、あなたが自分を許していないからなんですよね」

「!!」


 “今を恨んでいない”。ここは僕の勝手な妄想で、希望的観測に過ぎない。だけどもし否定されたらどうするかなんてことを、咄嗟に考える余裕はなかった。


「嘘をつかずに、教えてください」

「……なんでそんなことが、言えるんだ」


 絞り出すように紡がれたその言葉に、僕は小さく沈黙を返す。


「どうして、そうだとわかるんだ」


 心の底から苦しそうな顔をして、心の底から悲しそうな顔をして、縋るような声色で、僕にそう問いかけてくる。

 その言葉に、その問いに。僕は正直明確な答えを出せていなかった。

 正直自分ですら、なんなのかわかっていない。

 だけど……このふと浮かんだこの言葉が、1番ハマる形だと思った。

 だから、僕は静かに言葉を返す。届いてくれと、祈りを込めて。


「わかるんじゃないんです。“わかりたい”から、こう思えてるんです」

「!」

「僕は、あなたのことを知りたいって。……救けたい(受け入れたい)って思ってるんです」

「……っ」

「あなたがどう思っていたのだとしても、あなたがどれほどそれで傷ついて、泣いてしまっていたんだとしても。……僕はそれを全部受け止めてみせますから。……だから」


 僕はそう言いながら、彼女のその小さく白い手を取って、ゆっくりと、ゆっくりと。


「僕にあなたを、教えてください。不死鳥(フェニックス)なんてものじゃない。あなたという、たった1人の人間のことを」


 “彼女”に対して、そう告げた。


「……ごめん……ごめん、こんなに……っ怖がりな、私で……ごめ、ん……」


 瞬間。彼女の涙腺は、崩壊した。

 膝から崩れ落ちて、パタリと地面に両足をつけた。掴んだその手に、縋り付くように顔を擦り付ける。

 一筋の涙がゆっくりと手を伝ったかと思えば、大きなそれが一つ、また一つと落ち始め、最後には両手で掴み返してきて、顔を埋めるようにして、小さな嗚咽を漏らし始めた。

 彼女のそれに僕は、底の見えない後悔と、天井の見えない懺悔の情を感じた。


「私は……私は、ほんとうは……ほんとうは……———」


 ゆっくりと、嗚咽の治らぬその声で、その言葉たちが静かにこの場に木霊する。

 その話は、先ほどされた話とは180度違った内容のものだった。

 まず、前提が間違っていた。

 彼女は生まれた時から白い髪で、ありえないほどに野生的で。女であることも合わさって忌子として扱われていたと言った。物心がつく時にはすでに、地下にある牢屋で生きながらえていたと。

 日毎夜毎(ひごとやごと)に、お前は地獄の遣いだなどと、そんなことを数えるのが億劫になるほどの人々から言われていたらしい。

 ただある日、そんな生活は一変したそうだ。 

 だがそれはあくまで生活であり、対応ではなかった。

 その理由。それは、あの五つの難題にあった。

 彼女は藤原家当時当主……彼女の実の父親から、それを単独で探し出しここに持ち帰って来いという命を受けたからだった。出来るわけないとわかっていたはずなのに、そうしたことから、もうその本当の目的は見え透けているように感じた。

 そこからは早かったという。それを告げられたその日じゅうに今までかろうじてきさせられていたボロボロの、洋服とすら形容し難い布切れ1つでそこから放り出されたというのだ。

 その瞬間は自由になったと思っていた。だが、そんなことは誰も許してはくれなかった。

 一度(ひとたび)人に出会いでもすれば近寄るなと石を投げられ、罵詈雑言を浴びせられ、決して口には出せないようなことをされたこともあったという。

 それが長い間、続き続けたと言った。

 そこから数年、彼女はある時を境に盗みを行ってかろうじて命を繋ぎ止めていた。自らに危害を加えようとするものたちには、死なない程度の武力を行使することもあったという。だけどそれでも、決して殺しだけはしなかったそうだ。

