第32話 裏切りとナイフ
時間が!足りない!1日!短い!!
…… すみませんでした!!
side 永琳。
あぁ、やってくれた。
この小さな少女が、やってくれた。
私の願っていたことを、叶えてくれた。
ゆっくりと流れる視界の中で、彼女がこちらに向かってくるのが見えた。
トドメでも刺すのだろうか。もう戦う意思はないというのに。……まぁ、因果応報か。
そう思って、目を瞑った。……その時。
ふわりと、花のような香りがした。なんの花かはわからなかった。
思わず一度閉じた目を開ける。
するとそこには、さっきまで戦っていた少女がいた。
「……何を……?」
動かしづらい口をゆっくりと動かしながら、そんな言葉を吐き出す。自分がここまでのダメージを受けていたことに、少しだけ驚いた。
……今私はこの少女に、お姫様抱っこをされていた。
「……この空間から、抜け出す方法はありますか?」
「……は……?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
何を言っているのだろうか、この少女は。
抜け出す方法?いったいなぜ、そんなことを聞く必要があるのだ。
……まぁ、私は敗北者だ。勝者に対して、逆らう権利は持ち得ていない。
だから私は、ゆっくりと口を開いた。
「……この空間は、姫様が作ったもの。だから、姫様が倒されれば、自然とこの空間は“消滅”するわ」
「それじゃあそうしたとして、僕たちが抜け出せなくなる、ということは?」
「ないわ。それは、この世に存在しないことになると同義。理に反すること。……だから、それだけは断言できる」
「そうですか……ならば、永琳さん。あなたにまだ余力はありますか? ……って、聞くのは、酷でしたね」
「……」
私はその言葉に、無言を返した。
所謂、無言の肯定だ。
それを汲み取ったのか、その少女はゆっくりと視線を外した。その視線は、博麗の巫女と姫様が戦闘をしている場所へと注がれる。私も釣られて視線を移した。
やはりというべきか、博麗の巫女は防戦一方のように見えた。この少女が戦いに加わるか、もしくは白黒の魔法使いがあの戦いに加わるかをしなければ、状況は変わることはないだろう。……それにまだ、姫様は本気を出していない。
そんなことを考えていると、近くから視線を感じた。あの少女が、黒色の瞳でこちらを力強く射抜いていた。
吸い込まれそうな瞳をしていた。どこか……強いものを感じた。
そんな瞳に、私は目を奪われた。
「———永琳さん」
そんな彼女の言葉に、私はハッとした。小さく息を吸ってから、彼女の言葉に耳を傾ける。
「僕はあなたに1つ、やってもらいたいことがあります」
「……今の状態でもできることなら、私は手を貸すわ」
「いいえ、“今の状態”ではありません」
頭に疑問符を浮かべると同時に彼女は、懐から一枚のスペルカードを取り出した。
「このスペルカードを使って、あなたの中の全ての疲労や怪我を、一時的に外に出します」
「……そんなことをして———」
「話はまだ終わっていません」
その声に私は、小さく威圧された。
凝縮された圧に、私は少しだけ、気圧された。
「このスペルカードの効力は、今の僕では5分間続きます。……いいえ、5分間しか続けることができません」
彼女は淡々と、そう言葉を並べる。
「だから僕は、その5分の間に霊夢さんに加勢して……あの方を、倒します」
「なっ……!」
思わず、声が漏れた。
「そんなことできるはずがない!だって、姫様は———」
「できるできないの、話ではないんですよ」
いきなり、優しい声色になった。
「例え出来なかろうとも。……そうしなければ、あなたの“成す”可能性すら捨てることになってしまう」
「!」
「あなたは強いです。そうでなければ、自分を曲げることができない。……でも実際問題、僕たちだけであの方を退けることは、難しいことなのでしょう」
だからと、彼女は前置きをして。私にこう告げてきた。
「力を貸してください」
「……私に仲間を、裏切れと?」
怒気を孕ませ、鋭い視線を向ける。……これが私にとっての、せめてもの反抗だから。結局のところ、今の私に拒否権など存在していないのだ。
だけど彼女は、その表情を変えることなく、続ける。
「違います」
先ほどよりも力強い声が、私の耳朶を叩いた。
「僕はあなたに頼み事をしているんです。……それは、命令じゃない。敗北者だから、なんて。そんなこと考えなくていいんです」
ゆっくりと、言葉が紡がれる。私はその言葉に、驚きを隠せなくなっていった。
「それにあなたはわかっているはずです。……これは、何者かによって引き起こされたものなのだと。……誰よりも最初に、そして深く。理解をしているはずです」
「……なぜ、そう思うの?」
思わずそう問いただした。困惑が表に漏れてしまう。
……それは、図星だったからだ。
「あなたが一番、わかっているはずですよ」
「……」
沈黙を、また返す。……否、返してしまう。
……あぁ、そうだ。それは、それを物語っていたのは。……全て、私自身の行動のだから。
この問いに、意味はなかったのだ。
