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証拠

 目の前には神崎がいる。今回の事件で、容疑者と待ち合わせをしていた人物だ。

 明智は椅子に腰を下ろし、視線を神崎に向ける。「あなたは坂倉弘次さんと、事件当日の午後十一時三十五分に会いましたね?」

「そうだ。だが、俺と坂倉が会う約束をしていたのは午後十一時。あいつは三十五分も遅刻したんだ」

「坂倉さんは、普段は遅刻などはしないのですよね?」

「しない。坂倉が遅刻をしたのが、今回は初めてだ。それは俺も驚いた」

「なぜ遅刻したかわかりますか?」

「さっぱりわからねぇ」

「坂倉さんと会った時に、何かおかしな部分はありませんでしたか? 些細(ささい)なことでかまいません」

「そうだなー」神崎は指を鳴らした。「強いて言うなれば、坂倉と会った時に感じた違和感はある。その一つが、あいつは息を切らしていなかったことだ」

 ということは、現場から神崎の家までゆっくり歩いて行ったということか。ただ、どんなにゆっくり歩いても三十五分も掛かるわけはない。やっぱり、空白の二十数分に何かが隠されている。

「神崎さん。あなたは坂倉の違和感の一つとして、息を切らしていないことを挙げました。他にも、坂倉さんには違和感があったんですね?」

「あった。違和感のもう一つは、坂倉は焦っていたな。やたら腕時計や時計を気にしていた」


 取調室を出てきた明智に、缶コーヒーを一本手渡した。

「ありがとうございます」

「気にすんな。で、まったく何も推理が出来なかったわけじゃないんだろ? お前のモットーはわかる。だから、推理出来たか出来なかったか教えてくれ」

「推理出来ました。多分、私の推理で十中八九間違いありません」

「犯人は坂倉弘次なのか?」

「警部でも教えられません」

「そうか」

 俺は缶コーヒーのプルタブを引いて、口に運んだ。

「次は坂倉さんと話しをしたいです」

 坂倉と話すのか。なら、言っておくことを一つか二つ言ってみっか。

「良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」

「悪いニュースから聞きたいです」

「悪いニュースは、良いニュースがないことだ」

 明智は缶コーヒーを飲み干してから、缶を握りつぶす勢いで持ち手に力を込めた。

「ふざけないでください」

「ふざけてない。良いニュースはまったくないんだ。上からの命令で、坂倉を刺激しないために取り調べることが出来ない」

 すると明智は、ゴミ箱に歩み寄って空き缶を中に押し込んだ。俺もその後を追って、缶を捨てる。

 明智は何やら考えているようだ。何を考えているのか、未だに要領を得ないが、まあ粗方坂倉のことを考えているのではないだろうか。

「坂倉さんの殺害動機が気になりますが、警部は動機を知っていますか?」

「さあな。知らん」

「そうですか」

「もう推理出来たんだろ? 推理の披露をしようぜ」

「まだ決定打はありません。神崎さんの家に行きましょう」

「え? 現場じゃなくて?」

「現場より、神崎さんの家の方が証拠ははっきりしていると思います」

 この殺人事件にどんなことが隠れているのか、俺にはわからない。ただ、現場より神崎の家の方が証拠があると明智が言うのなら、間違いはない。俺の役目は、明智の足となって車を運転するのみ。

「わかった。助手席に乗っとけ」

「ありがとうございます」

「構わない。俺はお前の手足となって、お前をいろいろな場所に送り出すのが使命。当然のことだ」

「では、神田警部には特別に犯人を教えて差し上げましょう」

 犯人。別に俺は興味ない。手柄が全て俺のものになる以外、興味を示すものはあまりないはずだ。ただ、先に聞いておいて損にはならないし、良しとするか。

「誰なんだ?」

「坂倉弘次さんです」

「はぁ。やっぱりあの男か。となると、空白の二十数分が余計にややこしくなるわけだな」

「はい。空白の二十数分が、坂倉弘次さんの運命を左右することになっているんです」

 そのことが、この時はわからなかった。ただ、事件解決後ははっきりとわかる。空白の二十数分が、坂倉弘次の運命を大きく左右していた。

 そんなことをつゆ知らず、俺はまた運転席に乗り込む。明智が乗ってシートベルトを締めたことを目視でちゃんと確認し、それから発車。ナビゲーションの言われたとおり、神崎宅に向かった。

 神崎宅は一軒家で、そこまで大きいわけじゃない。ただ、それなりに大成しているらしく、この家も立派と言えば立派。成功する奴が少ない中、よくやったもんだ。賞賛(しょうさん)(あたい)するぞ。

 神崎の家の前にいた数人の警察官に近寄り、ポケットから警察手帳を取り出す。

「捜一の神田だ。中に入るぞ」

「はい」

 すんなりと中に入ることが出来て、明智は俺を追って神崎宅に足を踏み入れた。リビングまで行って、テーブルに目を向ける。坂倉と神崎が酒を飲んでいた跡がはっきりと残っている。

「神田警部。このリビングにあるものを徹底的に調べても大丈夫ですか?」

「事件解決出来れば上からの文句もないし、それにここは現場じゃない。好きにいじれ」

「わかりました」

 明智は熱心に、()()()()()()()()()()()()()()()を調べていった。そして、証拠を見つける。

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