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スローライフへ!  作者: クロハムワッサン
3/3

アイゲルの忠告

「……人間のこと?」

 アリフは眉をひそめた。

「あぁ、人間のことだ。簡単に言えば、君を利用しようとする輩が現れるだろう……いや、もう既にいるかもしれない。さっきも言った通り、グリフィンは天敵が殆どいない。それに、いくら魔王でもグリフィンを従わせるのは難しいのか、これまで最前線でグリフィンを見たことはない」

 アリフがうまく話を理解できずにいるのに気がついたアイゲルは、悲しそうな顔をした。

「つまり……君とグリフが、我々のいる最前線に送られ、戦争に使われる可能性は高いということだ」

 アリフは息を呑み、震え始めた手を膝の上で握り、恐る恐る聞いた。

「あの……予め王国に伝えておくなどして、そうならないようにするのは、無理なのでしょうか」

「残念ながら、不可能だろう。適当な理由をでっち上げたとしても、王国はそれを見抜けないほど愚かではない。それに、その理由が嘘だとバレてしまったら、君は反逆者として、処刑されてしまうかもしれない。それとも、何か嘘ではない理由があるか?」

 アリフは黙ってしまった。

「……無いのだろう?」

「……何か、探せばあるかも」

 アリフの言葉を遮り、アイゲルは強めの口調でいった。

「そんな時間はないと思うぞ。俺は先程王宮に行って、今の最前線の状況を報告してきた。その時点で、君とグリフの関係について話しているものがたくさんいた。あそこまで情報が広まっていると、国が行動を始めるのも、早くなるだろう」

 アリフは再び黙り込んだ。

 体の震えが、先程より激しくなっている。

「……アリフ、これから言うことをよく覚えておけ。ついさっき会ったばかりの男に言われるのもおかしいだろうが……。いいか?国のことは気にするな。アリフは、今まで通りに過ごせ。グリフと仲良く、あの森でな」

 そう言ったアイゲルの顔には、悲しむような喜ぶような、曖昧な表情が浮かんでいた。

 その顔を見ると、アリフの体から一気に震えが消えていった。

「……アイゲルさん、どうしてそこまで私のことを気にかけて下さるんですか?お会いしたのも、先程が初めてなのに……」

 アイゲルは苦笑いして、冗談めかして言った。

「アリフが優しいから、なんてな。さて、それじゃあグリフィンに乗せてもらおうかな」

 アリフは特に追求せず、残りの紅茶を飲み干した。

「それじゃあ行きましょう。グリフも待ちくたびれているでしょうし」


 ギルドを出ると、寝転んでいたグリフが首を起こした。

「グリフ、これからアイゲルさんを乗せるけど、暴れないでね。大丈夫、とてもいい人だから」

 グリフはアリフを見つめ続けた。

 アイゲルがゆっくり近づくと、グリフは小さく唸り始めた。

「おっと……」

 アイゲルは少し気圧され、後ずさった。

「グリフ、私も一緒に乗るから大丈夫だよ。安心して。ね?」

 アリフがそう言うと、グリフはすぐに唸るのをやめた。

「よしよしいい子。こちらに来て下さい、アイゲルさん。ここの足掛けを使って跨がって下さい」

「……知らない人を乗せるのは抵抗があるだろうが、よろしくな、グリフ」

 グリフはアイゲルを乗せると、少し体を振った。

 アイゲルは振り落とされないよう、鞍に付いている手綱をしっかりと握った。

 グリフが大人しくなったタイミングでアリフも跨がった。

「私が前に乗るので、後ろから手を伸ばして、手綱をしっかり握っていて下さい。ゆっくり飛ぶよう言いますが、この子、時々ふざけたりするので」

 アイゲルは苦笑いしながら手綱を握った。

「グリフィンも悪ふざけとかするのか」

「少なくともグリフはしますね……さぁ、グリフ立ち上がって」

 アリフの声に反応し立ち上がったグリフ。

 アイゲルは普段見ない視点の高さに興奮した。

「お、おお!すごいなこれは!二メートルくらいの高さか?」

 子供のようにはしゃぎ始めたアイゲルを、アリフは不思議な顔で見ていた。

 視線に気づいたアイゲルは、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「いやすまない。つい、はしゃいでしまった。俺は冒険者を初めてそろそろ十年になるんだが、グリフィンの背中に乗るだなんて、初めての経験だからな」

