第24話 上辺の言葉と仮初の心
誰かを救うためならば。僕は、どんなものにでもなって見せよう。
例え心が拒んでも、誰かを救うためならば。僕は、装いを語り続けよう。
それで、どれほどの嫌悪感を感じようとも。
それで、どれほどの侮蔑をし、されようとも。
僕は、自分にすら、嘘をつき続けて見せよう。
それで例え、自分が……“ !9@7)- ”が———。
それから、数分が経過した。
落ち着いた僕達は、そのまま別れて各々の行動をとった。……わけではなく、あの男性に少し話がしたいと言われた為、場所を変えて、お団子屋さんの縁台に腰を落ち着かせていた。
僕とあの男性は頼んだお団子を挟んで、隣に座っている。
ふと、互いにお団子を食べ進めていた時、あの男性がゆっくりと言葉を並べた。
「本当に今日は、ありがとな」
咄嗟に口が動きそうだった。だけど、無闇矢鱈に否定するのは違うと思った。
だから、喉元まで来た言葉をグッと、お団子と共に飲み込んだ。
だって、僕は彼のその言葉に、どれほどの想いが詰まっているのか。それが、僕には知る由すらなかったから。
だから敢えて、それに関しては触れずに、別話題を振った。
もうこれで、あの話は終わったのだから。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕の名前は魅黒藍奈。最近幻想入りをした者です」
「そうだったな。遅れてすまない、俺の名前は嶼禹熹。婀裡茅嶼禹熹だ。食事処を経営している。よろしく頼む」
そう言って差し出された手を、僕はそっと握った。
……経営者さんだったんだ……
その男性……婀裡茅さんは僕より4回りくらい背が高く、肩幅が広くガタイが良い。
茶色い目をしていて、彫が深い。
体型に見合ったダンディな顔付きが更に格好良さを引き立たせてる気がした。
普通に羨ましい。
髪は短い刈り上げ。顎髭と少しだけ突かながっているようにも見えた。
「……それじゃあ、自己紹介も程々にしてそろそろ本題に入りましょうか」
「そうだな」
婀裡茅さんはそう短く返して、姿勢を正した。
僕は真っ直ぐと向けられる視線に、逸らすことなく見据える。
「知り合って間もない奴にする話じゃないってことは、十分に理解してる。……でも、それでも、一緒に直してくれると言ってくれたお前には、どうしても知っておいて欲しいんだ」
そう言う彼の顔には、汗が滲んでおり、迷いの感情が浮き彫りとなっていた。
目を瞑った婀裡茅さんは、どこか昔を懐かしむような声色で、小さく語り出した。
「……2年前まで、俺には家族がいたんだ。歳食った俺の両親と、眉目秀麗な妻。2人の子供もいた。今俺が営んでる店は、父のものなんだ。そのときはすげぇ賑わっててなぁ……この人里の中じゃ、1、2を争うくらい人気だったんだぜ? ……もう今じゃ、そんな面影はつゆほどもないんだがな」
自嘲気味に、ふっと笑った。
僕は、何も言わない。まだ、そのときじゃない。
「家では笑顔が絶えなかった。ずっと、この幸せが続いて欲しいと……続くと、ガキの頭の頃からずっと、そう考えてた。……だけど、そんな甘い話なんてなかった」
婀裡茅さんの声は、また、震えていた。
「あの年の、1番寒かったあの日。……あの日に、俺の、全てが変わっちまった」
「……」
「妻方の母親が殺されてた。それの後を追うように見える形で、俺の父親も死んでいた。あとからわかったことだが、同刻のことだったらしい。そして、連鎖するように妻の父親と、俺の母親も、同じように死んでいった。それからから妻が……佳織がだんだんとおかしくなっていて、終いには子供まで伝染した」
そのとき、僕はその女性が……佳織さんが殺されてしまった理由を、聞くことができなかった。僕から、聞かなければならなかったことなのに。
更にか細くなった声で婀裡茅さんの口から語られ続けた話は、1人で受け止めようとすることが到底できないような、大きすぎるものだった。
……全ては仕組まれたもので、婀裡茅さんの周りの人の関係者にも手を出していた……か……。
最後まで話し終えた後の婀裡茅さんの顔は俯いているのにも関わらず、ぐちゃぐちゃになっていることがはっきりとわかってしまって。本当に僕なんかが聞いて良かったのだろうかと、そんなことを思ってしまった。
……いや、違う。
彼は、僕だからこそ話してくれたのだ。
……ならば、僕が投げる言葉は、1つしかないだろう。
彼の決心を、無碍にしないためにも。
僕は小さく、その言葉を彼に投げた。
「一度、立ち止まってみてください」
ハッと、彼は顔を上げた。
その表情は驚きに染まっており、何を言っているんだと、眼差しで問いかけてきているのがわかった。
僕はそのまま、静かに言葉を並べていく。
「あなたは……厳しい言い方をすると、現実から目を背けるために、自分から、逆風が吹く蛇行を無理矢理に進もうとしているんです」
「……っ」
……この様子だと、図星なのだろう。
慎重に言葉を選びながら、ポツリと、そんなことを考えた。
「だから、一度だけ立ち止まってみてください。それが怖いというのなら、僕も一緒に止まります。それから、これまでのことを思い返して、進めなくなってしまったとき。僕が、あなたの手を引きます。……そうすればきっと、あなたは、本当の意味で前に進むことができると、そう思うから」
体を沿うような風に撫でられ、髪が少し揺れたのを感じた。
それに釣られるようにして、静かに口を動かした。
「昔を捨てて、前に進むためじゃない。昔を拾って、前に進むために」
「……お前は……魅黒は、どこまでわかってんだ……?」
