第38話 “ ”の戦い
なんか話の進みがすごい無理矢理になっちゃった
気持ち悪いと思うけど許して〜!
それとワンチャンあとで変えるかもしれやぁせん
腰ほどまである髪の毛に、少しだけ違和感を覚えた。自分がゆらめいているせいか、髪の毛もゆらゆらと中空を漂う。その感覚が、なんとも言えなかった。
まぁお風呂のとき以外ではこれを外したことがなかったのだから、当然と言えば当然だが。
参考にできるものなどなかったので、試行錯誤を何度も何度もして自己流の結び方を編み出して、それでこの長さを隠してきていた。が、流石にやはりというべきか、髪が引っ張られて痛い。激しい動きをしたりすると特に。
だけどそれでも、これは誰にもバレなかった。
髪飾りの色が髪の毛の色と似ていた、というのが大きいだろう。こっちの面を並べて見たら、違いはほぼないと言っていいほどに似ているのだから。
……それかただ単純に、言わないでくれているだけかもしれないが。
ちなみに調べなかった理由は特にない。
「あなた、その髪は……?」
隣にいる永琳さんが僕に向かってそう言葉を吐いた。僕を見据える瞳孔は、綺麗な円に縮んでいた。
まぁ流石にいきなりのことすぎたから、こればっかりは仕方ない。僕だってこんなことをされたら、驚く自信しかない。
「あはは……まぁ、その話はまた今度で」
僕はなんとか作り笑いを作りつつそう言って、早々に会話を切り上げた。通るかは五分五分だったが、わかってくれたらしい。永琳さんは小さく頭を振りまた視線を戻してくれた。
……やはり隠しておきたかった。そんな思いを今だけは、胸の奥へと押し込めた。これは自分で決めたことなのだから、と。そんな言い訳を心の中で吐け捨てて。
閑話休題。
僕たちの勝利条件は、永琳さんと迦具夜さんとを近づけ、迦具夜さんにあの弾幕を当てること。もっと直接的にいうと……なすりつけること。
それをさせるためには、2人を至近距離と言えるほどまで近づけないといけない。あの弾幕は、それほどの大きさしか持っていない。
…だが、今の迦具夜さんに近づくことは至難の業以外の何者でもないだろう。最悪……あの、霊夢さんをも捩じ伏せたあの瞬間移動。あれを出されて仕舞えば、もう僕たちは……。
だが『倒すこと』よりも十数段容易なのは確かだ。まだ可能性は、完全に拭われたわけではない。
こう考えるとこれは、お祈りゲーというやつなのかもしれないね。なんて、そんなことを考えながら、先ほどまで使っていたあの髪留めを、反対にして視線を向けた。
……するとそこには、『ホオズキ』と『青いサルビア』が寄り添うようにして描かれていた。
極力バレることを防ぐため絵柄がない方を外側にしていたが……やはり少し、いやかなり勿体無い気がする。
まぁ、どうしようもないのだけれど。
因みに素材がびっくりするくらい柔らかいから、どんな角度にしても折れることはない。普通にすごい。
「そろそろ行きましょう、永琳さん。……言葉の通りに、一刻を争いますからね」
「……えぇ、そうね。……それはそうと後で触らせてもらっていい?」
……え? 今??
……こう考えると、TPOって本当に大事なんだね。
……まぁ
「………………か、考えておきます……ね?」
「ふふ、ありがとう」
あれ? いいとは言ってないんだけどな?
と、なんともまぁ緊張感のない会話を繰り広げて、無駄に入っていた力が抜ける感覚がした。もしかして、これを見越して話をしていたのだろうか?