 アリフは前を向き、グリフに言った。

「それじゃあグリフ、飛んで!」

 そう言われた瞬間、グリフは大きな羽を広げ、羽ばたいた。


 猛烈な風圧に吹き飛ばされそうになったが、アイゲルは手綱を握る手に力を込め、なんとか耐えた。

 そして、あっという間に地面は離れていった。

 驚きや感動、興奮などの様々な感情が一度にこみ上げてきて、アイゲルは声を出せなかった。

「どうですか、アイゲルさん。ここがいつも飛んでいる高さです。……グリフ、少しこのままでいてね」

「あぁ……すごいとしか言えないな。脚力には自身があるのだが、こんな高さまで来たことは一度もないからな……」

 アリフに聞かれてやっと声が出せたアイゲルは、景色を見渡した。

 グリフの羽ばたく音のせいで、周りの音はあまり聞こえなくなっていたが、そんなのは気にならない程の景色だった。

「それじゃあ、動いてもらいますよ?準備はいいですか?」

「あぁ、いつでもやってくれ」

「グリフ、ゆっくり辺りを飛んで」

 アリフがそこまで言った途端、グリフは勢いよく進みだした。

「きゃあ!」

「うお!」

 アリフもアイゲルも体を丸めた。

 しばらく進むと、グリフは徐々に減速し、ゆっくりと飛ぶようになった。

「グリフ!いきなりあんな速度で飛んだら危ないでしょ!落っこちたら私死んじゃう高さだからね!」

 アリフに説教を受けたグリフは、小さく高い鳴き声を出した。

「そんな甘えた声出してもダメ!いつも言ってるのに」

 再び小さく高い鳴き声を出すグリフ。

 そんな、二人を見ていたアイゲルは、大きな声で笑い出した。

「ハッハッハッハッハ!まるで親子みたいだな。悪戯をした子供と、それを叱る親を見ているようだ」

「私がグリフの親……グリフの方が、年はずっと上ですよ」

 そう返したが、アリフはアイゲルの言った親という言葉に、少し惹かれていた。


「……今日はありがとう。おかげでとても貴重な体験ができた」

「いえ、こちらこそありがとうございました。配達に間に合って、本当に良かったです」

 二十分ほど飛んで街に戻ったアリフとアイゲルは、買い物をしていた。

 薬の代金で次来るまでの食料を買うのだ。

 アイゲルは荷物持ちをしに付いていっている。

「しかし、この街には年に一度来ているんだが……いつ来ても同じ商人がいないな」

 アイゲルは露店の人達を見ながら言った。

「言われてみれば確かにそうですね。私は月に二回来るんですけど、三ヶ月くらいで人が変わりますね」

「そんなに早い周期で変わるのか……それより、まだ買うのか?もう背中の籠が壊れそうだぞ」

 背負った籠を不安そうに見ているアイゲルに、更に買った物を渡していく。

「グリフの分がありますから。朝ごはんは自分で取ってこさせてるんですけど、お昼と夕飯は私が上げてるんです」

「大変そうだな。というか、朝を取ってこさせるのなら、昼も夜も自分で取らせればいいんじゃないか?その方が食費もかからないだろ?」

「そうですけど、森の生き物を減らしすぎるのもいけないかなって思って。それに、グリフの運動も兼ねて朝ごはんは取らせてますから」

「そういうもんなのか」

 アリフは肉屋の肉を十枚買い、氷の入った袋に入れ、アイゲルに手渡した。

 アイゲルは受け取った肉を背中の籠に入れ、アリフのあとをついていった。


 一通り買い物を終えた二人はギルド前に戻り、別れを告げていた。

「それではアイゲルさん、さようなら。荷物持ちまでしてもらって申し訳ないです」

「気にするな。俺が話したいことがあって、勝手に付いて行っただけだ。またいつか会ったら、気軽に話しかけてくれよな」

 そう言って兜を被ると、一気に声が低くなった。

「はい。それじゃあ、さようなら……グリフ帰るよ、飛んで!」

 アリフの掛け声と同時に、グリフは空へ飛び、あっという間に見えなくなってしまった。

 アイゲルは見えなくなったあとも、アリフとグリフが飛んでいった空を眺めていた。

 そしてとても低くなった声で言った。

「あの方角は確か、未開の地だったはず……」

 最後まで読んでくれた方、ありがとうございます!

アイゲルさんは三十代前半の男性です。おっさんですね。

 もしよろしければ、評価や感想をよろしくお願いします。

 これからもよろしくお願いします!

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