「まぁ、僕には分かりませんが、あなたとあの人はそれなりに……いいえ、そんな程度の言葉じゃ表せないくらいには深い関係なのでしょう。だから断っても、僕に文句を言う資格はありません。……仲間と敵対するのは、辛いことですからね。
そう言ってから彼女は、そのスペルカードを発動させた。その時の彼女の目は、どこか、遠くを見ていた気がした。
白色の弾幕が、たったの1つだけ浮かぶ。なぜか私は、その弾幕に目を奪われた。
ゆっくりと迫ってくるそれを、私は争うことなく受け入れる。その刹那、ほんの一瞬頭が真っ白になる感覚がした。それを認識するのには数瞬の時間を有した。
そのすぐ後に何かが内から吸われた感覚がした。かと思えば、私の中に溶けたはずの弾幕が、色をつけて外に出てきた
そして気づく。痛みや疲労、それらが全て消え失せていることに。精神的な疲労すらも、少し回復をしているように思えた。……加えて、先ほどまで伽藍堂だったはずの魔力が、今は戦う前……否、それ以上までに増えていることに。
これは……
「……あなたの、魔力?」
「……ご明察、です。永琳さん。一時的に外に出すだけで、魔力とかは戻りませんからね」
いたずらっ子のようで、それでいて優しい笑顔を彼女は浮かべた。
純粋に可愛いと思った。頭撫でたい愛でたい。
……おっと、欲望が。
「先ほども言った通り、僕は強制はしません。その代わり戦わないのなら、どこか安全なところへ身を移してください。……ただ、これだけはわかっていて欲しいです」
そう言って彼女は私を放して距離を取り、身を翻して。私に背を向けたまま、こう言った。
「僕は、あの人を倒すためじゃない。……救うために、戦いにいくということを」
その時の、彼女の背中は。何故かやけに、小さく見えた。
次の瞬間、彼女はものすごいスピードで、あの戦場へと突っ込んでいった。
取り残された私は、思わず彼女に手を伸ばす。ただただ衝動的に、何の意味もなく。
だがそれは、当然のように空を切る。
その時、私は頭の中で、あの時の何かを堪えるような彼女の表情を反芻させていた。
小さく腕が振動して、だらりと腕が垂れた。すると何故か、あの弾幕に視線を吸われる。
その弾幕は、どこか濁っていて、だけどやけに綺麗に感じるような。そんな青色をしていた。
それを見た私はどこか、スッキリとしていた。
side 藍奈
弾幕を放った。
それは一直線にその女性……姫様と呼ばれていた人に向かっていく。
名前は……申し訳ないが、浮かんでは来なかった。
「……蟲が一匹増えたか……」
「……!? 藍奈!? え、永琳はどうしたの!?」
霊夢さんがこちらに振り向き、声をかけてくる。
「大丈夫です。もうあの人が危害を加えてくることはありません。……少なくとも、今だけは」
次の瞬間、あの女性から弾幕が放たれた。それは、霊夢さんに向けて放たれたようだった。
「……! 前!!」
思わず、そう叫ぶ。
ハッとしたように体を震わせた霊夢さんは、ノールックで身を捩り、その飛来してきた弾幕を交わした。
……すごい。
「詳しい話は後です。今は、一刻も早く倒さないといけない」
「……何か、あるのね?」
「……はい」
僕がそういうと、霊夢さんは手に持っていたお祓い房を構えた。
「藍奈……あんたはちゃんと、戦えるんでしょうね?」
「えぇ……もちろんです」
そういえば、僕が戦っている時に毎回霊夢さんや魔理沙さんはいなかったなと。そんなことを考えた。いても終わった後だったり。……確か。
あの弾幕が最後だったらしい。永琳さんと戦っていた時でさえ時たま飛んできていた弾幕が、今はぴたりと止んでいた。
……そうだ、僕も何か手に持ったら、それっぽくなるかな?
そんな考えがふと頭をよぎり、数巡の思考の末、僕はあの力を使って1つのものを生み出した。だけどそれは、僕が考えていたものとは少しだけ違っていて。
瞬間、僕の思考は、小さく焦げた。
違和感に気づいたのであろう霊夢さんが、僕の手に視線を注ぐ。
「藍奈それ、どうやって……いえ、今はいいわ。……あとできっちり、聞かせてもらうわよ」
「……お手柔らかに、お願いします」
「私にとっては博麗の巫女も、ポットでのあなたもただの蟲ケラにすぎない。……だけどそれでも、あなたは……あなたたちは。
私を、楽しませてくれるの?」
「言わせておけば、言ってくれるじゃない。……なら私たちも、満月を取り戻させてもらうわよ。……容赦なく、ね」
「……最善は、尽くしますよ」
すぐに視線を外した霊夢さんの言葉に、僕はそう反応して。
ギュッと力強く、その手にある“浅葱色のナイフ”をくるりと反転させ、握りしめたのだった。
———残り時間 後 5分———
どうもこんにちは!
もうちょこっと作業スピードを増やしたいASADEです!
2つのことを同時にできたらまだ楽なんですけど……できないんですよねぇ……頑張っても頑張っても。
えぇそんなことよりもですね?私、決めました。
これからは書き溜めに書き溜めて、それから一気に投稿する形にします。
その方が一気にどばぁって読めるしいいと思うんですよ!
できたら今回、できなければ次回からそうします。
それでは今回はこんなところで。
……まじすんませんでした。
それではみなさん、サラダバー!




