アリフとアイゲル
初投稿です。よろしくお願いします。
「よしよし、いい子だね。ほら、小屋を掃除するから、しばらく外で遊んでてね」
人里から離れた森の中で暮らす少女『アリフ』は、一緒に暮らしているグリフィンの『グリフ』を外に出した。
小屋の掃除を始めたアリフをしばらく見つめ、グリフは空へ羽ばたいていった。
アリフの暮らす森は、一番近い村からでも馬車で一週間かかるところにある。
更に、アリフの家があるのはかなり深部なので、森に入ってから徒歩で三日かかる。
「よし、お掃除おしまい。グリフはどこまで行ってるかな」
空をしばらく見上げ、掃除し終えた小屋の中を振り返った。
「……さてと、ご飯食べちゃお。今日は街に行かないとだし」
そう言ってアリフは箒を立て掛け、すぐ横にある自分の家に入っていった。
ミアという米のようなものに、少し酸っぱい葉を乗せ、味噌汁と一緒に食べるのがいつもの朝ごはんだ。
ぱっぱと食べ終え、食器を洗い、身支度を整えた。
すると、外から大きな羽ばたく音が聞こえてきた。
「あ、帰ってきた。鞍を着けに行かなくちゃ」
外に出て小屋の中に入ると、グリフがクチバシを押し付けてきた。
「こらこら、ちゃんと拭いてあげるから。ほら、これじゃあ拭けないよ。ちょっと離れて」
クチバシを押し返すと、グリフは座り込み、頭を低くした。
小屋の中にある水桶で布を濡らし、血で汚れたクチバシを拭いた。
綺麗にしてもらえて嬉しいのか、グリフは満足そうに喉を鳴らした。
アリフは布を水桶の水で洗いながら、グリフに話しかけた。
「グリフ、今日はまた街へ行くから、乗せていってね。グリフに乗っていけばすぐに着くからさ。あ、今日は鞍をつけるとき暴れないでね」
聞いているのかいないのか、グリフはずっと喉を鳴らしていた。
小屋の隅においてあるグリフ用の鞍を持ち上げ、グリフの側に持っていくと、グリフは羽を下げ鞍を着けやすくした。
「お、いい子!そうだよー、いつもこうしてくれれば楽だったんだからね。じゃあ着けるよ」
グリフの首の付け根に鞍を乗せ、取れないようにきつく結び、軽く揺すって安定していることを確かめる。
「……よしよし。ちょっと待っててね。すぐに薬を持ってくるから」
そう言って小屋を出て、家からほんの少し離れた倉庫兼仕事場に向かった。
アリフは一応薬剤師の仕事をしている。
アリフの住む森には珍しい薬草が沢山生えており、それを薬にして売ったり、そのままで売ったりもしている。
「えーと、注文が入ってるのは、イヤシクサが二十本一束を十セットに、イタミキエの薬が二十瓶。あと……」
注文は割と多く、いつも籠がとても重くなる。
街に行くのは一月に二度で、一度目が月の上旬、二度目が下旬だ。
最初はとても重かったが、いつの間にかこの重さにも慣れてしまっていた。
「グリフおまたせ。今日も重いけど、よろしくね」
小屋に戻るなりアリフを見つめ、グリフはクルルルと喉を鳴らした。
先ほどと対して変わらない鳴き声だが、アリフには全く違って聞こえていた。
「もう、そんなに嫌そうな声出さないでよ。お仕事なんだから、仕方ないでしょ?グリフの好きな玩具だって買えなくなっちゃうよ。いつもすぐ壊すんだから」
グリフと長く暮らしているアリフには、グリフの言葉は殆ど理解できるようになっていた。
肩からお尻の半分くらいまで届いている籠を背負ったまま、グリフに着けた鞍にまたがる。
グリフも慣れた重さのようで、軽々と立ち上がり、小屋の外に出た。
「それじゃあ行こうか。いつもの街までお願いね。あんまり早く飛びすぎないでよ?いくら紐があるとはいえ、私が振り落とされちゃうからね」
アリフが言い終えると同時、グリフは重い品物とアリフを乗せ、勢いよく浮上していった。
アリフが暮らす国の名前は『ニマ』。
世にはびこる魔物との戦いに活躍している冒険者の発祥の国で、最前線で戦う冒険者を数多く生み出している。
最前線というのは魔王軍との戦いのことで、もう数百年に渡って人間と魔族との戦いが繰り広げられている。
アリフが向かったのはそんな国の首都『バトリシア』。
数多く冒険者がいて、とても大きなギルドを構える、この国の主戦力とも言える街だ。
アリフの暮らす森からでは、どんなに良い馬車を用意しても三週間はかかる。
が、グリフに乗っていけば三十分で着ける。
商品を持っていくので身長に飛んでもらう必要があるが、それでも一時間で着く。
「そろそろだよ!着陸する用意をして!」
アリフが言うと、グリフは徐々に速度を落とし、街の上空で止まった。
ギルドの周りの広い芝生にゆっくりと降り立った。
「よし、いい子。少し待っててね、ギルドの人に言ってくるから」
最初こそ大パニックを起こしたが、何度も来るうちに住人や冒険者は慣れたようで、今では気軽に声をかけてくれる人もたくさんできた。