 ただそんな時、彼女に転機が訪れた。

 ふらりと立ち寄ったその建物で、彼女の父だった者の姿を見たというのだ。

 とても豪華な建物だったという。その中に彼は、静かで優美であろう外向きの顔を貼り付けて、ゆっくりと入っていったというのだ。

 ……そうだ。そこは、迦具夜姫がいるその場所であった。

 手には何かを持っていて、それがなんなのか、彼女はすぐに理解したという。

 数刻が過ぎて、その者たちがその建物から出てきた。肩を落としていたところを見るに、うまくいかなかったのだと思う。

 それからある方向に足を向けると、彼女もそれのあとをつけた。

 するとその先は、当然の如く彼女にとって思い出したくもない場所であった。

 ただ彼女はそこで数日滞在することを決めたという。もちろん野宿でだ。

 彼女はそれを、自己満足だと短く結んだ。

 それから程なく、いつになく慌ただしい雰囲気がし出したという。この時期と重なるように、かぐや姫はこの地を去っていた。

 気づけばあの者は護衛と思われるものたちを引き連れ、どこかへ進み始めていた。

 もちろんの如くあとをつけると、あの建物に辿り着く。

 そこでより一層高貴な雰囲気を漂わせる者……言うところの帝と合流し、ある場所に再び歩み始めた。

 ……そここそが、件の山だったという。

 多分、1番今に影響をしていると言う意味で、先ほどの話の中で1番違うのはここであろう。

 まず前提として、妹紅さんは自分で薬を飲もうとなんてしちゃいなかった。逆に、“飲まされた”のだというのだった。

 まず、護衛は全員殺していた。これは予想はできていた。……だけど、どうしてもあの者は……帝ともう1人だけは殺さなかったと。殺さなかったと、恨み言を連ねるかのようにそう言った。

 ……帝の盾となるように、あの者が出ていたから、と。

 自分自身が“できなかった”理由は自分でも未だにわからないと、捨てるように小さく吐いた。

 だがそれは、相手にとってあまりにも都合が良すぎることだった。

 彼女がそう言ってるからにはただの妄想にしかならないが、彼女の方は、家族に対して無意識のレベルで、ほんの僅かながらにでも情があったから殺せなかったのだと思う。

 だけどそれを、当然のようにあのものの方は持ち合わせていなかった。

 持っていた槍で、1突き。(はらわた)を貫かれたという。その“貫かれた”という事実を認識したその刹那に、口の中に流れてくる何かを感じたといった。けれどその瞬間に意識を失い、この話に確証は持てていないとも言った。

 ただその時は、少しは復讐ができただろうと思って、心残りはあるものの満足をして死を受け入れたことははっきりと思い出せるとも語っていた。

 ……だけど、終わらなかった。……否、そこからだった。

 彼女はその後、何事もなかったかのように目を覚ましてしまったのだ。

 そこはもはや言わずもがな、あの牢屋の中で。

 そうして……それから彼女の言っていた、“実験”が始まった。

 蓬莱の薬を飲み、不死身となった彼女で、だ。

 ありとあらゆる拷問が、彼女のその身で行われた。

 どれだけのことをしようが死ぬことはない実験台(モルモット)。それが、まわりからの共通認識となってしまっていた。

 時に四肢を切り落とされ、時に文字通り腑を抉り出され、時に脳みそを曝け出され、時に心臓を潰された。

 非人道なんて、そんな言葉では全く足りないと思えるようなことをされ続けたらしい。

 はじめて死んだのはその時が初めてで、そんなにも死んだことはそれ以来ないとも、生気のない目で言っていた。

 数ヶ月、あるいは数年そのものたちのされるがままにされ続けて、ある日、ついに動き出した

 ほぼあの時に死んでいた、枯れていた生存本能が少しずつ時間を経ていくに連れて、生死を跨ぐにつれて、それすらも再生を始めていたのだった。

 きっかけはない。そう言った。

 翌る時。サれる直前で、完膚なきまでにソレをしようとした者を返り討ちにした。自らの臓物を体に巻きつけ、自らの血液を全身に浴びた状態で。

 彼女を止められるものはいなかった。殺して死なない彼女のことを、止められるものなんていなかった。

 それから間も無く、彼女は“あの者”のところまで辿り着けていた。

 こちらを見る目は、今までとは全くの別物になっていたと言う。

 ……恐怖。それのみしか、彼からは感じなかったと言っていた。

 足がすくんで逃げ出そうにも逃げ出せない、大火事となった屋敷の中で、言葉の一つも交わさないまま、せめてもの情の下、一瞬で命を刈り取ったという。

 “その時に流れてきてくれた涙が、私が人という存在である唯一無二の証明だ”。静かに、だけど淡白にそう言い放った。

 ……そして同時に、この瞬間に、“本物”になったと。なってしまったともいっていた。

 周りがいつも言っていた。

 絶対に、心までそうなるまいと誓っていた。

 ……救いようのない、“化け物”に。

 そうすれば救われるなどと、そんな幻想を信じていたから。


「……だから」


 掠れて小さく、本当に消えてしまいそうな声で、彼女は嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。


「私が……人殺し()のことを許せないんだ、嫌いなんだ、受け入れらんないんだ……どうしようも、ないんだ……でき、ないんだよ……!」


 僕は、この話を聞き終えて。あまりにも……あんまりにも“莨シ縺吶℃縺ヲいる”と、そう思った。

 彼女は大粒の涙を目尻から絶え間なく地面にこぼし続けながら、どこまでも続くようなその何もない表情(かお)で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……だから呪ったんだ。私が私であるために。……自分を守る、そのためだけに……私がしたこと全部……忘れてしまわない、そのために……」


