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第78話 鳩料理はエジプトではごちそう

「神盟決闘? 聞いたことないわねぇー」


 アイは、俺からのプレゼントのナイフで鳩を狩りながら言う。


「一応、最上級クラスの機密情報だからね。でも、心当たりはあるはずだよ。研究所にいた頃、たまにダイヤちゃんとかを始めとするヒドラたちが、ボロボロになって帰ってくることとかあったでしょ?」


「――ふうん。何となくわかったわぁ。要は、お偉方のおもちゃの発表会って訳ねぇ」


 アイちゃんは鳩を解体し、用水路でジャブジャブ洗いながら頷く。


 アイちゃんは察しがいいね。彼女の言う通り、今の神盟決闘は科学サイドと魔術サイドがそれぞれの研究成果を誇示する舞台みたいになってる。


「最近はそういう使われ方をしてるけど、本来はこういう揉め事の白黒つけるために設立されたんだよ」


 神盟決闘というと、名前的に魔術に寄り過ぎてない? と思うかもしれないけど、そもそも昔は、科学と魔術は明確に分けられてなかった。少なくとも、錬金術やら心霊主義やらが幅を利かせていた中世~近世の間はね。


「歴史のお勉強に興味はないわぁー。要は、アタシがオニキスと戦えればいいんでしょぉー? あの娘、生意気だし、一度、泣いて命乞いさせてみたいと思ってたのぉー。ボッコボコにしてやるわぁー」


 アイちゃんはニマニマして言った。


 そこらにあった枯れ枝を足でかき集め、能力で着火する。


「いや、そこでお願いなんだけど、前のソフィアと戦った時みたいに、力は研究所にいた頃の力に毛が生えた程度で抑えて欲しいんだ」


「えぇー。また不完全燃焼なのぉー?」


「うん。まだ、俺には兵力が足りない。今、力を見せたら、奪われる。だから、我慢して」


 現状でも、力の質は俺の兵士たちが一番高い。でも、量が足りない。物量作戦でこられたら厳しい。ママンはともかく、シエルお兄様が怖いんで。


 今頑張って、世情不安な紛争地帯でこっそり一般兵を育成しようとしてるんで、もうちょっと待って。


「でも、オニキスはチュウ子よりも断然強いわよぉ? ナメてかかるとアタシの方がやられちゃうわぁ。アタシ、オニキスは苦手なのよねぇ。なんていうか、蛇みたいに執拗でねちゃねちゃしてるのよぉ。チュウ子みたいないい子ちゃんと違ってぇ、何をしてでも生き残るっていう、強い意思を感じるのぉー。ああいうタイプは厄介よぉー」


 そりゃあ、お兄ちゃん(俺)に執着しまくってるからね。「お兄ちゃんとラブラブチュッチュするまでは死ねない!」という一念で頑張っておられます。


「もちろん、何の支援もしない訳じゃないよ。――何秒欲しい?」


「……あのウサギねぇ。そんなこともできるのぉ」


 アイちゃんが鳩を焼きながら言う。


 勘のいいガキは嫌いだよ。


「めちゃくちゃお金はとられるけどね。――それで、どうかな。圧倒的に勝ちすぎるんじゃなくて、周りが見ても分からないくらいで、できれば、オニキス本人にも体調不良なのかな? と思わせるくらいの匙加減がベストなんだけど」


「そうねぇ。0・03秒もあれば十分かしらぁ。アタシの『勘』がいいっていう体で、相手が納得するくらいだとしたらぁ」


「わかった。じゃあ、それで」


 未来や過去への時間移動は高くつく。でも、コンマ数秒くらいなら今の俺にははした金だ。まあ、それでもパンピーが一年くらい暮らせるくらいの額なんだけど。


「はいはい、マスタぁのおおせのままにぃー。用事はそれだけかしらぁ」


「実はもう一つだけ、アイに頼みたいことがあるんだ」


「まだあるのぉ?」


 アイちゃんは、鳩を丸かじりして、気怠そうに小骨を吐き出す。


「うん。これは、俺の私的な都合でさ。オニキス――っていうか、妹としての楓のメンタルを管理するために必要なことなんだけど」


「回りくどいはねぇ。さっさと言いなさいよぉ」


「わかった。じゃあ、アイ――俺の妹になってくれない?」


「はぁ!?」


 俺の唐突な発言に、アイちゃんは鳩がBB弾をくらったような表情をした。


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