カラカラと、静かに笑い声が響く。
目を向けると、彼は、嬉しそうに笑みを浮かべながら、一筋の涙を流していた。
先ほどまでとは全く違う、喜びからくる涙。
少なくとも僕には、そう見えた。
「ふふ……さぁ、それは僕にも分かりかねますかね?」
悪戯心を込めながら、自然と溢れた微笑みを彼に向けて、そう返した。
……僕には、彼の気持ちは、断片気にはわかるから。こんな軽口も、必要だと思った。だからこそのもの。
……ただ、そんな言葉を並べて終われるのならば、ここに、僕はいない。
どこかから響く楽器のような音を右から左へと流しながら。僕は、静かに、イザベルの色のような本心を、心の奥底へと隠して、言葉を紡ぐ。
「結局のところ僕は、あなたが幸せになって仕舞えば全て解決する話だと、そう思ってるんです」
「……?? ……どうゆう、ことだ……?」
「だって、家族というものは、僕自身、幸せを分かち合うものだと、そう思ってるからです」
まだ少し、納得のいっていない表情を浮かべている彼に向かって、静かに続ける。
「もちろん、そんな素晴らしいものだけじゃないということは、痛いほど知っています。虐待やDV、上げていったらキリがありません」
ただの、机上の空論だ。
「……ただ、あなたの話を聞く限り、あなたの家族は、誰かを想える人だった」
ただの、知ったかぶりだ。
「ならば、あなたが……處禹紀さんが幸せにならなければ、あなたのことを想う人々は、あなた自身が想う人々は、本当の意味で幸せにはなれないと。少なくとも僕は、そう思うんです」
ただの、醜く汚い綺麗事だ。
……だけど、そうだとしても。僕は……僕だけは。
「だから、大丈夫です」
この小さな真念を、貫かなければ。
「……ハハ……ハハハ……!」
止まることを知らないように彼から流れ続ける涙を彼は気にもとめず、今日1番の笑顔を浮かべながら、こう言った。
語彙力がなかったから呆れられてしまったのか、という考えが、一瞬浮き出て霧散した。
「語彙力ってもんが、ねぇなぁ」
それからの、数分間。この場所には、笑い声だけが響いていた。
「ありがとう、あんたのお陰で、救かったよ」
どこからか聞こえていた音楽がいつの間にか止み、段々と太陽が隠れようとしていたその時、そんな言葉を、婀裡茅さんは突拍子もなく呟いた。
彼の顔に目を向けると、先ほどまでのようなどこにも見当たらなくなっており、決意が固まったのだということが伺えた。
「いいえ、お礼なんていりません。……逆に、ありがとうございます」
「……? 何言ってんだ、礼を言うのはこっちだぞ?」
「いえ……僕は、あなたのお陰で、少しだけ、自分を見ることができたから。だから、ですよ」
「……ハハ、そうかよ」
「はい」
正直、助かった。この話について、あまり言及はされたくなかったから。
「それでは、僕はこの辺で。もうそろそろお買い物を再開しなければ、夕食に遅れてしまいますから」
「そうか。……すまなかったな、こんな長い間呼び止めてしまって」
「そんなこと思わなくても大丈夫ですよ。僕もあなたとお話ができて楽しかったですし」
「……そうか。……今度ウチの店にもこいよな。どんとサービスしたるわ」
「ふふ、楽しみにしていますね」
そう言い合って、僕らは、別々の道を辿っていった。
……というかこれ、間に合うかな……?
「……アンタ、その食料どうしたの?」
「いや〜……えっと……あはは、それが……ですね」
現在時刻17時程度。僕は博麗神社に帰ってきていた。
そして今、僕の両手と背中には大量の食料が入った風呂敷が5つほどある。
流石にやりすぎだと思ったでしょう?僕もそう思いました。
「これ……何ヶ月分あるのよ……」
「帰路の途中少し計算してみたら……だ、大体、4ヶ月分、でしたね……」
「……」
「……」
「……アンタ、もしかしてついに盗みを……?」
「だ、断じてそんなことはやってません!! というかついにってなんですか!?」
「だって、アンタ食べる量私の半分かそれ以下くらいしか食べないじゃない」
「僕はあれでも結構頑張ってる方ですよ?」
「……これから少しずつ食べる量増やしていきましょうね」
やめてください霊夢さんなんでそんな温かい目で見てくるんですか本当に……。
「まぁ、その話は置いといて……本当に、これどうしたの?」
「それがですね……」
僕は人里での出来事を、霊夢さんに語った。
話が進むにつれてなんかジト目が強くなっていってる気がした。というか強くなってる。
かく言う自分も自分に対してジト目を向けたい気持ちが増していっていた。
何してたんだろう、本当。
「……何してんのよアンタ……」
「僕もそう思います……」
「……まぁ、私としては食料の心配がなくなって助かったけどね〜」
「それならまだ、よかったです」
そんな会話を交わして、霊夢さんの優しさをみに沁みて感じながら、僕は食糧庫へと足を向けた。
「……これは、宴会でも開いた方が良さそうね」
と、そんな霊夢さんの声を聞かなかったことにして。
余談だが、魔理沙さんたちは僕が出払った少し後に帰っていったらしい。
どうも皆さんこんにちは!これ投稿したら現実と向き合わないといけなくなるASADEです!
いやだ……いやだぁ……めんぢょくしゃい
まぁ、そんなこと言ってても仕方ないんですけどね。
あ、そうだ。皆さんTwitter見てくれてますか?殆ど見てくれてる人が居ないんですよ〜みなさん見てくださいよう。
まぁ無理にとは言いませんが。
それじゃあ、今回はこの辺で。
それではみなさん、さようなら〜!




