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第82話 近親なんちゃらは鴨の味(3)

「馬鹿。アホ。ビッチ。そもそもお前はお兄ちゃんのことなんて好きじゃないくせに。私には分かる。お前は自己中女。お兄ちゃんにはふさわしくない。汚らわしいゴミめ。死ね。死ね。死ね。死ね。死ねえええええええええええ!」


「うふふぅ。しつこい女は嫌われるわよぉ?」


 陽のヤンヤンアイちゃんと陰のヤンデレ楓ちゃんの決戦は佳境を迎えていた。


 アイちゃんは器用に、わざと致命傷を避けたダメージを受ける演出をしつつも、着実に楓ちゃんを追い詰めていった。


「嘘だ。嘘だ。嘘だ――」


「はぁい。これでおしまぃ!」


 アイちゃんが、ついに楓ちゃんの四肢の腱を切断し、みぞおちにきつめの蹴りを入れる。


「カハッ」


 楓ちゃんは地面に膝をつけて、胃液を吐き出した。


「楓。それ以上は動かない方がいい」


「いやですっ! お兄ちゃんを取り戻すまで、楓は! 楓は! 楓は!」


「ごめん。ごめんよ。楓。……父さんや母さんと同じように、俺も楓を助ける方法を探している。だから、待っていてくれ」


 俺は楓を抱きしめて、耳元で囁く。


「お兄ちゃん! 楓、お兄ちゃんの役に立てます! お兄ちゃんの敵をみんな殺して、楓とお兄ちゃんだけの世界を創れます。どうして、サードニクスなんですか。どうして、楓じゃないんですかぁ」


 楓ちゃんはポロポロ涙を流して、哀切にそう訴えた。


「あらあらぁ、まだ分からないのぉ? それは、あんたが、弱いからよぉ」


 アイちゃんはクスクスと笑って、楓ちゃんの首に手をかけて持ち上げる。


「さああああどおにくすうううううううううう」


 白目を剥くほどの目力でアイちゃんを睨みつけ、ギリギリギリと歯ぎしりをする楓。


「楓。今、俺の周りは、すごく危険な状態なんだ。母さんの所も安全とは言えないだろうけど、それ以上にまずい。だから、楓を俺の側に置いておく訳にはいかない。でも、もし、それでもというなら、まずはアイを倒してからにしてくれ。それだけの力があると示せたなら、また新しい処遇を考えるよ。一年に一回――また来年、こうやってアイと戦う機会を設けるから」


 楓ちゃんのヘイトをアイちゃんに集中させることによって、他のヒロインに害を及ぼす可能性を減らす。


 さらに一年ごとの試験という明確な目標を設定することによって、暴走を食い止める。


 これが今の俺にできるリスク管理の精一杯であった。


「そういうことぉー。お兄ちゃんはぁー、あんたみたいな雑魚はお呼びじゃないのぉー」


 アイはダメ押しのように、俺の唇に軽く口づけすると、その手を握る力を強める。


 怒涛のNTRラッシュに妹ちゃんの脳が破壊される!


「くぅ。わかり、ました。お兄ちゃん、楓は強くなって、必ず、その女を殺して、お兄ちゃんの妹に、本当の妹になって、み、せ」


 最後まで言い終えることなく、楓ちゃんはアイちゃんに締め落とされた。


「……アイ。悪役を押し付けてごめんね。でも、今の楓には生きる理由が必要なんだよ。たとえそれが憎しみであったとしても」


「いいじゃないー。アタシにとってはむしろ好都合だわぁ。あのオニキスがアタシを見る目ぇ、ゾクゾクするぅ。今度戦う時が楽しみねぇ」


 アイちゃんは、楓を地面に放り投げると、楽しげに笑った。


 アイちゃんが楽しそうで何より。


 まあ、アイちゃんはソフィアにそうしたように、敵を育てるのも好きなタイプだからね。


「そう言ってもらえると助かるよ。――じゃあ、さっさと終わらせようか」


「そうねぇ。オニキスみたいな小っちゃい獲物じゃぁ、食い出がないものねぇ!」


 アイちゃんが目に留まらぬ速さで駆けていく。


 その後のことは、敢えて詳細に言及するまでもないだろう。


 武人の矜持だろうか。


 ボスヤクザさんは、降伏することはなかった。


『勝者、成瀬祐樹。この結末は、エゼキエルの書に刻まれた』


 金の人々の声が厳かに告げる。


 俺は眠るように気絶している楓ちゃんをただ見つめていた。


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