グリフは野生のグリフィンと比べ、非常に人懐っこい。
最近では、私が少し離れた間に街の子供達を背に乗せたりしていた。
籠を背負ったままギルドに入ると、まるで待っていたかのように顔馴染みの職員『ケルザー』が寄ってきた。
ケルザーはいつも笑顔なのだが、今日はとても焦った顔をしていた。
「アリフちゃん!待っていたんだよ!」
「ケルザーさん、待っていたって?何かあったんですか?」
ケルザーは顔を寄せ、小さな声で話し始めた。
「実は、今日は最前線で活躍している冒険者が来ているんだ」
「そうなんですか。でも、それが何か?」
「……彼は君がこの街に来るよりも前から最前線に行っていて、君のことは知らないんだよ。魔物を見つけたら条件反射で斬りかかってしまうかもしれない……意味は分かるね?」
アリフは意味を察し、顔を少し青ざめて聞いた。
「そ、その冒険者さんは、今どちらに?」
「一時間前に王宮へ向かって行ったから、そろそろここに戻ってくるかもしれない。グリフは外の芝生にいるのだろう?彼が戻ってくるまではそばを離れないほうがいい」
「わ、分かりました。ありがとうございます……あ、見た目の特徴とか教えていただけますか?来られたときに姿が分からなくては、気づけませんから」
職員は後ろに振り返って、騒ぐ冒険者より大きな声で他の職員に叫んだ。
「ケルザー少し外れまーす!」
「りょうかーい!」
他の職員の返事を聞くと、ケルザーはアリフの手を引いて外へ出た。
「どうしたんですかケルザーさん。お仕事の途中だったんじゃ」
ケルザーは苦笑いをして、頭を掻いた。
「今の時間は割と混んでいてね、サボる口実に使わせてもらったんだよ。ごめんね。さて、グリフを守りに行こう」
真面目だと思っていたケルザーがそんなことを言ったので、アリフは少し笑ってしまった。
「ケルザーさんって、意外と不真面目なんですね」
「酷いことを言うな。僕だってサボりたいときはあるもんさ」
眉を寄せて言っていたが、グリフを見た途端、薄い目を見開いた。
「……しかし、いつ見ても大きいな。僕の身長が百八十くらいだから、グリフはざっと四メートルくらいか」
グリフは戻ってきたアリフの方を見ていたが、動こうとはしなかった。
よく見ると、グリフの畳んでいる羽から子供の足が生えていた。
どうやらまた子供が遊んでいるらしい。
「グリフは本当に人懐っこいな。野生のグリフィンはもっと恐ろしいものだが、グリフを見ているとそれが嘘のようだな」
「街の皆さんがグリフを気に入ってくれてよかったです。グリフもお利口さんで、敵意がないって分かれば攻撃しなくて、とても助かっていますよ」
そんなことを言っていると、ケルザーが顔色を変えてアリフの腕を掴み、走り出した。
そして、青い鎧を着込んだ冒険者の前に立った。
その冒険者は兜を被っていて顔は見えなかったが、声で男性だというのは分かった。
「何だ?どけ」
低い声でそう言われると、感じたことがないくらいの恐怖を感じた。
どうやらこの人が例の冒険者のようだ。
まだギルド前の通りで、木々に遮られグリフは見えていない。
「アイゲル様。大切なお話がございます。どうかこの少女、アリフの話を聞いてやってください」
そう言ったケルザーに背中を押され、アイゲルという冒険者の前に立った。
兜越しに怖い感じが伝わってきて足が震えたが、なんとか声を絞り出した。
「あ、あの、わ、私はアリフと言って、この街へ薬を売りに来ているのです。わ、私は離れた森に暮らしておりまし」
「何が言いたい」
言葉を遮られビクッとしたが、次にアイゲルが言ったことで、顔が真っ青になった。
「……もしや、あのグリフィンのことか?」
すでにバレていた。
「どうか!あの子には攻撃しないでください!とても人懐っこくて、決して住民の皆様に攻撃したりは致しませんので!」
アイゲルは私をしばらく見つめた。
いや、兜のせいで私を見つめているのかは分からないが、視線は感じた。
そして、アイゲルは大笑いしだした。
「ぶっ、はっはははははは!心配するな、その件に関しては、既にギルドリーダーから聞いている」
そう言いながら兜を脱ぐと、声からは想像もできないくらい若い男の顔が現れた。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
なるべく気をつけて書いてはいるのですが、文がおかしいところや不適切な表現、曖昧な表現など多くあるかもしれません。(私では気づかないところが)
暇なときに書いていく……というだけですので、更新は遅いです。
が、面白い!や、続きが気になる。などと思っていただけたなら、評価や感想をよろしくお願いします!
読みやすくなるよう、努力して書いていきます!
これからもよろしくお願いします!