 彼女は自身の服を掴んで、グシャリと大きなシワを作る。


「……だから、怨んだんだ。輝夜(アイツ)が全部の元凶だって思って、私のイきる理由にしようとしたから。だけど私は、どこまでいっても不器用だから。殺す以外にその方法が浮かばなかった」


 僕に視線を合わせてくる。

 ……その目は、どこまでも濁って見えた。


「もしももっとずっと早く知れていれば、もっと他にやりようはあったはずんなんだ。……もっと早く自覚していれば、“化物”として、生きていくことができいたんなら……それ、なら……!」


 ギシリと、歯を食いしばる音がした。グニャリと彼女の表情が歪む。

 気づけば彼女の口の端から、一筋の血が流れていて、涙と混ざって薄くなって、おんなじように地面に静かに落ちていた。


「……痛いんだよ」

「……」

「死んで、生き返った時。そん時、言葉が出ないくらい痛いんだ。いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも……死んだほうがマシだって、そう思うくらいに痛いんだ。火が体を焼いて、無理やり体を引っ付けて、止血して、血管をつなぐ。熱くて、熱くて……たまらないんだ。……だから。だから……死ぬのは、怖いんだ……」


 蹲って、肩を抱いて、涙を流して、その言葉を絞り出していた。


「私は、弱いんだよ。なににおいても中途半端な私は……だから……だから 呪ってんだよ……!!! “全部私のせい”なのに、それの何がいけないんだよ!!!!」


 その瞬間のことだった。

 唐突に、息すらできないほどに張り詰めた空白が訪れる。


「……あぁ、そうだ。……全部、私が悪いんだ」


 独白のように、懺悔のように、言葉が並ぶ。


「自分勝手だから。持ってないから。気持ち悪いから。不死身だから。モルモットだカら。よワいから。人ゴろシだから」


 その時。彼女は深く、笑っていた。三日月のような笑みが、その顔に貼り付けられていた。


「だからずっとイヤだったんだ。私自身が、まるで人間のように平然と生きながらえているから」


 その瞬間の出来事だった。

 彼女の片方の手から、空全体を照らすほどの火柱が建てられた。

 それはなぜか、だんだんとその規模を縮めていき、強い光がこの場を満たした。

 思わず目を瞑り、その光が弱くなったことを瞼の裏で感じ取ってから、彼女の方に視線を向けた。

 ……そこにいたのは、“青い炎”を片手に宿した彼女だった。

 

「……っ!!!」


 思わずたじろぎ、後退る。それと同時に無意識に、あのナイフを作り出していた。

 だけどすぐそれが、悪手であることに気がつく。

 端的に言おう。彼女の身体が溶け始めていたのだ。

 ボトボトと、液状化したその皮膚が、地面にまるで泥のように落ちていく。彼女自身の再生すら、追いついていないことが見てとれた。


「妹紅さん!!!」


 名前を叫ぶ。だが当然のように、彼女には届いていないようだった。

 そして次の瞬間、今度は彼女の全身を覆うように、あの時を彷彿とさせるレベルの規模の炎が現れる。


「落ち着いてください妹紅さん!! ダメです、そんなことしちゃ身が持たない!!」


 聞こえているかどうかさえわからない。ただ一つ、届いていないことは確かだった。

 青色の炎。それは、赤色のものよりも威力が強いことなんて、何を見るよりも明らかで。

 ここで止めなきゃ、どうなるかが想像すらもできなかった。

 ……どうすればいい?

 …………僕には、何ができる?


「あなたはっ!! 化け物なんかじゃない!!!」


 僕の思いを、藁にもすがる思いで口にした。

 瞬間。ギロリとこちらを見やる視線が1つ。僕の体を容赦なく射抜くように向けられた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。その手が僕に向けられる。

 ……そして。

 気づいたときには、彼女のその“手”が落ちていたのだった。

色んな意味で心労えぐすぎてまじで書けなかった書き切れてよかった割とマジで

ということどうも皆さんこんにちは!おひささしぶりのASADEです!

本当きついマジでホント。助けて欲しいマジでガチ。

もうさぁよりずっと期間空いちゃったことに申し訳なさがありつつもやっと描き終わったって言う安堵の方が強い今。

疲れたんでわたしゃ眠ります。多分できりゃ早くあげます。

と言うわけで今回はここまで!

それではみなさん、サラダバー!!

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