「転機」
―――そうか、やはりそうなのか。
俺は憧れた旅芸人に成れず、結局は「さすらいの芸人」でしかないのか。
真理を解したようにそう納得した。
「ははっ、もうどっか行っていいぜ。やっぱりお前はマイナス芸人だ、いらねぇ」
目の前のどれかに侮辱されるように言われても、唸り声のようなつぶれた声しか出なくて、半ば無視するようにその場を去った。
無意識的に胸のポケットからなんとかカード……そう、あの子の母が作った“ステータスカード”を取り出して表示を見た。
―――「無記入」――― 【Lv-273】
旅芸人
攻撃力:14 防御力:8 素早さ:21
―――
途中まで見て、邪な存在を封印するかのようにすぐに胸ポケットにしまった。
賢者が作り出したレベル及びステータス表示は完璧に近く、間違いなくそのもの自身の力量を測り取る。ゆえに、半年ものあいだ片手間にとはいえ冒険者を続けてきた人間がそこいらの一般人とほぼ同じステータスという事実は紛れもない真実であり、同時にその人間の才能の無さを自他ともに見せつける残酷な真実でもあった。
「違う副業探すかな……」
さっきの集団が見えなくなったあたりで、そうひとり呟いた。しかしその提案もダメだダメだとすぐに首を振って否定した。
副業で定職に就くわけにはいかないし、そもそもさすらいの芸人は定住地を持たない。定住していては目的も叶わないからだ。
農村などではなくてこのような大都市ならば日雇いの仕事もあるだろうが……この貧弱なステータスが裏付ける俺個人の身体能力はハッキリ言って役立たず。人並ではあるがやはり俺は貧弱体質、半年間も危険を顧みず働いてやっと一般人なのだ。そうそうに俺よりもっと若い子に抜かされていくだろう。
そう、どんなに才能がなくても馬鹿にされようともやりたいわけでなくても、俺は冒険者としての人生を“さすらいの芸人”という生き方を成立させるために生きていかなくてはならないのだ。
何度目かのため息を吐いて、冒険者の仕事斡旋受付に向かう。
「おはようございます、今日も早いですね」
面識のある若い女性職員が元気よく挨拶をしてきた。さっきのことをまだ引きずっている俺は引きつったようにへたくそな笑顔で挨拶をする。
「なんかいい仕事ある?」
定型文となりつつある、こんな俺でもこなせる仕事はあるかと聞いた。まぁこんな俺でもできる仕事があるから冒険者をやっているのだが。
「帝都から一番近い迷宮での仕事は今日はありませんね、珍しいですが」
資料をペラペラと確認して受付嬢はそう言った。確かに半年間で帝都周辺最も攻略が簡単な迷宮の仕事がなくなるのはめずらしい。
迷宮で発生する魔物には例外なく活用手段が存在し、どんな魔物でも生活の役に立つ。だから俺みたいなやつでも、うまく立ち回れば生きて帰ってこれる場所なんかにも仕事があるのだ。
……少し調子に乗った言い方をしてしまったが、直近での俺の迷宮での仕事は魔物の生態調査のための痕跡あさりだったりする。具体的には魔物の食い残しを回収したり床に落ちた体液を集めたり、ときには糞を集めたりもする。
冒険者といえば、で必ずあがってくる魔物との熱き戦いも経験したことないし、戦闘の経験より逃亡回数の方が桁違いに多い。
ということで、仕事がないならさっさと帰ろうとしたのだが……
「あ、一つありました。魔物の討伐などの戦闘行為絶対必要のものじゃなくて、採集系依頼の項目に新着がありました」
「内容は?」
少し前のめりに話を聞く。
「えぇと……え……あ、あの説明できそうにないので依頼書をそのまま読みますね」
「『二日前にバカが居なくなった、探すのもめんどくさいから依頼を出す、あいつのことだから“アルセナールの迷宮”とかあたりに行ってそうだ、まぁ詳しくは知らんから勝手に探してくれ、見つけて連れ帰ってきたなら好きなものをやる、以上』」
「……一応採集系の依頼群の中に入っていたのですが、よくよく見たら捜索依頼ですね。依頼書も変わった雰囲気ですし、戦闘行為は必要ないですけど“アルセナールの迷宮”中難易度とされています……今はこれくらいしか条件通りの依頼はありませんがどうなされますか。ギルドとしてはあまりお勧めは致しません」
こちらを気遣ったように話す受付嬢は心配そうにこちらを見てくる。言ったはいいがやはりおすすめはしないのだろう。だからこちらもかなり悩んだ。もちろんのこと、その迷宮には行ったことがないし、中難易度の迷宮にも挑戦したことがない。だがしかし、中難易度と言えばちょうど俺くらいの冒険者が好んでいく難易度だ。
さっき言われたことが妙に頭によぎる。冒険者としてのプライドは無いが“旅芸人”としての意地が率先して前に出てくる。せっかく憧れた旅芸人になったのに成り手が俺では職業も可哀そうではないか、せめてこの最下位層のマイナスという値からは抜け出したい。
そうやって反省や臆病よりも、好奇心と向上心が前に出てしまった俺は、
「その依頼、受けます」
とだけ答えた。
帝都を囲む対魔物用の立派な壁を見上げて、馬車を待つ。今回の依頼者様は太っ腹なようで事前に移動費を出してくれていたそうだ。馬車なんて町々の移動にしか使わないもんだから仕事で使うとなると少しドキドキした。
無謀と分かりつつ依頼を受けた俺はいざとなったらすぐに逃げられるように入念に装備を確認して、目的地直行の馬車待合所にいた。
人気な迷宮だけあって馬車の数も冒険者の数も多く、ここまでの大所帯とそろって移動することなど今までなかったから少し気圧されもした。
芸人として使う小道具や衣装にお金のほぼ全てを使ってしまっている俺は型落ち中古品の安い装備で周りにいる冒険者は、朝ギルドで会った彼らほどではないが立派な装備を身にまとっていた。そういう疎外感もあって馬車の中でも萎縮してしまって固まったように微動だにせず馬車に揺られ移動した。