そうだったら、本当にすごいなぁ……。感謝感謝だね。
まぁ普通に恥ずかしかったからやめて欲しいのだけれど。
そんなことを考えていたその時、ナイフを持つ手とは反対の手に、何かを握らされた。思わず、永琳さんを横目で捉える。
それを感じ取ったのだろう。僕が視線を向けたとほぼ同時に、永琳さんの口が動いた。
……
……そんなことにならないことを、願うばかりだった。
そして次の瞬間。誰からともなく心を入れ替え、ガラリと場の空気が変化した。
張り詰めた糸がそこらじゅうにあるような緊張感が、この空間を支配する。
そしてそのまま数秒の間睨み合いが続き、永琳さんと視線が交わった……その刹那。全員が、同時に動き出した。
今回はできるだけ目的を悟られることがないように立ち回るのに加えて、あの弾幕をできる限り彼女の視界から消失させる。もとい、存在を感じなくさせることに注力をする。
だから永琳さんには全面的に援護に回ってもらっていた。ここぞという時に出てもらうために。
そして僕の方は、先ほどの物に加えて、最大限迦具夜さんを疲弊させ、注意を僕だけに向けさせる。最後には迦具夜さんを、永琳さんに託す。
……整理はついた。あとは、僕が……やり切るだけだ。
永琳さんが弾幕を放ったのに合わせて、僕は背後からナイフを振るう。斬撃が飛び、それは迦具夜さんに向かっていった。
ノールックかつ当たり前のように避けたのを見てから、僕は急激に迦具夜さんとの距離を縮めて、文字通りの体術戦を仕掛けた。
ナイフは手になく、素手だった。
左ジャブ、右アッパー、ウィービング、右フック、左ジャブ、右ストレート、ローキック、ダッキング、右アッパー、ハイツキック……何度か拳が、脚が重なりもして互いに攻撃を防ぎきれないこともあった。
永琳さんの援護もあった。とてつもない速度の矢だったり、レーザーだったり。にも関わらず、僕らはやっと同等のレベル……本当に規格外なのだと、改めて実感をさせられた。
そんな絵に描いたような体術戦を繰り広げていた、そんな時。何かに気付いたように、いきなり僕の左手から少し距離が開けたところに目掛け迦具夜さんの手刀が飛んできた。
思わず心の中で舌打ちをこぼし、それを回転を加えたローキックで大雑把に防いでから、勢いを殺さないため続けるようにして飛来した永琳さんの弾幕に合わせ左で大きなフックを仕掛けた。少し思惑が外れたが仕方ない。連携も取れてるしまぁ、及第点といったところだろうか。
そして次の瞬間、突如としてあのナイフがどこからともなく浮き出て、迦具夜さんに背後から牙を向いた。だが迦具夜さんは、当然の様にそれらを、またもノールックで撃ち落とす。
その洗礼されたと思ってしまうほどの、綺麗で無駄のない動作に思わず目を奪われそうになるのをグッと堪え、あのナイフを手に戻した。
「小賢しい真似を……」
「……褒め言葉として受け取っておきますね」
「えぇ……元より、そのつもりよ。……スペルカード発動」
「!!」
「縁符『惑星の輪』」
瞬間、迦具夜さんを中心として弾幕が展開をされる。それはまるで輪のように、統一性がなく並べられているように見えた。……そこまで考えて、ようやく自分の過ちに気がついた。
目前に、いつの間にか放たれていたレーザーが迫っていた。僕はワンテンポ遅れつつも、なんとかそれをナイフで両断し、急いであそこに目を向けた。
……だけどそこには、当然の様に誰もいなくて。僕は、ブラフにまんまと踊らされたのだった。
後ろに気配を感じ、咄嗟に腕をクロスさせつつ振り返る。……瞬間。全身に、凄まじい衝撃が伝播した。
それのせいで、尋常じゃない勢いで後退をさせられ、続け様に激しい攻撃を浴びせられた。なんとか反撃に出ようとしたが……当然のように、そんな隙はなかった。
左ジャブ、右ストレート、左アッパー。……それ以降は、視界に収めることも困難なほどに早く重い打撃を喰らわされ続けた。そして輪の様に見えた弾幕のその全てが、僕を撃ち落とさんとばかりに襲い続けていた。
かろうじてガードをし続けながら、あんなあからさまな誘導に引っかかってしまった自分の過ちに対して、確かな怒りの感情を湧かせた。
一瞬攻撃が止んだかと思えば、追い討ちとも言わんばかりに鳩尾への回し蹴りが炸裂した。……そこまでやられたところで、僕はまた吹き飛ばされた。
先ほどと同等か、もしくはそれ以上の勢いで。
その瞬間、口の中から何かが溢れ出す感覚がした。思わず吹き出して、それを……血の塊を吐き出した。それを皮切りに、口の端から血が流れ出す。それと同時に、脳みにこもる熱が急激にひいていき、視界がぐにゃりと歪み、霞んでいった。
……何も考えるな。
完璧じゃなくてもいい。……感情を、殺せ。
………
……………!!
……ハハ……意味、ないじゃないか。
何も考えないようにしたところで、感情を殺そうとしたところで。
……動けないんじゃあ……意味、ないじゃないか……!!
いつもだったらできていた。……だが、できなかった。
体が悲鳴をあげていた。
心が弱音を吐いていた。
アレを吐き出した今でも、まだ僕の中には、ドス黒く気持ちの悪いものが渦巻いていた。いや、アレを吐き出してしまったことで体がその態勢を作ってしまったのだろう。
全部出して楽になりたいと、そんな甘く気色の悪い考えが頭によぎる。
……そう、端的に言えば……僕の体はもうすでに、限界を超えていた。
連戦に連戦を重ね、体力を保つことができなかったのだ。
そんな意味のない考えが、僕の中でぐるぐるぐるぐると回り続けた。
……あれだけ啖呵を切っておきながら、このザマとは。本当に……心の底から、情けない。
フッと消えた思考の波の残骸の上でかろうじてそんなことを考えて、僕は自分が先ほどまでいた方向に視線を向けた。
……するとそこには、弾幕の雨を避ける迦具夜さんの姿があった。
あの感じは……多分、永琳さんがスペルカードを使ったのだろう。
僕が受けたものとは違う、弾幕ごっこ本来のルールを目的としたような、そんな弾幕。
視界が少し霞んで、あまり良くは見えなかったが……それでも、まるで線香花火のような。そんな儚さと美しさを感じた。密度も速さも一級品だということが、素人から見ても一目でわかった。
……永琳さんに、スペルカードを使わせてしまった。その事実が僕に、ズンと重くのしかかる。
ただでさえあの最初とは比べ物にならないほどに早くなった弾幕に当たらないために移動をし続けているのに……と、そんな考えが頭に浮かぶ。
不甲斐なさで思わず拳を握り、歯を食いしばった。
……そんなことを考えている暇はない、か。
唐突に頭が少し冷めたかと思えば、ふとそんなことを考えて、僕は静かに息をつきそれを少しずつ元に戻して行った。
早くあそこに戻らないといけない。そうだ、こんなところで油を売っている暇はないのだ。刻一刻と制限時間が迫っていることを、忘れてはいけない。
だけど多分、このままでは……僕はこれ以上、動けない。
それに思ったとほぼ同時に、僕は無意識に自分の太ももを殴っていた。そこから、ズキズキとした鈍い痛みが走る。そしてついでと言わんばかりに、切り傷から、小さく血が流れた。
この状態になっているのは、僕の心が弱いからだ。心の中で、呪詛のように何十回何百回とそれを復唱をする。
昭和的な考えかもしれない。根性論、というやつであることはわかっていた。僕自身あまり、この論を好いるわけではない。
ただ、もしもその根性論に限界があるのだとしたら。……多分僕は、とうにそこを超えている。
……だけど。
今だけは、そんなことを言ってられない。
もう少しで、目的にたどり着くことができるのかもしれないのだ。
いや、もう少しじゃなくてもいい。……その道が、できたのだ。
何が限界だ、何が体力を保つことができなかっただ。そんなもの、ただの言い訳以外の何者でもないじゃないか。
こうなったのは全部、僕が一重に弱いからだ。
思い出し、そして刻みなおせ。
僕たちの目的までの、その道程を。
僕がなぜ、この戦いに赴いているのかを。
———異変を解決するためか?
否、その目的は、とうの昔に変わっている。
———ならば、異変を解決して、霊夢さんたちの仇を取るためか?
否、それは見方を変えれば、あの人たちのことを冒涜することにもなってしまう。
———それならば、永琳さんを、迦具夜さんを救けるためか?
……否。僕には、それをするだけの力がない。覚悟がない。……“資格”がない。
そんな奴が、お遊びでも“救ける”なんて言葉を使っていいわけがない。
……それじゃあ、なんだ? 上辺なんかじゃない、本当で本当の、僕だけの目的は何だ?
目的……それは、自分の『真念』に即したものだ。『真念』があるからこそ目的が生まれ、目的があるからこそ“道”が生まれる。
もしもそれがないのであれば、それは目的ではなく目標だ。
僕にとって目標は、あまりにも……高すぎる。
だから、目的を考えろ。
荒唐無稽なんかじゃない。
今の僕が手を伸ばすことのできる、その限界を。
……その、最高地点を。
その瞬間のことだった。
あの時、永琳さんからもらったものが、頭にパッと灯りが向けられたのごとくに浮かんだ。無意識に懐に入ってるそれを、僕はゆっくりと取り出した。
……それは、薬だった。赤色と青色をした、カプセル状の薬。
そして同時にあの時の、永琳さんの言葉が思い出される。
「……“最終、手段”……」
そうだ。
永琳さんはあの時、これは最終手段だと言っていた。そう言って、僕にこれを渡してきていた。どうしようもなくなった時のための、その手段。
効力も、副作用があるのかもわからないが、あの人が最終手段と言うほどなのだ。どれだけのものか、なんて。僕なんかに想像ができるはずがない。
……なぜ、僕なのだろうか?
最終手段なのなら、永琳さん自身が持っていた方が良いのではないか?
そんな無駄な考えが、無数とも言えるほどに生み出され続け、頭を巡る。
だがもちろん、そんなことに時間を使っている暇はない。
今なお少しずつ、タイムリミットは迫っているのだ。
だから、余計な思考は全部切り捨てろ。
今は、これを飲むか飲まないか。その二択しかないのだから。
……今ほど二者択一という言葉が当てはまる状況も、ないんだろうな。
目をギュッと瞑り、息を吐く。これに対する恐怖心は、当然のように持ち合わせていなかった。
そして次の瞬間、それを勢いよく口の中に放り入れ、音が出るほどに強く、飲み込んだ。
ゴクリ
その音がいやに大きく聞こえた、その数秒後。
体の芯から、小さな熱を感じた。
そしてそれは、だんだんと強くなっていって……
「……ァ、ガァ……!!?」
思わず、呻き声が漏れた。
熱い。まるで体全体を直に火で炙られてるのかと思ってしまうほどに。
これはもしかしたら……妹紅さんの時よりも……。
そんなことをやっとの思いで考えて、小さくうずくまってしまいながら、やっとの思いで耐え凌いでいく。
額からは汗が流れ、目尻には涙が溜まった。意味もなく胸に腕に当て、握りしめた。
……だけど……流石に、もう……そんなことを心の中で吐露した、その刹那。
唐突にそれは、体から完全に消え失せた。
頭がバグり一瞬放心してしまったものの、なんとか意識を取り戻し、違和感を感じた自分の身体に視線を落とした。
……“何もなかった”。
そう、何もなかったのだ。
今までの傷が、そして先ほどまでの疲労が。
何が起こっているのか、当たり前のように理解ができなかった。なぜかこれは、妹紅さんの傷が治る瞬間を彷彿とさせた。
……いや、理解できない、というより考えない方がいいのかもしれない。
僕の悪い癖だ、余計な考え事に没頭してしまうのは。それで何も手がつかなくなってしまう……なんて、笑い話にすらならない。だから、今だけは考えるな。
体は……ちゃんと、機能する。
ならもう何も考えることはない。
動く。その、たった1つの事実があれば。
だが、このまま行ってもまたさっきと同じ道を辿るだけだ。いや、よく考えてみれば、そんなの辿ることすらできない。だって今のこの状況自体が奇跡に近いのだから。
だから、何かを変えないといけない。そうしなければまず、僕はその土俵に立つことすら許されない。
だから、考えろ。
その変えるものを。
その、何かを。
……
……何を変えるか、なんて。そんなこと愚問と言えるほど単純で、簡単だ。
僕はそれの、1番簡単な答えを持ち合わせている。
………………
するしか、ないのだろう。
迷ってる暇はない。
僕は助けたいと……救いたいと、そう思ったのだ。なら、迷う必要なんてないじゃないか。
だって“これは、そのためのもの”だ。
……覚悟を決めろ。
いや、思い出せ。
僕のあの、我儘を突き通すための決意を。
どん底に落ちる、そのための決心を。
彼女たちを救うための、その覚悟を。
……永琳さんは、僕に託してくれた。鬼が出るか蛇がでるかわからないのにも関わらず。僕はその気持ちに応えなきゃいけないし、応えたいとも思う。
……だから僕も、最終手段に出ることにしよう。
もうなりふり構うのは、やめだ。
僕にはその手段がある。そして僕は、その手段を使う心構えができた。
……ならば、やるべきことは1つだ。
今度は選択肢なんかない。二者択一などという、そんな贅沢なことはない。
私情を入れるな。
そうして仕舞えば、僕はもう……本当に———これ以上、動けなくなってしまう。
深呼吸をする。自身の中にある感情という感情を全て、殲滅する。
……これから僕は……“いなくなる”。
たったの今から。この、瞬間から。
……僕は———
———“私”になる。
………………ここからは———“私”の戦いだ。
…………もう、“絶対に戦わない”って……そう、決めてたのにな。
———《制限時間》 残り 2分———
どうも皆さんこんにちは!なんか色々ごっちゃごちゃしすぎてわけわからなくなったAAsADEです!
なのでもう終わります!!
あ、多分次話は結構すぐ出ると思います。
それではみなさん、サラダニャー!
……あれ?




